ネギま!ネタバレスレ94時限目

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878名無しさんの次レスにご期待下さい
「…トイレ」
私がおめでたいんだかおめでたくないんだか良くわからない初夢から目覚めると、まだ午前3時だった。
「うう、寒い」
祥子さまや白薔薇さまを起こさないようにそっと廊下にでる。
板張りの廊下はしんとした冷たさに満ちていた。
(なんだったんだろう、さっきの夢)
一富士、二鷹、三なすびとは言うけれど、一祥子さま、二白薔薇さま、三キャンディーなんてわけがわからない。
語呂もちっとも合ってないし。
それでも、初夢で祥子さまを見れたんだからきっと縁起が良い夢に違いない。今年も仲良くできるといいな。
そんなことを考えながら用を足し、足早に廊下を戻る。あったかい布団が恋しい。
暗い廊下は似たような障子が延々と続いていて、帰りにはちょっと迷ってしまった。

「ただいまー」
そっと呟きながら障子を開ける。祥子さまの静かな寝息が聞こえてきてほっとした。
「…おかえり」
「ひゃっ!」

返事を返されるとは全く思ってなかったのでビックリしてしまった。
夜だからと慌てて口を押さえたのでほとんど声は漏れなかったけど。
「何よ祐巳ちゃん。人のこと幽霊みたいに」
白薔薇さまが布団の中で憮然としてこっちを見てる。
「だって、返事が返ってくるなんて思わなかったんですもん。あれ、もしかして起こしちゃいました?」
私は祥子さまの足元を回りながら囁き返した。
「ううん、最近あまり眠れないんだ。さあ、寒いから早く布団に入りなさい」

お布団にはいりなさいって、あの、何でご自分の掛け布団を持ち上げてるんですか。
「もしかして、私にそこに入れとおっしゃいますか」
「あたり。ほら、あったかい空気が逃げちゃうから早く」
ちょいちょい、と手招きする白薔薇さま。
「せっかくですがお断りします」
「えー」

そりゃ、白薔薇様ファンクラブの人たちからすればとんでもないシチュエーションなんだろうけど、私は残念ながら違う。
小声でブーイングしてくる白薔薇さまを無視して自分の布団にもぐりこんだ。
「祐巳ちゃんを抱っこしてぬくぬく眠りたかったのになー」
「人を抱き枕か湯たんぽみたいに言わないでください」
さらりと凄いこと言ってませんか、白薔薇さま。
「祥子さまがいるのにそんなことできるわけないじゃないですか」
「あれ、じゃあ祥子がいなければ一緒に寝てくれるの?」
「違います」
まったく白薔薇さまったら正月だろうと深夜だろうと365日24時間オヤジモードなんだから。
ふん、と仰向きになって寝ちゃおうとしたときだった。
「ねえ、ちょっとお話しよ」
振り向くと白薔薇さまが、布団から手だけだして手招きしてる。
「ここから先は絶対行かないから。ね、こっち来て」
ここ、といいながら指で線を示す。私と敷布団と白薔薇様のそれの境目が国境らしい。
「本当ですね。嘘ついたら怪獣の子どもみたいに騒ぎますよ」
「わはは、さすがにそれは怖い」
白薔薇様はもう国境の近くまで転がってきた。
「約束する。お願い」
879名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:23:54 ID:AxOt+p6C
トイレにおきたせいで体がちょっと冷えていて、少しの間眠れそうもなかったから、布団が温まるまでお話し相手になることを決めた。
布団にくるまりながらのそのそと移動する。
「もそっと近うよれ」
のそのそ。
「もちっと」
のそのそ。
「もうちょい」
のそ。
小笠原家の布団は大きくて広い。それでもこれだけ移動すると白薔薇様との距離が凄く近くなった。
というか、国境をはさんでお互いの息が感じられるくらいで向き合っている。
「あの、」
近すぎませんかと言おうとしたが、白薔薇さまの口が先に開いた。
「会いたかった。来てくれてありがとう」

いえいえ、こちらもお正月ヒマでしたからと言おうとして、どうやらそういう雰囲気でないことに気づいた。
オヤジモードが消え、にへっとした笑みが姿を消している。
他の人とこんな間近で向き合うことなんてないからちょっとどきどきした。
真剣な顔するとやっぱり格好いいなあ…なんて、何考えてるんだろう私。
「会いたかったって、12月28日にもあったじゃないですか」
12月28日、私が感情の高ぶった白薔薇さまに抱きしめられた日。
『いばらの森事件』で栞さんのことをまだ吹っ切れてない自分に直面した白薔薇さま。
以来時々感情が高ぶってしまうことがあったらしい…けれど。
「28日に会ったからまた会いたくなったのよ」
そのときに手を握ってあげたりしたことが、えらく白薔薇さまのお気に召したらしい。
「何とか会えないかなと思ってずっと考えてた」
へへへ、と苦笑する白薔薇さま。端正な顔立ちだから、そんな表情もとっても素敵。

本当は1月2日の初詣に私だけ誘おうと考えてたらしい。そこに祥子さまからお泊りのお誘いがあったからついでにそれに乗ったそうだ。
そう言われれば今日(正しくは昨日だけど)は白薔薇さまと目が合うことが凄く多かった気がする。
神社や車での移動中は二人きりだったから当たり前だけど、
祥子さまの家で百人一首したりトランプやったりお寿司いただいたりしたときもしょっちゅう目が合っていた。
初めて祥子さまの家にお邪魔してたから気が付かなかったけれど、今日一日、白薔薇さまは私をずっと見つめてたんだ。
「や、やだ。…あの、やだってのは本当に嫌だと言う意味じゃなくて
 ずっと見られてたのに気がつかなくてびっくりしたって意味であの…」
弟とはしゃいだり、祥子さまの和服に見とれてたりした様子も全部観察されてたと思うと、
恥ずかしいやら自分の鈍感さに嫌気がさすやらだった。
白薔薇さまはくすくす笑う。吐息が私の百面相をくすぐった。

