午後5時半、ネギはあやかの部屋の前に立っていた。
「いいんちょさんの部屋は此処だよね。」
名簿とドアに書いてある部屋の番号を確認し、ネギはドアをノックした。
「いいんちょさん、ネギです〜。いらっしゃいますか〜?」
―――返事が無い。
「あれぇ・・・いないのかなぁ・・・?」
あきらめかけたネギが帰ろうと足を動かそうとしたその時、
「ネギ先生・・・?」
気だるそうなあやかの声と共にドアが少しだけ開いた。
その間からは明らかに元気の無いあやかの顔が覗いていた。
「あ、いいんちょさん、無理をなさらないでください。お邪魔でしたら僕すぐに帰りますから。」
体調の悪さが目に見えてつたわってくるあやかを気遣って言う。
「いえ、そんなことはありませんわ。どうぞ上がってください。」
体調が悪いというのにネギが自分の部屋に足を運んできたのが嬉しかったのだろう、いつもと変わりない笑顔でネギを招き入れた。
「そうですか・・・。ではおじゃまします・・・。」
とりあえずあやかの部屋に上がりこんだネギは此処に来た主旨をあやかにつたえた。
「驚きましたよ。普段元気ないいんちょさんがいきなり休むんですもん。だから僕お見舞いに・・・。」
ネギがそう言うとあやかは微笑んだ。
「まぁ、私のことを心配して下さったのですか?」
「ええっ!?いや、あのぉ自分のクラスの生徒だからそれは、その、勿論・・・。」
ネギは照れたように頬を紅く染めて口ごもりながら返答した。
その後は今日の出来事や、授業での進度、等々雑談をしながら微笑ましい時間がすぎていった。
話を進めていくうちにあやかも気分が高揚してきたのであろうか、顔色も良くなってきた。
―――時間は流れ時計の短針はもう「8」をさしていた。
「あ、もうこんな時間だ。すいませんいいんちょさん、長い時間おじゃましちゃって・・・。」
「あら、ネギ先生さえよろしければいつまでも此処にいてよろしいんですよ。」
あやかがネギに微笑みかける。
「ハハ、でも早く帰らないと明日菜さんが心配しますから。」
『・・・・・!』
ネギが口にした言葉にあやかは反応し、彼女の表情が曇った。
「やはり明日菜さんでないと駄目なのですか?」
「・・・へ?」
あやかの言っていることの意味がつかめず、ネギ間の抜けた返事をしてしまった。
「やはり明日菜さんでないと、ネギ先生のお姉さんの代わりにはなれないのですか?」
かなり不安げな表情であやかが訪ねる。それもそのはずだった。
明日菜は最初の頃はネギを毛嫌いしているようであったがここ最近では誰よりもネギの近くにいる存在であり、ネギにとって最も頼れる人物になっていた。
ネギに対する思いなら誰にも負けないと思っているあやかにとっては自分がネギにとって他人よりも低い存在として思われるのが我慢ならなかったのだ。