「祐巳ちゃん、運命って信じる?」
頭の良い人の会話はたまに変に飛ぶからついていけない。しかも運命って。
「28日に私たちが学校で出会ったのも偶然。その後で私に感情の発作がおきたのも偶然…だよね」
それはそうだろう。別に約束してあったわけじゃないし、感情の大波のことも私は全く知らなかった。
「じゃあ、その時私が祐巳ちゃんに助けられたのも偶然?」
…こんなに真剣な白薔薇さま、初めてだ。
表情は怖いくらい張り詰められている。
「あの、」
うまく言葉がつむげない。いい加減な返事はできない。
「でも、居合わせたのが私でなくてもきっと誰かがお慰めしたと思うんですが」
やっとのことで言葉を出す。
「うん、薔薇の館の住人は優しいからきっとそうしてくれたでしょうね。
でもね、あの時は祐巳ちゃんじゃなければ駄目だったのよ。
蓉子でも、江利子でも、祥子でも、令でも、由乃ちゃんでも…」
「志摩子さんでも、ですか」
最後の一人を言いよどんだ白薔薇さまの変わりに恐る恐る言った。
言ってしまった後、急に背筋が寒くなった。
「志摩子さんでも、駄目だったって思うんですか」
思わず詰問するように言ってしまう。
聞きたくない。
答えを聞きたくない。
このまま、なかったことにして欲しい。
長い沈黙の後、白薔薇さまの口が開いた。
「そうよ」
「他の誰でも駄目だった。駄目だったのよ。
ねえ、祐巳ちゃん。偶然は2つまでは偶然かもしれない。でもね、 3つそろえばそれは必然なのよ」
「それが運命だって言うんですか」
「そうかも知れない」
もう私たちはにらみ合うようになっている。
白薔薇さまの情熱に触れてしまい気圧されて何も言えない。
先に目をそらしたのは白薔薇さまのほうだった。
「…もう寝ようか。おやすみ」
布団の中央まで後退して私に背を向けてしまう。
私も疲れきった体を引きずって自分の布団の真ん中に戻った。
仰向けになって目を閉じる。
「おやすみなさい」
枕の下の宝船の折り紙に手を触れる。
ついさっき見たはずの初夢を思い出そうとしたけれど、全く思い出せなかった。