今更言われなくても、それは二人ともとうの昔に実感していることなのだ。
しかし確かな言葉として確認できると、乃梨子の心は急速に満たされ、壁が一つ
取り払われた。
「でも私は、志摩子さんに私のことだけを見てほしいだなんて、そんなこと、
言いたくない」
震える声を途切れ途切れに搾り出しながら立ち尽くす。
そうだ。たぶん、これが一番伝えたかったことなのだ。
言葉として口に出してみて初めて、乃梨子にはそれが分かった。
「そんなあなただから、私は好きなのよ」
無意識のうちに力が入っていた身体に、志摩子が優しく抱きついてくる。
不意に乃梨子は自分の頬に、冷たく、それでいて熱い何かが伝っているのを感じた。
乃梨子の頬には、自分でも知らぬ間に涙が流れていた。
「あなたの悩みに、もっと早く気が付くべきだったわ。……ごめんなさい、乃梨子」
「どうして?どうして、志摩子さんが謝るの……?」
抱きついていた身体を離した志摩子は、静かな瞳で乃梨子のことを見つめている。
その瞳が揺れて見えるのは、自分の目に涙が溢れているからなのだろうか。
「あなたは、本当に優しいわ」
志摩子の右手が乃梨子の頬に延び、涙を拭うようにそっと動いた。
そうしている志摩子の瞳からも、涙が一粒流れ落ちている。
その涙の粒は、乃梨子にはこの上もなく綺麗で純粋なものに見えた。
「あなたには、いつも支えてもらっているのに。これではどちらが姉なのか、
分からないわね……」
「姉とか妹とか、そんなの関係ないよ」
弱々しくそう言った乃梨子に、志摩子が顔を近付けた。その柔らかな唇が、乃梨子の
頬を流れる涙に口接けてくる。
「そんなの、関係ない……」
志摩子の柔らかな唇の感触を頬に感じながら、ぎゅっときつく目を閉じる。
乃梨子の頬を伝う涙の筋が、また僅かに太くなった。