「祐巳ちゃ〜ん、いくら私でもそうじろじろ見られたらはずかしいよ」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて目をそらす。鼻までぶくぶくとお湯につかって、そこで初めてなんだか甘いにおいがするのが分かった。
「あ、気がついた? これ」
聖さまが手に隠し持っていたものを見せてくれる。
「バスオイルだよ。カカオバターとか、他にも色々入ってるって」
そういって指先で固まりをほぐす。バスオイルがとけてだんだんと小さくなってく。
「チョコレートのにおいですね」
「祐巳ちゃん、甘党だから。好きかなって」
きらきら光る小さな粒がお湯の中に広がって、私たちの肌につく。
「ラメ、ですか」
「うん、ラメが入ってたみたいだ」
バスルームの中がチョコのにおいで一杯になる。
「チョコの中にいるみたいですね」
ぽつりというと、聖さまはクスっと笑って、私の髪に触れた。
「髪をほどいても可愛いね…祐巳ちゃんの髪はさしずめメイプルパーラーのミルクチョコってところかな?」
「聖さまはもっと茶色いですね。五円チョコ?」
「失礼な。ハーシーズといってほしいなぁ」
くすくす笑いながらお互いの髪を撫でる。
バスオイルのおかげでお湯がとってもまろやか、いいにおい。
ちょっとだけあった疲れがお湯の中に溶けていっちゃいそうだ。
「眠っちゃわないうちにからだ、洗おう」
せっけんはココナツの香りがするものだった。
「わあ、これ、においちょっと強すぎですよう」
それにしても、よくこんなにバスオイルとかせっけんとかが用意されているものだと思う。
「泊まる人の希望に合わせてフレグランスを変えてくれるのが、ここの売りみたい」
私の疑問を読み取ったらしく、聖さまが教えてくれた。
「祐巳ちゃんの為に、甘い香りのするもので統一してみました」
「それはどうも、ってなに見てるんですかぁ!」
なんと聖さま、バスタブの淵に顎を乗せて、こっちをじっくり見ているではないか。
とろんとした目とにや〜っとしたオヤジ笑い。危険だ。危険すぎる。
「何見てるかって、祐巳ちゃんがおっぱい洗うところとか、脇腹洗うところとか」
ああ、この人お酒入ってたんだっけ。
お酒とお風呂と甘いにおいで、脳みそメルトダウンだ。
「ゆみちゅわん。おせなかながしましょうかぁ」
ざばっ。
聖さまがゆらりと立ち上がる。
一糸まとわぬ肌を、きらきら光るお湯が滑っていく。
お湯に隠されてた聖さまのからだがはっきりと見える。
綺麗な形の胸とか、想像通りちょっと濃い目のヘアとか、腰のくびれとか。
カカオのにおいが舞い上がる。
お父さん、お母さん。
祐巳の貞操は…今夜限りかもしれません。