帰り道、乃梨子は自分の心に意識が向かないように無難な話題を志摩子に振り続けた。
そしてとりとめのない話をしながらも、時折志摩子が何か言いたげな視線を自分に
寄越すのを乃梨子は確かに感じていた。しかし乃梨子はそれに気付かない振りをして、
一方的に話し続けたのだった。
そうしてバス停で志摩子と別れると、乃梨子は何故だかほっとした気分になった。
だがそれと同時に、自分の悩みで精一杯なことに憤りも感じ始めていた。
(ほんと、どうかしてる。志摩子さんにも心配そうな顔させちゃったし……)
ため息をつき、一人JRの駅へと歩き出す。
しかし一歩足を踏み出すごとに、その足取りは鉛のように重くなっていったのだった。
乃梨子と別れ家へと帰り着いた志摩子は、自分の部屋へ入ると深くため息をついた。
(乃梨子、やっぱり元気がなかったみたい)
今日も乃梨子は何か考え事をしているようだった。
お聖堂でも自分の中に入りがちな様子がうかがえたし、帰り道でもいつになく妙に
よそよそしかった。
何か悩んでいるのは間違いないのだ。
バス停で乃梨子と別れるまでの間、志摩子は何度かそれとなく話を向けてみようかとも
思った。しかし様子のおかしい自分のことを志摩子に悟られまいとするかのように
喋り続ける乃梨子に、話を切り出すことは結局できないまま別れてしまった。
大事なことなら、きっとそのうちに自分に話してくれる。そう信じてはいるのだが。
やはり乃梨子のこととなると、どうしても気になってしまう志摩子なのだった。
今日の帰り、思い切って聞いてみた方が良かったのかもしれない。
今さらそんなことを思ってしまう自分が、志摩子はとてももどかしかった。
(上手く気持ちを伝えられなかったのは、私も同じなのね……)
乃梨子と出会ってからは、自分の心も確かに随分と軽くなっている。しかし大事な
ところでは、一歩を踏み出すことに戸惑いを感じてしまう部分も、まだまだ残っている
ようだった。
そんなことを考えながら、志摩子はまたひとつため息をついた。
乃梨子ももう家に着いているはずだ。
せめて電話でもしてみようかとも思ったが、やはり顔を合わせて話したかった。
そう思案に暮れながら志摩子が制服を着替えようとしたその時、家の呼び鈴が鳴った。