「はい、ずうずうしく押しかけてしまってすいません。今晩はお世話になります…」
うちのリビングで聖さま(まだちょっと呼びなれないなぁ)が私の親に電話をかけている。
あれから私たちはファーストフードでちょっと食べてから家まで送ってもらった。
車庫にお父さんの車がなく、まだ帰ってきてないのかな、と思っていると、
玄関先で植木に水をやっていた祐麒が、今日は父さんたち帰らないよと教えてくれた。
何でも、おばあちゃんちで他の親戚に会ってしまい、宴会でお酒を飲んでしまったらしいのだ。
お母さんは運転できないし、そのまま帰ると飲酒運転になってしまうので、仕方なくもう一泊するとのこと。
私はその場にいた聖さまに(あ、だいぶなれてきた)じゃあうちに泊まりませんかと即座に提案したのだった。
和気藹々と帰ってきた私たちを見て祐麒は不思議がってたけど、別に反対はしなかった。
「祐巳ちゃん、代わってって」
聖さまが受話器を渡してくる。私はちゃんづけはやめて下さいよと囁いてから電話を代わった。
『ちゃんと部屋は片付いてる? 薔薇さまに散らかった部屋を見せたりしちゃあなたもうリリアンにはいられないわよ。
ああもう、どうしてこんなときに限って白薔薇さまがおうちに来たりするのかしら』
…お母さん、舞い上がってまた変な事言ってる。
はいはいと言って電話を切った。
コンビニに聖さまの変えの下着とお菓子を買いに行き、祐麒と三人で夕食を食べた。
祐麒のテレビゲーム(なぜか聖さまは凄く上手かった)で遊んだりして時を過ごす。
順番にお風呂に入り、そろそろ寝ようということになった。
「祐巳、やっぱり毛布貸してくれれば私ソファで寝るから…」
いざ寝る前になって聖さまはそんなこと言ってきた。
「えー、私のベッド、セミダブルだから二人でも大丈夫ですよう」
「何かないの? お布団とか」
寝る直前にもなって何を言い出すんだろうこの人は。
「知りません。ほらほら早く寝ましょうよ。はーいおやすみなさーい」
ベッドに聖さまを押し込む。電気を茶色にしてから私も隣に滑り込んだ。
「ゆうべは一緒に寝ませんでしたけど、今日は一緒ですね」
「そうね」
人間の感情なんて分からないものだ。
昨日はとんでもないことだと思ったのに、今日はそれを当たり前にしている。
「あったかいですね」
「うん」
聖さま、なんだか気恥ずかしそうにもじもじ。
「昨日は『祐巳ちゃんを抱っこしてぬくぬく眠りた〜い』って言ってたじゃないですか」
「うん」
「じゃあ、ほら、抱っこしてください」
そういって聖さまに抱きついた。お布団の温かさと聖さまの体温で溶けちゃいそうだ。
抱き合って、これ以上はないくらい近くで見つめあう。
彫りの深い顔が素敵…。
聖さまが目を細め、私の頬に手を当てた。
あ、キスされる…。
私は目を閉じ、その時を待った。