「でも、私そんな凄いことしましたっけ?」
混乱がひとまず収まった後、聞いてみた。
初詣に私だけ誘おうとしたり今日ずっと見つめられてたり、いつの間にか白薔薇様にすっごく好かれちゃってるようだけど
自分ではいまいち理由がわからない。私ってやっぱり鈍感なんだろうか。
880名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:24:30 ID:AxOt+p6C
「祐巳ちゃん、運命って信じる?」
頭の良い人の会話はたまに変に飛ぶからついていけない。しかも運命って。

「28日に私たちが学校で出会ったのも偶然。その後で私に感情の発作がおきたのも偶然…だよね」
それはそうだろう。別に約束してあったわけじゃないし、感情の大波のことも私は全く知らなかった。
「じゃあ、その時私が祐巳ちゃんに助けられたのも偶然?」
…こんなに真剣な白薔薇さま、初めてだ。
表情は怖いくらい張り詰められている。
「あの、」
うまく言葉がつむげない。いい加減な返事はできない。
「でも、居合わせたのが私でなくてもきっと誰かがお慰めしたと思うんですが」
やっとのことで言葉を出す。
「うん、薔薇の館の住人は優しいからきっとそうしてくれたでしょうね。
 でもね、あの時は祐巳ちゃんじゃなければ駄目だったのよ。
 蓉子でも、江利子でも、祥子でも、令でも、由乃ちゃんでも…」
「志摩子さんでも、ですか」
最後の一人を言いよどんだ白薔薇さまの変わりに恐る恐る言った。
言ってしまった後、急に背筋が寒くなった。
「志摩子さんでも、駄目だったって思うんですか」
思わず詰問するように言ってしまう。
聞きたくない。
答えを聞きたくない。
このまま、なかったことにして欲しい。
長い沈黙の後、白薔薇さまの口が開いた。

「そうよ」

「他の誰でも駄目だった。駄目だったのよ。
 ねえ、祐巳ちゃん。偶然は2つまでは偶然かもしれない。でもね、 3つそろえばそれは必然なのよ」
「それが運命だって言うんですか」
「そうかも知れない」

もう私たちはにらみ合うようになっている。
白薔薇さまの情熱に触れてしまい気圧されて何も言えない。
先に目をそらしたのは白薔薇さまのほうだった。
「…もう寝ようか。おやすみ」

布団の中央まで後退して私に背を向けてしまう。
私も疲れきった体を引きずって自分の布団の真ん中に戻った。
仰向けになって目を閉じる。
「おやすみなさい」

枕の下の宝船の折り紙に手を触れる。
ついさっき見たはずの初夢を思い出そうとしたけれど、全く思い出せなかった。
881名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:25:13 ID:AxOt+p6C
失敗した、さすがに引かれたかな。
私、佐藤聖は背中越しに祐巳ちゃんの寝息を聞きながら臍を噛んだ。
会いたかった気持ちを伝えてちょっと話をするだけのはずだったのに、
いつの間にか私たちが出会ったのは運命だなんて意味不明のことを熱弁してしまった。

枕元に置いた目覚ましの針の音が気に障る。手を伸ばして電池を引っこ抜いてしまおうかと思ったが
朝起きれなくなるので止めた。
分かってる。
正月に祐巳ちゃんをどうやって呼び出そうと考えてたのも、昨日一日ずっと祐巳ちゃんを見つめてたのも、
さっきの会話で舞い上がってしまったのも。
今、この胸を焦がす気持ち。
私の心は、明らかに祐巳ちゃんに向いている。

さっき目を白黒させてた祐巳ちゃんは全くの初耳だったろう。
私が祐巳ちゃんのことを好きになっているなんて気付いてないに違いない。
昨日の私の服装、コート以外は祐巳ちゃんを誘うのに成功してから
慌てて元旦のデパートに買いに行った物だなんて、彼女は全く気が付いていないに違いない。
それでもいい。それも彼女の魅力だろう。
そう、自分に言い聞かせる。が、気付いて欲しかったという気持ちは拭えなかった。

布団の中で身をよじる。湿った下着が肌に張り付いて不快だ。
自分の股間に手を伸ばす。ヌルッとした手触り。
ははは。
声を上げずに哂う。体は正直だ。
連日の間、自慰行為のたびに思い描いていた相手が隣に寝ているんだ、反応しないわけがないじゃないか!

寝返りを打って祐巳ちゃんの方を向く。
枕を頭の下から抜き取り、胸に抱きしめる。
折り紙の宝船が転がった。罰当たりの私はいい初夢に恵まれないに違いない。
掛け布団を目の辺りまで深く被った。

ゆみちゃん、と口の中で囁き、枕にキスをした。
祐巳ちゃん、祐巳ちゃん、祐巳ちゃん。

指をくわえ、一本一本に唾液をたっぷりまぶす。指の股、手のひらも忘れずに。
自分の歯を指でなぞり、吸いたてる。

始めるよ、祐巳ちゃん。

スパッツとショーツを同時に下ろし、そっと割れ目に這わせた。
「…あっ」
ちょっと声が出てしまった。うん、でもイイ感じ。
人差し指と薬指で割れ目を押しひろげ、中指でなぞる。
枕の角にキスし、甘く噛む。

