その公園は各種スポーツ施設が集まった凄く大きなところだった。
ジョギングコースやちょっとした広場、ベンチなんかがそこかしこにある。
いつもは人でにぎわうのだろうけど、今日は閑散としていた。
肩を並べ、無言で園内を進む。
”しばふひろば”と名づけられただっぴろい広場にやってきた。名前のように一面芝生である。
向こうで子どもが二人、凧揚げをしているのが見えた。
「ここでいい?」
「はい」
近くのベンチを示されて訊かれる。
「座る?」
私は首を振った。座ってのんびりおしゃべりなんて気分じゃない。
立ったまま向き合い、白薔薇さまの目を見据える。両手をぎゅっと握って口火を切った。
「やっと、目を合わせてくれましたね」
「そう、かな」
「何で私を避けるんですか」
「そんなことないよ」
「白薔薇さまは冗談は言うけど嘘は言わない、って思っていましたけど違うんですね」
自分でもびっくりするほど冷たい声が出た。
白薔薇さまは俯いてしまう。
ちがうちがう、こんなことを言いたいんじゃない。ちゃんと、いまの気持ちを言葉で伝えなければ。
「昨夜のお話で、白薔薇さまが私を好きだって思ってくださってるのはわかりました」
こくん、白薔薇さまが頷く。
「お気持ちに気がつかなかったのは悪かったって思ってます。でも」
ちょっと言葉に詰まった。
「それだったら、何で今日になっていきなり避けるんですか」
「…」
「私、お気持ちを伺ったからには、真面目に、考えて、お返事しようと思ってる、のに」
あれ、変だ。視界がぼやける。
「なんで、今日になったらいきなり、避けるんです、か」
なんだ、なんだこれ。
「ひっく、なんで…もっと、ちゃんと、き…たいのに」
ああ、だめだ。言いたいことが胸いっぱいにつかえて言葉にならない。
「もっと、おはなし…、ずるい、です…」
出るのは涙ばかり。言葉を、言葉を出さなきゃいけないのに。
あふれる涙を手で拭う。もう白薔薇さまの顔も見れない。
「…祐巳ちゃん」
ああ、まだここにいてくれている。呆れて帰っちゃったりしてないんだ。
「私は、君が思ってるほどいい先輩じゃないんだ。私なんか、君のこと好きじゃいけないんだよ」
「そんな…じゃ、わかんない、てす。…わかんない…」
「私は最低なヤツなんだ。柏木なんかよりもずっと。人を傷つけるだけで…」
白薔薇さまの声も震えてる。
「なんで、そんなこと…。ひくっ。ぜんぶ、はなして…」
「言えないよ。きっと祐巳ちゃんを傷つける」
「なんで…? ぐすっ。ききたい、ききたいです。おねがい…。わたし、きかせて…」
「ごめん、もう迷惑かけないから」
涙でぐしゃぐしゃになった視界の中で、白薔薇さまがすっと動くのが見えた。
行かないで。
私は夢中で抱きつく。もう言葉が出ない。必死になって一言だけ搾り出す。
「…いくじなし…!」