「どうしたの?由乃、溜息ばっかりついちゃって・・・。」
「え・・・いや・・なんでもないよ・・・。」
不意に母親に顔を覗き込まれ、由乃は慌てて頭を振った。
それでも尚不審気な母親の顔を見て、由乃は無理やり笑顔を作ってみせる。
手術の成功で健康体になった今でも、両親は由乃の一挙一動にひどく敏感だった。
「もうすぐ試験だなーなんて考えていただけ。」
「そう?ならいいんだけど・・・。」
「それより、何か用があったんじゃないの・」
「あ、そうそう、今日ね、令ちゃん一人だから、夕飯の時に呼んで来てちょうだい。」
「え?何それ。おばさん達いないの?」
「そうなのよ。遠縁の親戚で、不幸があったんですって。」
「令ちゃんは行かなかったの?」
学校のある平日ならとにかく、今日は金曜日。明日から週末に入るのだから、連れて行っても良さそうなものだ。
「それがね、令ちゃんちょっと風邪気味なんですって。たいした事は無いらしいんだけど、
一応大事とって置いていくって言ってたのよ。」
「ふうん。」
「いくら家事が万能でしっかりした令ちゃんでも、こんな時はやっぱり心細いだろうし、色々手間だと思うの。だから、呼んできてちょうだい。」
「わかった。行って来る。」
由乃は頷くと、炬燵からゆっくりと立ち上がった。
どんなに令の事で胃が痛くなるほど悩んでいても、お隣さんであり、従姉妹である令とははこうした「ご近所づきあい」があって、結論が出ようが出まいが、それをこなして行かなければいけない。
どんなに令の事で思いつめていても、会えば、最近お父さんのトイレが長くってさ、トイレ貸してよ、とか肉じゃが大目に作りすぎちゃったからおすそ分け〜とか、そうういった事をニコニコ笑って話さなければならないわけだ。
「・・・・・本当に、まるて家族みたいだよね。」
由乃の呟きに、そうねえと母親は呑気に笑って同意した。