祐巳ちゃんの寝顔を食い入る様に見つめる。
「祐巳ちゃん、私、今、君でオナニーしてるんだよ…」
ほら、こんなにヌルヌルが出てる。
割れ目からクリトリスに指を移しそのまま指先で軽く転がす。
「あ、ハァ!」
その刺激に肩を震わせて反応する。
ちょっとしごくように指の動きを変える。
「ん、…気持ちいい」
祐巳ちゃん、君はどんなオナニーをするの?
882名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:25:48 ID:AxOt+p6C
「まさか、まだしてないなんてことはないよね…」
くちくち、くちゃ…。
布団のなかに自分の水音が響く。
祐巳ちゃんは、あんまり激しくやらなそうだな。
「こんな感じ? 祐巳ちゃん…」
擦る指使いをやめ、わずかなタッチで触れるようにする。じぶんでわざとぎこちなく動かす。
「はは…、祐巳ちゃんはこんな風にしてるんだぁ」
目を閉じて祐巳ちゃんが私にしてくれてる様を想像する。刺激そのものは少ないが、その想像だけで十分だった。

しばらく祐巳ちゃんの指使いを堪能し、目を開ける。
「ふぁ、…気持ちよかったよ、祐巳ちゃん」
今度は私のやり方を教えてあげる。
私は祐巳ちゃんの寝顔を見つめると、心の中でレクチャーを開始した。
祐巳ちゃんは中に入れたこと、ある?
自分の中指を挿入し、膣内を引っかく。
「うん、ふふっ。ああ、ん、いいよ…」
後から後から湧いてくる蜜をかき出し、手の平に広げる。
いい? こうやって中指と手の平で、中とクリをいっしょに刺激するの。
「可愛い寝顔だね」
荒い息とともにそっと囁く。

ん、ああ、くちくちくち、ちゅ、しゅ、しゅ、ぴちゃ…

心の中でまた語りかける。
祐巳ちゃんはをオナニーするとき誰でしてるのかな?
そっと顔を上げると祐巳ちゃんの向こうに祥子の寝顔が見えた。
きっと祥子なんだろうね。いいな。
「ん、んんんん、くっ、ひゃ…」
たまには私でもやってみてね。

自分の体がゆっくりと高みに上っていくのが分かる。
涎で頬に張り付いた髪を枕に押し付けて拭う。枕のカバーはもう唾液でぐちゃぐちゃだ。
わたしは、急にあることに気がついた。
ここには祐巳ちゃん、そのお姉さまの祥子、襖一枚隔てて実の弟の祐麒がいるんだ。
私はそんなところでオナニーしてるんだ。
そう考えると目もくらむような快感が背徳感とともにやってきた。
へへ、祐麒、私、君のお姉ちゃんでオナニーしてるよ。
祥子、祐巳ちゃんをこんなことに使ってごめん。でも祐巳ちゃんのこと大好きなんだ。
祐巳ちゃん…祐巳ちゃん祐巳ちゃん祐巳ちゃん祐巳ちゃん、気持ちいいよ、切ないよ。
お願い、こっちを向いて。
「はっ…もう、すぐ…イきそうだから…んんんんんっ、私を見て…」
目深にかぶった布団の中で、私の水音と荒い息、祐巳ちゃんへの囁きがこだまする。
あ、イク…。

その瞬間、祐巳ちゃんが私のほうにころんと寝返りを打った。
いままで横顔をに甘んじていたのが、正面からの寝顔を見つめることができる。

「ああ、もうダメ…」
祐巳ちゃんに見つめられながら、私は絶頂に達した。
883名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:26:44 ID:AxOt+p6C
シンデレラの衣装も手芸部からあがってきた、文化祭の準備も大詰めのある日。
支倉令は自身の役どころである「貴公子」の着替えに大いにてこずっていた。

(ネクタイってどう結ぶんだっけ……)
昨日初めて結んだときは、お姉さまがくれた説明図を見ながら落ち着いてやったからできたんだけど。
ど忘れというか、なんというか。一度左右の手順が頭のなかでこんがらがった途端、
ネジが抜けたかのように全くわからなくなってしまった。
今日の舞台練習が始まる時間まで後少しで、準備する暇がそんなにないことが混乱に拍車をかける。

「あら、まだ準備できてなかったの?」
わやわやと輪っかを作ったりそのなかに通したり、試行錯誤をしているとお姉さまが楽屋に入ってきた。
藁をも掴みたく猫の手も借りたいところに現れた、ある意味仏さまより頼りになる人物。
「あ!お姉さま、ネクタイの結び方がわからなくなってしまって……」
渡りに船と助けを乞う。

「もう、仕方ないわねえ……貸してごらんなさい」
「はい……」
少し気恥ずかしいが、みんなを待たせるわけにもいかない。
令は顎をそらすと、ついと喉を押し出すようにした。

「綺麗な首筋ね」
お姉さまは妖艶さを感じさせる微笑みを浮かべながら、顔を近づけてくる。
目の前に光る髪がある。いい匂いがする。
こらえきれず少し視線を落とすと整った眉と長い睫が瞬きに動くのが見えた。瞳は真剣にネクタイを見ている。
盗み見るように更に視線を落とす。
鎖骨と、白い胸元。真上から見下ろしているぶん、いつもより露出が大きい。

「おかしいわね。うまくできないわ」
そう呟いて、さらに前かがみになるお姉さま。
セーラーカラーの襟元がたわんで、白い下着と双丘のなだらかな稜線が垣間見えた。

「……!」
いけないものを見てしまった気がして、あわてて視線を天井に戻す。
頬が紅潮してしまっているのが、自分でもわかった。
「お、お姉さま、まだですか……?」
「うーん……」
「実は私も他人のを前から結ぶのって初めてなのよね。どうもうまくいかないわ。
 後ろにまわれば自分で結ぶようにできると思うから、そうするわね」
「あ、はい」
私はそのときに気付くべきだった。
お姉さまが珍しく楽しそうに笑っていたことに。
884名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:28:14 ID:AxOt+p6C
コツコツと足音を響かせて、ゆっくり後ろに回るお姉さま。
その緩慢な動作が、なぜか私の不安感を煽る。
「ほんとに綺麗な首筋ね」
耳元で囁かれた。不思議な感覚に、皮膚が一瞬にして総毛立つ。
「お、お姉さま、はやくネクタイを……」
「ええ、わかってるわよ。でも、令のほうが背が高いからやりにくいわ。
 椅子にでも腰掛けてくれる?」

