道端に 紅い花が咲いていて 黒土の深遠に至るまで
木々が根を沈め 風と雲浮かぶ空空には 青とした海に生える藻のような
緑の葉々が 母なる枝を離れて踊っている 道端に
紅い花が咲いていて その傍らには 二つばかりの車輪が廻る
鉄の車輪は車椅子 凍える音で からゝと 空虚な音を鳴らす
誰も乗っていない しかし何か 不思議な神聖感がある
青春の車輪を回す 若い女学生として 学院に行くとき
学院から帰るとき 私は毎日 不思議な車椅子に 短い首を傾げていた
どうして こんなところに いつまで このような物があるのか?
ある日 学院帰りの気まぐれに 私はその車椅子に腰掛けた
車椅子は蟲の腸のように柔らかなマット 制服の腰 どこまでも沈むようで
何故か この正気の意識も沈むようだった
そして私はここが 不思議な館である事を悟った
湧き上がる水の涼やかな流れが
壁を濡らし 私の足元を濡らしている
私の服に飛沫がかかり 私の頬をはたく
水は廊下を包んだ 足元は上がり また下がり
左右に揺れる とても透明な世界を思う
風の音は消え 水はどこからともなく溢れると
たちまち目の前も後ろも 水の透明が包み込んだ
ましてや私の肉体などは つま先から髪までも
水の思うがままに濡れる 唇は水と接吻し
耳は水のささやきを聞いた水はひどく淫猥に
私の瞼へと 自由な裸を晒すと
女の胸のように豊かな全身を大きく揺らし
私を翻弄した 私は水の思うがままに
身体を委ねた スカートの中にも水は入り込み
セーラー服の胸元にも水は入り込んだ 足は太股までも濡れる
魚は自由に泳げるけれど 私は水を前に縛られている
指の先の合間にも 水はゆるゆると滑り込んだ
水が揺らぐたび 私の全身は弄られた
その触指は夏の冷たい泉よりも優しいけれど
深い吐息は獣よりも深く荒い 私の心はそのとき
水に愛されていた 愛撫するように 水は私を跳ね上げて
芳しい香りを 私に齎した 唇を開くと
水は私の舌に触れる 女の唇よりも柔らかい
甘い口づけを私はそのとき水と交わした
あるいは水たちと 私は奥へと向かっていた
――主の元へ と水はささやいていた――