避けられてる。
私は白薔薇さまの車の後ろの座席からルームミラーを覗いた。
ちらりと目があうが、すぐにそらされてしまう。
思えば朝からそんな感じだ。
朝起きてみんなでご飯を食べ、少し遊んでからお茶を頂いた。その間もずっとこんな感じだった。
どうしてだろう。
どうして昨日と全く違うんだろう。
ゆうべ、布団の中で話したことについてもっと話し合いたいのに。
私のことを見もしないし、話しかけても二言三言でうやむやにしてどこか行ってしまう。
機嫌でも悪いのかと思えば、祥子さまや清子小母さま、祐麒や柏木さんともいつも通りに接しているのに、
私だけ目もあわせようとしない。
重苦しい沈黙が続く。カーラジオから聞こえるにぎやかな会話が空々しく聞こえた。
車の中ではいかに私を無視しようとしても限界がある。
祥子さまの家から駅まで送ってもらう間、隣の祐麒が何とか場を持たせようとしたが、その苦労も無駄に終わっていた。
(おい)
祐麒がひじでつついてくる。
見ると、お前けんかでもしたのか?って顔でこっちを見ていた。
私が首を振ると、じゃあどうしてって顔をする。
そんなこと、私が教えて欲しい。
駅までの長くない時間、私は白薔薇さまの後頭部を見つめ続けた。
「着いたみたいですね」
祐麒がほっとしたように言う。いそいそと降りる仕度なんかしてる。
駅前のロータリーに横付けされた。お正月だと言うのに意外と人が多い。
祐麒がドアを開けて降りた。
「送っていただいてどうもありがとうございました。…祐巳?」
最後の言葉は着いたというのに降りるそぶりを見せない私へのものだ。
「…」
じっと見つめる。
振り向いてもくれない背中。
「祐巳、早くしろよ。いつまでも止まってたら迷惑だぞ」
一刻も早くここから立ち去りたい祐麒が急かす。
「着いたよ」
ぽつりと言われた。
カチンと来た。とっとと降りろと言ってるんですか。
私はキッと顔を上げると車をおりて後部ドアを叩きつけると、そのままの勢いで助手席のドアを開けた。
「祐麒! これから白薔薇さまとドライブしてくる! あんた先に帰って留守番しといて!」
助手席にあった白薔薇さまのかばんと自分のバッグを後ろに放り込み座ってドアを閉じてベルトを締める。
私の剣幕に祐麒も白薔薇さまも目を丸くする。
「祐巳ちゃん」
「とくに御用事あるっておっしゃってませんでしたよね。
じゃあ、いいじゃないですか。車、出してください」
前を見据て言った。
白薔薇さまは少しの間私を見ていたが、分かった、と言ってアクセルを踏む。
振り返ると、祐麒が呆然と私たちを見送っていた。
「どこに行けばいいの」
「どこでも。落ち着いて話ができる所なら」
「大きな公園があるんだけど、そこでもいい?」
「はい」
それだけ話して、また黙り込む。
会話もない、お互いを見もしない、30分のドライブだった。