おとなしく言われた通りに椅子にすわると、さっそく肩越しに腕が伸びてきた。
私の肩に二の腕を預けた両腕はなぜか微妙に気だるげな、ゆっくりとした動作でネクタイをいじる。
「ん……」
されるがままにしていると、お姉さまは自らの胸を私の頭に押し当てるように密着させてきた。
「お、お姉さま……」
「……どうしたの?」
「あ、あの、頭が……頭に、その……」
「何よ。はっきりなさい」
柔らかい感触に高鳴る胸とうわずる言葉を嘲るように、後頭部の優しい圧力がさらに強まる。
「ぁぅ……」
私はうぶな男子中学生のように、目をつむり口を噤んでうつむくことしかできなかった。

「令……下を向いてたら、顔が邪魔でネクタイを結べないじゃない……」
いつのまにかお姉さまの匂いがすぐ横に感じられるようになっている。
おそるおそる瞼をあけ横目に見ると、お姉さまは美しい曲線と長さを持つ睫が触れそうになるほど近くに
体を乗り出してきていた。

「顔をおあげなさい、令……」
耳元で何度も熱く囁かれる緊張のあまり膝の上で握った拳に、細く暖かくやわらかい指がそっとあてがわれる。
それでも頑なに顔を上げようとしない私に業を煮やしたのか、お姉さまはふっと私の耳に息をふきかけた。
「……!」
思わずビクンと体を震わせ、私は顔をあげた。
間近に潤んだ瞳。少し染まった頬。柔らかそうなくちびる。
くちびる。くちびる。くちびる。

「おおおお姉さま!!」
混乱をきわめた私の意識はお姉さまの頭を両手で抑え、問答無用でその唇に自分の唇を重ねるという行動に出ていた。
「んんッ……」

ぷはっとお互い息をついて、5秒あまりのくちづけを終わらせ、見つめあった数瞬後。
「……あら」
「!?わぁぁああああっ!!」
私は何事かを叫ぶと、つぶやくお姉さまを置いて猛ダッシュで楽屋を逃げ出していた。
「……ちょっとやりすぎたかしら……ね……?驚いたわ」

わけもわからず全速力で走っていると、いつのまにか舞台についていた。
「令、遅いわよ。早く準備なさい」
「はぁ、はぁ、はぁ、ごめ、祥子。遅れて……」
「急いできたのはわかったから別にいいわ。それより、黄薔薇さまと途中で合わなかった?」
「いや、あの、あったけど、でも、別に何もやましいことは……」
「……?会ったのなら、なんでまだネクタイ結んでないのよ」
「へ?え?あ……それは……その」
「なんでも黄薔薇さまは毎朝お父さまとお兄さまたちに請われてネクタイを結んであげてるらしいわよ。
 だから令のも結んであげる、って珍しく上機嫌で楽屋に向かったのに」
「ええー!!……あ、はは、あはは、はぁ……」

(前からだと上手に結べないって……)
私はなぜか途方もない疲労を感じてがっくりと舞台に手をついたのであった。
885名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:28:49 ID:AxOt+p6C
避けられてる。
私は白薔薇さまの車の後ろの座席からルームミラーを覗いた。
ちらりと目があうが、すぐにそらされてしまう。

思えば朝からそんな感じだ。
朝起きてみんなでご飯を食べ、少し遊んでからお茶を頂いた。その間もずっとこんな感じだった。
どうしてだろう。
どうして昨日と全く違うんだろう。
ゆうべ、布団の中で話したことについてもっと話し合いたいのに。
私のことを見もしないし、話しかけても二言三言でうやむやにしてどこか行ってしまう。
機嫌でも悪いのかと思えば、祥子さまや清子小母さま、祐麒や柏木さんともいつも通りに接しているのに、
私だけ目もあわせようとしない。

重苦しい沈黙が続く。カーラジオから聞こえるにぎやかな会話が空々しく聞こえた。
車の中ではいかに私を無視しようとしても限界がある。
祥子さまの家から駅まで送ってもらう間、隣の祐麒が何とか場を持たせようとしたが、その苦労も無駄に終わっていた。
(おい)
祐麒がひじでつついてくる。
見ると、お前けんかでもしたのか?って顔でこっちを見ていた。
私が首を振ると、じゃあどうしてって顔をする。
そんなこと、私が教えて欲しい。
駅までの長くない時間、私は白薔薇さまの後頭部を見つめ続けた。

「着いたみたいですね」
祐麒がほっとしたように言う。いそいそと降りる仕度なんかしてる。
駅前のロータリーに横付けされた。お正月だと言うのに意外と人が多い。

祐麒がドアを開けて降りた。
「送っていただいてどうもありがとうございました。…祐巳?」
最後の言葉は着いたというのに降りるそぶりを見せない私へのものだ。

「…」
じっと見つめる。
振り向いてもくれない背中。
「祐巳、早くしろよ。いつまでも止まってたら迷惑だぞ」
一刻も早くここから立ち去りたい祐麒が急かす。
「着いたよ」
ぽつりと言われた。
カチンと来た。とっとと降りろと言ってるんですか。
私はキッと顔を上げると車をおりて後部ドアを叩きつけると、そのままの勢いで助手席のドアを開けた。
「祐麒! これから白薔薇さまとドライブしてくる! あんた先に帰って留守番しといて!」
助手席にあった白薔薇さまのかばんと自分のバッグを後ろに放り込み座ってドアを閉じてベルトを締める。
私の剣幕に祐麒も白薔薇さまも目を丸くする。
「祐巳ちゃん」
「とくに御用事あるっておっしゃってませんでしたよね。
 じゃあ、いいじゃないですか。車、出してください」
前を見据て言った。
白薔薇さまは少しの間私を見ていたが、分かった、と言ってアクセルを踏む。
振り返ると、祐麒が呆然と私たちを見送っていた。


