目の前でキス待ち状態の祐巳がいる。キスしなきゃ。…それは分かってる。
しかし、私は金縛りにあったかのように体が動かせなかった。
思えば、私だってキスの経験なんか一回しかない。それだって、栞に衝動的にしたものだ。
(…栞)
栞のこと、私の過去のこと、全て話したわけではない。
キスしてしまえば、私は祐巳の体まで求めてしまうだろう。こんな状態で、キスする資格なんてあるのだろうか。
思考が固まって動けない。
と、いつまでもお預けをくらっていた祐巳が、目を開け、微笑むと唇を寄せてきた。
私は人の唇の温かさを初めて知った。
「ファーストキスですよ」
うん、分かってる。私も同じようなものだよ。
一度キスしてしまうと、迷いなんか吹き飛んでしまう。
「セカンドキスもサードキスも、ぜんぶ聖さまにあげますね」
私たちは啄ばむようにキスを繰り返す。額、頬、耳にお互いの唇が触れる。
と、いきなり私の口内にぬるりとしたものが差し込まれた。
(ひゃっ!?)
びっくりして声を上げそうになったが、すぐにこれがフレンチキスなんだということが理解できた。
祐巳の舌が私の舌に絡み、歯をなぞり、唇を舐める。
触れるだけのキスとの違いに私は酔ってしまう。
と、口いっぱいに生温かい液体が流し込まれる。反射的に飲み下してから目をやった。
二人の唇の間に繋がった糸が、今飲んだものの正体を物語っていた。
聖さまの端正な顔が紅く染まっている。
以前、クラスメートが持ってきたえっちな雑誌をみんなでこっそり見た時に書いてあったことを
一つ一つ思い出しやってみたが、どれも成功みたいだ。
『つばを飲ませる』と書いてあったとき、みんなで気持ち悪いよね、と話し合った。
私もそう思っていたけど、今はそんなことない。聖さまも喜んでくれてるし、私だって飲んでみたい。
「聖さま、飲ませて…」
そうおねだりすると、聖さまは少し口をもごもごさせてから、飲ませてくれた。
ごくん。…不思議な味。
でも、これがオトナのキスなんだと思うと、すごく嬉しい気持ちになった。
「…祐巳」
「はい?」
あれ、聖さまなんだか渋い顔してる。
「こんなことどこで覚えたの」
「友達の、本で…」
聖さまは複雑な顔をした。私が読んだ医学書には書いてなかった、とかぶちぶち言ってる。
私は唇を唇でふさぐ。キスの次はなんて書いてあったっけ?
…そうだ、胸を触るんだった。