(黄薔薇第二革命の勃発)
すでに三奈子の脳裏では、一面見出しの煽り文句がルンバを踊っていた。
あとは、取材する算段をつけなくては。しばらく思案すると、彼女はきびすを返した。
そう、築山三奈子の辞書に「あきらめる」という言葉は無いのだから。
そして放課後。三奈子は、薔薇の館に単身乗り込んでいた。
「……それで、いかがでしょう、ロサ・フェティダ。“勉強会”の取材に応じて頂けますか?」
二階の会議室にいるのは、三奈子の他に黄薔薇の三姉妹。
それ以外の幹部達は、ロサ・フェティダこと鳥居江利子の要望により席を外している。一種、異様な
雰囲気だった。由乃は敵意むき出しの視線で三奈子を睨みつけ、令は不安そうに由乃の手を握っている。
二人の右側に座った江利子は、まったくの無表情だった。
しばらくの間、部屋を沈黙が支配し、そして───
「いいわよ。取材なさっても」
「……本当ですか!?」
「お、お姉さま!?」
「そんな!私反対!絶対反対っ!」
江利子の言葉に、三人は驚愕の表情を見せる。
黄薔薇三姉妹にとって、決して他人に知られてはならない秘密。それが暴かれようとしているのに、
江利子の態度には余裕すら垣間見えた。
「ただ、一つ確認しておきたいことがあるわ。貴女には妹がいるわよね?」
「え?はい。山口真美といいます。記者としては優秀なんですけど、これが結構生意気な娘でして───あ……ゴホン。それが何か?」
「うん。出来たら、その娘も連れてきて欲しいのだけれど」
「え……真美をですか?分かりました。それでは、都合を聞いてみます」
「じゃあ、日曜の十一時に集合ね。場所は、後で連絡するから」
「はい。それでは、今日はありがとうございました。ロサ・フェティダ」
「どういたしまして。それでは、ごきげんよう」
ビンゴ。思わず心の中でガッツポーズを取る三奈子。正直な所、ここまで上手く行くとは思っていなかった。
断られたら、以前の自分の言葉通りに脅し→すかし→泣き落としの三段構えで望もうと思っていたのだけれど。
令と由乃は納得がいかなそうな顔をしていたが、やはり薔薇さまの言葉は鶴の一声。
上下関係の厳しいリリアンでは、上級生の言いつけに逆らう事は出来ないのだった。自分の判断の正しさに満足した三奈子は礼を言って意気揚々と薔薇の館を出て行った。後には、三姉妹が残された。
「お姉さま、どういうつもりですか!?取材を許可するなんて!」
「そうですよ江利子さま、あの人に知られたら、どんなことになるか!」
令と由乃は、血相を変えて江利子に詰め寄る。しかし、当の江利子は余裕さえ感じられる笑みを浮かべており、
困ったような様子は欠片も無い。
「大丈夫よ、二人とも。そんなに慌てないで。私に考えがあるから」
二人をなだめるように両手を挙げると、彼女は窓に歩み寄った。眼下に、嬉しそうに走り去って行く三奈子の姿が見える。
「いい夢を見れるといいわね」
そう呟くと、江利子はわずかに唇の端を上げ、微笑した。