「どこに行けばいいの」
「どこでも。落ち着いて話ができる所なら」
「大きな公園があるんだけど、そこでもいい?」
「はい」
それだけ話して、また黙り込む。
会話もない、お互いを見もしない、30分のドライブだった。
886名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:29:31 ID:AxOt+p6C
その公園は各種スポーツ施設が集まった凄く大きなところだった。
ジョギングコースやちょっとした広場、ベンチなんかがそこかしこにある。
いつもは人でにぎわうのだろうけど、今日は閑散としていた。
肩を並べ、無言で園内を進む。
”しばふひろば”と名づけられただっぴろい広場にやってきた。名前のように一面芝生である。
向こうで子どもが二人、凧揚げをしているのが見えた。

「ここでいい?」
「はい」
近くのベンチを示されて訊かれる。
「座る?」
私は首を振った。座ってのんびりおしゃべりなんて気分じゃない。

立ったまま向き合い、白薔薇さまの目を見据える。両手をぎゅっと握って口火を切った。
「やっと、目を合わせてくれましたね」
「そう、かな」
「何で私を避けるんですか」
「そんなことないよ」
「白薔薇さまは冗談は言うけど嘘は言わない、って思っていましたけど違うんですね」
自分でもびっくりするほど冷たい声が出た。
白薔薇さまは俯いてしまう。
ちがうちがう、こんなことを言いたいんじゃない。ちゃんと、いまの気持ちを言葉で伝えなければ。

「昨夜のお話で、白薔薇さまが私を好きだって思ってくださってるのはわかりました」
こくん、白薔薇さまが頷く。
「お気持ちに気がつかなかったのは悪かったって思ってます。でも」
ちょっと言葉に詰まった。
「それだったら、何で今日になっていきなり避けるんですか」
「…」
「私、お気持ちを伺ったからには、真面目に、考えて、お返事しようと思ってる、のに」
あれ、変だ。視界がぼやける。
「なんで、今日になったらいきなり、避けるんです、か」
なんだ、なんだこれ。
「ひっく、なんで…もっと、ちゃんと、き…たいのに」
ああ、だめだ。言いたいことが胸いっぱいにつかえて言葉にならない。
「もっと、おはなし…、ずるい、です…」
出るのは涙ばかり。言葉を、言葉を出さなきゃいけないのに。
あふれる涙を手で拭う。もう白薔薇さまの顔も見れない。
「…祐巳ちゃん」
ああ、まだここにいてくれている。呆れて帰っちゃったりしてないんだ。
「私は、君が思ってるほどいい先輩じゃないんだ。私なんか、君のこと好きじゃいけないんだよ」
「そんな…じゃ、わかんない、てす。…わかんない…」
「私は最低なヤツなんだ。柏木なんかよりもずっと。人を傷つけるだけで…」
白薔薇さまの声も震えてる。
「なんで、そんなこと…。ひくっ。ぜんぶ、はなして…」
「言えないよ。きっと祐巳ちゃんを傷つける」
「なんで…? ぐすっ。ききたい、ききたいです。おねがい…。わたし、きかせて…」
「ごめん、もう迷惑かけないから」
涙でぐしゃぐしゃになった視界の中で、白薔薇さまがすっと動くのが見えた。
行かないで。
私は夢中で抱きつく。もう言葉が出ない。必死になって一言だけ搾り出す。
「…いくじなし…!」
887名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:30:10 ID:AxOt+p6C
罪悪感と祐巳ちゃんの気迫に押されて、思わず一歩退いてしまった。
その刹那、祐巳ちゃんが私を追いかけて抱きついてくる。
私の胸にしがみつき、顔を見上げて最後の言葉がかけられる。
「…いくじなし…!」
その瞬間、私の胸にあったすべての感情が涙とともに吹き出した。
「わあああああああああんっ!!!!」
私は祐巳ちゃんの体を抱きしめ、あらん限りの声で泣き出した。
祐巳ちゃんも泣いた。
二人で抱き合って、延々と泣いた。


泣きつかれてうとうとしてたのか、私は眠りから覚めた。
慌てて顔を上げる。
真っ赤に泣き腫らした目で、私を見つめる祐巳ちゃんの微笑があった。辺りはもう夕焼け空だ。
何がどうなったのか覚えていないが、気がつくとベンチに座っていて、祐巳ちゃんに頭を抱きかかえられていた。
「いっぱい泣きましたね」
頭を優しく撫でられる。涙がまた出そうになって慌てて祐巳ちゃんの胸に顔をうずめる。
そこにあったダッフルコートの爪飾りを玩んだ。
「気持ち、全部ぶつけてくれましたね」
この子は強い。私は祐巳ちゃんを尊敬した。
私の感情を全て受け止めてなお、こんなに優しい声が出せるなんて。
背中をぽんぽんとあやすように叩かれる。いや、本当にあやされてるんだ。
「いいですよ。…私も、大好きです」
耳を疑った。ふふ、と笑って髪を梳かれる。
どうか、どうか夢なら覚めないで。
私はうっとりと目を閉じ-----

