翌日午後、M駅前のコンビニ。
時間ぴったりについたが、他の誰も見当たらない。…なんだか嫌な予感がする。
「やっほ」
「ぎゃう!」
後ろから突然抱きつかれた。振り返ってみると、やっぱり聖さま。
「おお、怪獣の子どもはまだ健在かぁ」
私の頭をなでなでして体を離すと、「さ、行こうか」といって歩き出そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ誰も…」
「ああ、みんな来ないって」
「はあぁぁ?」
かくんと顎が落ちた。
「一本でも、ニンジン。二人でも?」
「…合宿」
こんな会話、前にもしたような気がする。
「これのどこが現役OG交流合宿なんですか?」
そこまで言って、ハッと思い至った。
「まさか、私が現役で、聖さまがOGだって言うんじゃ…」
「お、勘がいいねえ」
…頭が痛くなってきた。
「帰りますむぎゅぅ!」
慌てて逃げようとするが聖さまにがっちりつかまって引きずられてしまう。
「まあまあ、一晩なんだし付き合いなさい」
「たすけてぇ! おかあさ〜ん!」
道行く人にはただの女の子同士のじゃれあいにしか見えないようで、当然、助けてくれる人など誰もいなかった。
そのまま駅ビルの中に入ると、地下の食品売り場に直行する。
「今夜のご飯と明日の朝ごはん、あとお菓子ね」
「…食事も出ない宿泊施設なんて聞いた事ありませんよ」
もうわけが分からない。昨日の話が全部でたらめに思えてくる。
「ああ、ちょっとした事情があって、ご飯は持ち込みにしようと思うの。だから、ね?」
「うぅぅ」
こうやっていつも聖さまに流されるんだ、私。
不安だけど、それを楽しんじゃっている自分がちょっと、憎い。
買い物を済ませ、駅前駐車場から聖さまの車に乗る。
聖さまはなぜか、デパートのビニール袋をさらに大きな紙袋にいれた。
「出発!」
車に乗って1時間もしないうちに「そろそろだよ」と言われた。どうやら本当に近いらしい。
「どこですか?」
「ここ」
聖さまがウインカーをつけて敷地に入る。
…都内でも有名な、ある高級ホテルだった。