「……解ってるの?このままだったらあなた、いつまでもあんな目に遭わされるのよ?私はもう手遅れかもしれないけど、せめてあなただけは───」
「確かに私、あんな目には遭いたくありません。でも、お姉さまを犠牲にして自分だけ逃げるなんていうのはもっと嫌です。二人で挫けずに頑張れば、いつかなんとかなるはずですよ。逃げずに立ち向かいましょう、お姉さま」
三奈子は驚いた。常に冷静で物事を冷めた目で見ていると思っていた真美が、まるでいつもの自分のような物言いをしていることに。その真っ直ぐな瞳を見返す内に、涙で妹の顔の輪郭がぼやけて、揺れた。
「真美……好きよ」
「あっ……」
内なる衝動の命ずるままに、三奈子は真美の唇を塞ぐ。一瞬硬直した真美は、やがて力を抜いて三奈子の両腕に身体を預けていた。やがてそっと真美を放した三奈子は、伝い落ちる涙を拭わずに言う。
「これからも、私の妹でいて。真美」
風は冷たかったが、二人の心はそれを忘れさせるほどに暖かく火照っていた。
しかし、二人にとっての試練はまだ終わらない。その週の日曜日、江利子は“勉強会”会場の支倉家でおごそかに宣言した。
「今日は、特別ゲストを招待してあるの。……そろそろね」
その言葉を見計らったかのように、玄関のインターホンが鳴る。身を寄せ合いながら手を握り合う二人とは対照的な明るい表情で由乃が部屋を出て行き、やがて戻って来ると、一呼吸置いてからドアを開けた。
「写真部のエース、武嶋蔦子さんで〜す!どぉぞぉ〜」
「ごきげんよう、蔦子さん。“勉強会”へようこそ」
「や、どうもお邪魔します。武嶋です、本日はよろしく」
「いらっしゃい、蔦子さん」
「そんな……!?」
「あ、あなた……」
小脇に高価そうなカメラを抱え、コットンのシャツにポケットが多く付いたカメラマンベスト、下はジーンズという、実用性と機能性を重んじたスタイルの蔦子は、屈託なさげに髪をかき上げながら言う。
「なんでも、こちらでいい写真が撮れると聞きましたので」