ぐぎゅるぎゅる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

その瞬間、かえるの大合唱が私の目の前から聞こえてきた。

呆気に取られてまじまじと見つめ合う。
祐巳ちゃんは私の顔と自分のおなかを何度も見比べた。
「ぷ、あは、あっはっははははははははは!」
私はのけぞって笑い出した。
祐巳ちゃんは真っ赤になって立ち上がる。
「もう! 笑わないでください!
 お昼も食べないでこんな時間なんですからおなかが空いて当然です!」
「あははは、あはははははっははは…」
だめだ。笑いが止まらない。
「も〜〜〜〜っ! 何か食べに行きましょう!」
そういってぷいっと顔を背け、私の手を引いて歩き出す。
「ほら、行きますよ、”聖さま”!」
笑いを抑え、て引っ張られるように要に後を追いながらつないだ手を確かめる。
この手を離さない限り、大丈夫。そう思えた。
「ありがとう。…大好き、”祐巳”」

初めての呼び捨ては、ほんの少し気恥ずかしかった。
888名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:30:45 ID:AxOt+p6C
罪悪感と祐巳ちゃんの気迫に押されて、思わず一歩退いてしまった。
その刹那、祐巳ちゃんが私を追いかけて抱きついてくる。
私の胸にしがみつき、顔を見上げて最後の言葉がかけられる。
「…いくじなし…!」
その瞬間、私の胸にあったすべての感情が涙とともに吹き出した。
「わあああああああああんっ!!!!」
私は祐巳ちゃんの体を抱きしめ、あらん限りの声で泣き出した。
祐巳ちゃんも泣いた。
二人で抱き合って、延々と泣いた。


泣きつかれてうとうとしてたのか、私は眠りから覚めた。
慌てて顔を上げる。
真っ赤に泣き腫らした目で、私を見つめる祐巳ちゃんの微笑があった。辺りはもう夕焼け空だ。
何がどうなったのか覚えていないが、気がつくとベンチに座っていて、祐巳ちゃんに頭を抱きかかえられていた。
「いっぱい泣きましたね」
頭を優しく撫でられる。涙がまた出そうになって慌てて祐巳ちゃんの胸に顔をうずめる。
そこにあったダッフルコートの爪飾りを玩んだ。
「気持ち、全部ぶつけてくれましたね」
この子は強い。私は祐巳ちゃんを尊敬した。
私の感情を全て受け止めてなお、こんなに優しい声が出せるなんて。
背中をぽんぽんとあやすように叩かれる。いや、本当にあやされてるんだ。
「いいですよ。…私も、大好きです」
耳を疑った。ふふ、と笑って髪を梳かれる。
どうか、どうか夢なら覚めないで。
私はうっとりと目を閉じ-----

ぐぎゅるぎゅる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

その瞬間、かえるの大合唱が私の目の前から聞こえてきた。

呆気に取られてまじまじと見つめ合う。
祐巳ちゃんは私の顔と自分のおなかを何度も見比べた。
「ぷ、あは、あっはっははははははははは!」
私はのけぞって笑い出した。
祐巳ちゃんは真っ赤になって立ち上がる。
「もう! 笑わないでください!
 お昼も食べないでこんな時間なんですからおなかが空いて当然です!」
「あははは、あはははははっははは…」
だめだ。笑いが止まらない。
「も〜〜〜〜っ! 何か食べに行きましょう!」
そういってぷいっと顔を背け、私の手を引いて歩き出す。
「ほら、行きますよ、”聖さま”!」
笑いを抑え、て引っ張られるように要に後を追いながらつないだ手を確かめる。
この手を離さない限り、大丈夫。そう思えた。
「ありがとう。…大好き、”祐巳”」

初めての呼び捨ては、ほんの少し気恥ずかしかった。
889名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:31:23 ID:AxOt+p6C
「はい、ずうずうしく押しかけてしまってすいません。今晩はお世話になります…」

うちのリビングで聖さま(まだちょっと呼びなれないなぁ)が私の親に電話をかけている。
あれから私たちはファーストフードでちょっと食べてから家まで送ってもらった。
車庫にお父さんの車がなく、まだ帰ってきてないのかな、と思っていると、
玄関先で植木に水をやっていた祐麒が、今日は父さんたち帰らないよと教えてくれた。
何でも、おばあちゃんちで他の親戚に会ってしまい、宴会でお酒を飲んでしまったらしいのだ。
お母さんは運転できないし、そのまま帰ると飲酒運転になってしまうので、仕方なくもう一泊するとのこと。
私はその場にいた聖さまに(あ、だいぶなれてきた)じゃあうちに泊まりませんかと即座に提案したのだった。
和気藹々と帰ってきた私たちを見て祐麒は不思議がってたけど、別に反対はしなかった。

「祐巳ちゃん、代わってって」
聖さまが受話器を渡してくる。私はちゃんづけはやめて下さいよと囁いてから電話を代わった。
『ちゃんと部屋は片付いてる? 薔薇さまに散らかった部屋を見せたりしちゃあなたもうリリアンにはいられないわよ。
 ああもう、どうしてこんなときに限って白薔薇さまがおうちに来たりするのかしら』
…お母さん、舞い上がってまた変な事言ってる。
はいはいと言って電話を切った。
 
コンビニに聖さまの変えの下着とお菓子を買いに行き、祐麒と三人で夕食を食べた。
祐麒のテレビゲーム(なぜか聖さまは凄く上手かった)で遊んだりして時を過ごす。
順番にお風呂に入り、そろそろ寝ようということになった。

