お聖堂の中へと先に入る乃梨子の後ろ姿を見つめ答えながら、私は思った。
桜が散り始める時期に乃梨子と出会い、季節が初夏に移り変わろうとする頃、私たちは
姉妹の契りを交わした。
そして今へと続く時間の中で、私はゆっくりと良い方向へ変わっていっている。
……乃梨子は、どうだろう。
心の中に想いを溜め込む私とは違って、乃梨子は元から正直だったのだ。
私が彼女に惹きつけられた理由はいくつもある。その中の一つにはきっと、自分には
無い乃梨子のそういう真っ直ぐな気質も含まれているのだろう。
しかし、最近の乃梨子は……なにか心の中に悩みを抱えているようだった。
いつもなら私に相談してくれるはずなのだが、今回はその悩みを私に打ち明けてくれそうな
様子は今のところはなかった。
それは多分、その悩みが、この私に関係していることだからなのだ――
お聖堂の中で、祈りを捧げている志摩子。
乃梨子は長椅子に座り、後ろからその様子を静かに眺めていた。
祈りを捧げている志摩子の姿をこうして見ているのは好きだった。
いくらカトリック系の学校とはいえ、志摩子のように信心深い生徒は意外と少ない。
乃梨子もまた、この学校に入学してからは祈りの言葉も覚えたとはいえ、信仰心とは
無縁の存在だった。
自分がそういう性質であるからなのか。
心の底からの祈りを実体のないものに捧げるという行為ができる志摩子のことは、
誇らしくさえあった。
今も志摩子は微動だにせず、静かに祈りを捧げている。
(………………)
そうして数分経った頃だろうか。志摩子の後ろ姿をじっと見つめているうちに、乃梨子は
自分の心が落ち着かなくなってくるのを感じ始めていた。
――まただ。
祈りを捧げている志摩子を見ていると、心が休まる。いくらでも見つめていられた。
いや、いくらでも見つめていたいと言った方がいいだろう。
しかし最近は、志摩子のことを見つめることによって心が満たされるのと同時に、何か
もやもやとよく分からない気持ちが心の中に沸き起こってくる時があるのだ。
(私、この頃ちょっとおかしいかも……)
志摩子はまだ熱心に祈っている。今日はいつもよりも大分長いようだ。
乃梨子はいつものように、ただ志摩子の後ろ姿を見つめていただけだった。
そして乃梨子が自分の心のざわめきについて自覚し、それに気を取られ始めたその時。
今すぐにでも志摩子の側へ行って後ろから強く抱きしめたい……そんな激しい衝動が、
何の前触れもなく乃梨子の心に沸き起こってきた。