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名無しさんの次レスにご期待下さい:
「…去年の梅雨、蒸し暑い夜のことでした。私が飲み物を取ろうと台所に向かった時、それは現れた
のです。黒く脂ぎって、つやつやと光る、二本の長い触角を持った…そう、アレです。普通のアレと
比べると二倍以上は大きかったでしょうか。10cm位…そう、ちょうどそこの携帯電話位の大きさ
でした。それが台所の流しで、じっと動かずにこっちを見つめていたのです。あまりのことに私は固
まってしまいました。怖い、というのはあまり感じなかったです、それよりむしろ驚いたという感じ
でした、多分あんまり驚いたので怖いという気持ちが麻痺してたのだと思います。私はそれと目が合
ってしまったというか昆虫は複眼ですから本当はどこを見ているというわけでもないんでしょうがと
にかく目が合ってしまったまま数分間動けずにいました。私をこの硬直から解き放ったのはハルナで
した。部屋に帰ってきたハルナは台所に立ったまま動かない私を見て、声をかけてきました。
『夕映〜、何してんの?』」
「ハルナの声で我に返った私は、とたんに恐怖がこみ上げてきて、柄にもなくキャーと悲鳴をあげて
しまいました。びっくりするハルナ、私はハルナのほうを向いてどうにか事態を説明しようと試みま
したが、声が震えてうまくいきません。
『ハ、ハハハハルナ、ゴゴゴゴ、ゴ、ゴキ』
『ど…どーしたの夕映』
私は身振り手振りで説明しようとしました。私は流しを指差したのですが、ハルナはきょとんとした
だけです。おかしい、と思って再び流しに目をやると、なんとそこにいたはずのアレがいません。逃
げた!私は背筋が凍りつきました。あわてて部屋中を見回して探しました。そしてついに、状況が飲
み込めなくて不思議そうにしていたハルナの足元でそれを発見したのです。私はすぐにハルナに警告
しました。それでやっとハルナも何事か理解できたのですが、その後がいけませんでした。やっぱり
私同様ハルナも驚いて悲鳴をあげました。そして、パニックになりアレから逃げようとしたのです。
しかしあわてて足がもつれたハルナは転んでその場に尻餅をつき…はい、ご想像の通りです」
「大きかった分、それはもう悲惨なことになりました。汚液がカーペットにこびりつき、触角、足、
羽根のかけらが床に散らばり、辺りは嫌な臭いが漂いました。もちろん一番ひどかったのはハルナで
す。スカートはおろか下着にまで茶色いシミがついて、結局ハルナは両方とも捨ててしまいました。
ハルナは泣きながらすぐにお風呂に入って一生懸命に汚れを洗いました。まるで肌に染み付いた記憶
ごと擦り落とそうかという勢いです。私も泣きそうになりながら帰ってきたのどかと一緒に部屋を掃
除しました。ちなみに帰ってきたのどかは最初に潰れたアレを見て、すぐにトイレに駆け込みました。
私も吐きそうになりましたが何とかこらえて、完全とはいかないまでもどうにか部屋の掃除をやり遂
げました。本体をティッシュで何重にも包み、ゴミ袋に放り込んだときは思ったものです。
『ああ、最悪の一日でした』
しかし、それは始まりに過ぎなかったのです」