「祐巳、やっぱり毛布貸してくれれば私ソファで寝るから…」
いざ寝る前になって聖さまはそんなこと言ってきた。
「えー、私のベッド、セミダブルだから二人でも大丈夫ですよう」
「何かないの? お布団とか」
寝る直前にもなって何を言い出すんだろうこの人は。
「知りません。ほらほら早く寝ましょうよ。はーいおやすみなさーい」
ベッドに聖さまを押し込む。電気を茶色にしてから私も隣に滑り込んだ。
「ゆうべは一緒に寝ませんでしたけど、今日は一緒ですね」
「そうね」
人間の感情なんて分からないものだ。
昨日はとんでもないことだと思ったのに、今日はそれを当たり前にしている。

「あったかいですね」
「うん」
聖さま、なんだか気恥ずかしそうにもじもじ。
「昨日は『祐巳ちゃんを抱っこしてぬくぬく眠りた〜い』って言ってたじゃないですか」
「うん」
「じゃあ、ほら、抱っこしてください」
そういって聖さまに抱きついた。お布団の温かさと聖さまの体温で溶けちゃいそうだ。
抱き合って、これ以上はないくらい近くで見つめあう。
彫りの深い顔が素敵…。
聖さまが目を細め、私の頬に手を当てた。
あ、キスされる…。
私は目を閉じ、その時を待った。
890名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:32:05 ID:AxOt+p6C
目の前でキス待ち状態の祐巳がいる。キスしなきゃ。…それは分かってる。
しかし、私は金縛りにあったかのように体が動かせなかった。
思えば、私だってキスの経験なんか一回しかない。それだって、栞に衝動的にしたものだ。
(…栞)
栞のこと、私の過去のこと、全て話したわけではない。
キスしてしまえば、私は祐巳の体まで求めてしまうだろう。こんな状態で、キスする資格なんてあるのだろうか。
思考が固まって動けない。

と、いつまでもお預けをくらっていた祐巳が、目を開け、微笑むと唇を寄せてきた。
私は人の唇の温かさを初めて知った。

「ファーストキスですよ」
うん、分かってる。私も同じようなものだよ。
一度キスしてしまうと、迷いなんか吹き飛んでしまう。
「セカンドキスもサードキスも、ぜんぶ聖さまにあげますね」
私たちは啄ばむようにキスを繰り返す。額、頬、耳にお互いの唇が触れる。
と、いきなり私の口内にぬるりとしたものが差し込まれた。
(ひゃっ!?)
びっくりして声を上げそうになったが、すぐにこれがフレンチキスなんだということが理解できた。
祐巳の舌が私の舌に絡み、歯をなぞり、唇を舐める。
触れるだけのキスとの違いに私は酔ってしまう。
と、口いっぱいに生温かい液体が流し込まれる。反射的に飲み下してから目をやった。
二人の唇の間に繋がった糸が、今飲んだものの正体を物語っていた。

聖さまの端正な顔が紅く染まっている。
以前、クラスメートが持ってきたえっちな雑誌をみんなでこっそり見た時に書いてあったことを
一つ一つ思い出しやってみたが、どれも成功みたいだ。
『つばを飲ませる』と書いてあったとき、みんなで気持ち悪いよね、と話し合った。
私もそう思っていたけど、今はそんなことない。聖さまも喜んでくれてるし、私だって飲んでみたい。
「聖さま、飲ませて…」
そうおねだりすると、聖さまは少し口をもごもごさせてから、飲ませてくれた。
ごくん。…不思議な味。
でも、これがオトナのキスなんだと思うと、すごく嬉しい気持ちになった。
「…祐巳」
「はい?」
あれ、聖さまなんだか渋い顔してる。
「こんなことどこで覚えたの」
「友達の、本で…」
聖さまは複雑な顔をした。私が読んだ医学書には書いてなかった、とかぶちぶち言ってる。
私は唇を唇でふさぐ。キスの次はなんて書いてあったっけ?
…そうだ、胸を触るんだった。
891名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:34:08 ID:AxOt+p6C
祐巳の手が私の胸をまさぐる。
「うわ、聖さま胸おっきい…いいなー」
楽しそうに触られる。Tシャツの上から乳首を擦られるとくすぐったい。
「祐巳ぃ、くすぐったいよ。…脱ぐから、待って」
Tシャツが重苦しくなって脱ぐことに決めた。裸の胸の谷間に祐巳が顔を埋める。
カップを確かめるように下からすくうように持ち上げられた。
「おっきいし、形も綺麗だし…羨ましい」
「あんっ」
乳首を吸われて声を上げてしまった。やられっぱなしは何なんでここらでひとつ反撃といこう。
「祐巳も脱ぎなよ。私がしてあげる」
祐巳のパジャマのボタンを一つ一つはずしていく。白い肌が見えるたびに興奮が高まる。
「あ」
見つけた。祐巳の小ぶりな胸が合わせ目から覗く。思わず首を突っ込んで乳首を吸いたてた。
「あん、や、聖さまっ…!」
ちゅうちゅう吸いながらボタンをはずすのは忘れない。片手ですっぽり収まってしまう小ぶりな胸を揉む。
祐巳、何でも平均点だと思ってたけど、胸だけはちょっと平均以下だね。
そう思ってにやっと笑うと、憮然とした表情の祐巳と目が合った。
まずい、考えてることばれちゃったかな? 顔を赤らめて、ぷいっと横を向かれてしまう。
ははは、可愛いな。楽しくなって胸を激しく吸った。
「ちょ、聖さま、きゃ、やだ、子どもみたい…」
泣いて喚いて抱きしめられ、今こうして胸を吸っている私なんて、祐巳にとってはただの子どもなのかもしれない。
「聖さまの甘えんぼ」
そうだよ。甘えたがりなんだ。いけない?
ちゅ、ぺろ、ちゅるるっ、ふにふに…。

祐巳の胸のにおいをたっぷり吸い込んで、私は顔を上げた。祐巳の目をまっすぐに見つめる。
「祐巳、最後までしたい。いい?」
パジャマのうえからそっとあそこを触る。そのかすかな刺激にすら身を震わせて祐巳が返事をする。
「はい、しましょう。お願いします」

