魔人探偵脳噛ネウロ116/777

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弥子は淡々と話し始める

「最初は壮大な計画だと思ってた。だけど違った。電人HALの目的は他人から見ればくだらない願い」
「春川教授の講義の映像を見て、印象に残ったセリフがあった」

『知能を創り出すという事は生物そのものを創り出す事に似る。双方とも0から創る事はは至難の極みだ』

「HALの要求のうち、攻撃するなっていうのはわかるけど、世界中のスパコンを奪う意味がわからなかった」
「スフィンクスを増やすなら2、3台で足りるし、自分の強化のためだけにそんな数がいるのかなって」
「でも講義を聞いた時思った。至難の業、つまりスパコン1、2台じゃ不可能な事」
「ひょっとして、誰かの脳を複写じゃなく0から創る事がHALと春川教授の目的だったんじゃないかって」
「ヒントになったのは匪口さんだった。本当に欲しい人を手に入れたいなら、時に人は躊躇なく犯罪をする」
「そう思ってからは春川教授と縁がある人、特に0になった人…もう戻ってこない人を探した」
「友人知人で死んだ人はいなかった。残る可能性は、教授が様々な研究の中で人の死に関わったことがあるか」

それまで黙っていたHALは口を開く
「大したものだ桂木弥子。調べたのか、錯刃大学病院特別脳病科治療施設を」

弥子は頷き、話を続ける
「施設で貰った資料では、どれも客観的で教授がどの人に思い入れがあったのかわからなかった」
「けど友達との会話がヒントになってその資料に1と0で表せる数の単位がまぎれている事に気がついた」
「/を使い、最大21文字で、0と1の間で、そして何より彼女の症状。目的になるパスワードは、彼女の名前しか」

弥子が言い終わったところで、HALは過去を語る
7年前、春川はその施設、脳に難病を持った者が集まる治療施設で治療と研究を依頼された刹那と出会っていた
刹那の父は数学者であり、10月18日生まれなのがその名前の由来であった
刹那は一見ただの一般人であったが、1日に数回、脳が体のコントロールを失い異常なほど攻撃的に豹変していた
脳細胞が徐々に破壊される原因不明の病。その原因と治療法を科学的に探すのが春川の仕事だった
当時の春川にはどんな未知の病気であろうが治す自信があったし、彼女も貴重な実験体の一人にすぎなかった

刹那は外で大学の研究の資料集め、とアブラゼミの幼虫を捕まえていた
刹那は遺伝学、特に「自分」を保つ遺伝子に興味を持っていた
セミの場合、一生のほとんどを土中で過ごすのに残り数日は飛べるのは遺伝子の中にはっきり刻まれた「自分」があるから
決して自分を見失わない彼に私は共感を覚えます、と刹那は言う
確かな知性と、そして確かな「自分」を持っている彼女と過ごす空間は、春川にとって例えようもなく楽しかった

だがあらゆる治療も効果をなさず、彼女の脳が正常な機能を保てる時間は徐々に少なくなっていく
それは脳の破壊が進んでいること、彼女の「自分」が無くなっていくことを意味していた
刹那は時が進むにつれ、自分ではない時間が増えていく、自分が壊れていく、その事に悩んでいた
そして刹那は「私が壊れても、今の私を忘れないで。今ここで話しているこの一瞬の刹那を忘れないで」
と春川に懇願する。そして春川は彼女を0から創ることを欲したのは、その時からであった