832 名前: ◆WNCTZRfj36 :04/01/06 22:22 ID:60ftsM5y
(
>>831のつづき)
「ふう。ひとまずはまいたか」
何とか年齢を詐称し、一部屋借りることに成功した清麿がベッドに腰掛けて一息ついた。
その隣には、恵も腰掛けた。
「ごめんね、清麿君。折角のデートなのに・・・」
「仕方ないさ。恵さんの立場上、覚悟していたことだから・・・」
ちょっと表情が暗かった恵に、清麿が励ますように言った。
だが恵は俯いたままだ。
「ねぇ、清麿君・・・」
「え? 何?」
「私・・・、芸能界、引退しようと思うの」
「え・・・?」
清麿はイキナリの一言に愕然としてしまった。
「だってそうじゃない! 私は皆に夢に与えるために、この仕事を一生懸命やってきたわ! でも、普通の女の子みたいにデートもできない!」
「・・・」
「折角作った休みも、こんな事になるなんて・・・、ティオだけじゃなく、ガッシュ君や清麿君にまで迷惑かけて・・・、もう、もうこんな辛い事に耐えられない!!」
セキを切ったかの様に恵は叫び、顔を両手で覆ってしまった。
肩も震えている。
足元には瞳からの雫が静かに落ちた。
“純真な女性の涙”とは余り縁の無い生活をしてきた清麿は、困惑してしまっていた。
だがここは、彼女を、恵を悲しみから救ってやりたい。そんな気分で一杯になってしまっていた。
「め、恵さん、落ち着いて、そりゃ辛いこともあるさ、だけど、」
清麿は恵の正面に回って叫んだ。
「だけど俺は、そんな頑張ってる恵さんだからこそ、応援しているんだ」
恵の肩の震えが、止まった。
833 名前: ◆WNCTZRfj36 :04/01/06 22:24 ID:60ftsM5y
(
>>832のつづき)
「俺は・・・、俺は・・・」
清麿は幾分か躊躇した後、覚悟を決めた表情で声を飛ばした。
「そんな恵さんが、好きだ!!」
恵は、おそるおそる手を下げ、顔を露わにした。
「清麿くん、それって・・・」
清麿は、ゴクリと息を飲んだ。勢いで言ってしまった。だけど、確かに本音だった。
「清麿君、その“好き”って、私がアイドルだから? それとも、普通の女の子だから?」
恵は、じっと清麿の目を見つめていた。その瞳は、まさに純真な娘の眼差し、そのものだった。
それを前に清麿は、本音をぶつけるしかなかった。
「ふ、普通の女の子だからだ!!」
それを聞いた恵は、再び目を閉じ、清い涙を露わにした。
「嬉しい・・・、清麿君にそう言って貰って嬉しい・・・、魔本を持って闘う辛さを知ってる清麿君からそういって貰うと・・・」
恵の涙は、嬉しさの余りのものだ・・・、清麿はそれを知ってホッとした反面、かなり重大な言葉を放ってしまった事に、少し不安になってしまった。
(アイドルに告白して、その気にさせてしまった・・・)
清麿の本音だ。だが、恵が好きだという気持ちに、ウソは無かった。
暫しの沈黙。
だが均衡を、恵が破った。
「キスって・・・、どうやるのかな?」
「え・・・えぇっ!?」
清麿は突然の言葉に驚愕した。
だが恵の瞳は真剣だ。まさに一途な生娘、そのものだ。
リアルで彼氏イナイ歴の恵。そんな恵にとって、初めての白馬の王子様は、まさに清麿だったのだ。
そしてヒッキーだった清麿に彼女はいない。水野は・・・アレは妹分みたいなもんだし。
そんな二人の今の瞬間。初めて互いを「異性」と意識した瞬間だった。