示し合わせて一緒に服を脱いだ。二人とも全裸になって身を寄せる。
肌が熱い。息を乱し、昂ぶる気持ちのまま、お互いの秘部に手を伸ばす。
ぴちゃっ。
二つの水音が重なって響いた。
「「ん、ああ、はっ、ちゅ、やぁ、ちゅ、ぺろ…」」
もう、わけが分からない。
お互いのあそこを刺激しあいながら、空いた手と唇で胸を揉み、乳首を擦り、首筋にキスマークをつけ、唾液をすする。
祐巳の”指使い”は私の想像よりもずっと激しいものだった。思ったよりオナニー慣れしてるのかも。
「あん、ねえ、祐巳。こういうこと、よく、するの…?」
祐巳はあえぎ声を出しながらもこくこくとうなづいた。
「誰を考えてしてるのかな?」
私は意地悪だ。…祥子に決まってる。
「いつもは祥子さま、ですけど、たまに聖さまとか、令さまも…」
私は呆気にとられた。それでも指は止めないが。
祥子はわかる、私でもしてくれてたなんてうれしい。でも、令って。
「聖さまとか令さまって、男の人みたいで格好いいから。たまに、してるん、です」
…祐巳は私の想像よりもずっとえっちな子みたいだった。
「明日からは私以外でしないでね。約束だよ」
「はい…っ! 聖さまも…」
「分かってる。”私のことを考えながらオナニーする祐巳”を想って毎日するからね」
真っ赤な顔で激しく頷く。

私たちの指使いは限りなく早く、激しいものになっていく。
もうすぐだ。もうすぐ、もうすぐ…。
「祐巳、イきそう?」
「はい、聖さまも、ですか?」
「うん。一緒に、一緒にイこうね」
愛しい人をかき抱く。どこまでも、どこまでも一緒に…。

言葉にならない悲鳴を上げて、私たちは果てた。
892名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:35:40 ID:AxOt+p6C
初めて乃梨子と唇を合わせたあの日。
乃梨子の部屋でそういう行為をしてから、いくらか月日が流れた。そして私と乃梨子は、
あれからも何回か肌を重ねていた。
互いの家で二人きりになれることはそれほど多くはなかったが、しかしその僅かな
機会を得る度に、二人とも少しずつ自分の気持ちに正直に、そして大胆になっていった。

そう――私は正直になっていた。
乃梨子の前では素直に自分の心をさらけ出せることに、確かな幸せも感じている。

「ちょっと寒くなってきたね」

乃梨子はお聖堂の扉を開けながら振り返り、寒そうに肩をすくめながらそう言った。
乃梨子の後に無意識に続きながら物思いに耽っていた私は、慌てて意識を現実に引き戻す。

「もう、秋も終わりなのね」
893名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:36:52 ID:AxOt+p6C
お聖堂の中へと先に入る乃梨子の後ろ姿を見つめ答えながら、私は思った。
桜が散り始める時期に乃梨子と出会い、季節が初夏に移り変わろうとする頃、私たちは
姉妹の契りを交わした。
そして今へと続く時間の中で、私はゆっくりと良い方向へ変わっていっている。
……乃梨子は、どうだろう。

心の中に想いを溜め込む私とは違って、乃梨子は元から正直だったのだ。
私が彼女に惹きつけられた理由はいくつもある。その中の一つにはきっと、自分には
無い乃梨子のそういう真っ直ぐな気質も含まれているのだろう。

しかし、最近の乃梨子は……なにか心の中に悩みを抱えているようだった。
いつもなら私に相談してくれるはずなのだが、今回はその悩みを私に打ち明けてくれそうな
様子は今のところはなかった。

それは多分、その悩みが、この私に関係していることだからなのだ――

お聖堂の中で、祈りを捧げている志摩子。
乃梨子は長椅子に座り、後ろからその様子を静かに眺めていた。

祈りを捧げている志摩子の姿をこうして見ているのは好きだった。
いくらカトリック系の学校とはいえ、志摩子のように信心深い生徒は意外と少ない。
乃梨子もまた、この学校に入学してからは祈りの言葉も覚えたとはいえ、信仰心とは
無縁の存在だった。
自分がそういう性質であるからなのか。
心の底からの祈りを実体のないものに捧げるという行為ができる志摩子のことは、
誇らしくさえあった。
今も志摩子は微動だにせず、静かに祈りを捧げている。

(………………)

そうして数分経った頃だろうか。志摩子の後ろ姿をじっと見つめているうちに、乃梨子は
自分の心が落ち着かなくなってくるのを感じ始めていた。
――まただ。
祈りを捧げている志摩子を見ていると、心が休まる。いくらでも見つめていられた。
いや、いくらでも見つめていたいと言った方がいいだろう。

しかし最近は、志摩子のことを見つめることによって心が満たされるのと同時に、何か
もやもやとよく分からない気持ちが心の中に沸き起こってくる時があるのだ。

(私、この頃ちょっとおかしいかも……)

志摩子はまだ熱心に祈っている。今日はいつもよりも大分長いようだ。

乃梨子はいつものように、ただ志摩子の後ろ姿を見つめていただけだった。
そして乃梨子が自分の心のざわめきについて自覚し、それに気を取られ始めたその時。
今すぐにでも志摩子の側へ行って後ろから強く抱きしめたい……そんな激しい衝動が、
何の前触れもなく乃梨子の心に沸き起こってきた。
894名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:37:30 ID:AxOt+p6C
いつものもやもやではなく、急に具体的な欲求を伴って心に浮かび上がってきた
その衝動。乃梨子は自分の心に驚き、冷や水を浴びせられたような気持ちになり、
密かに身震いをした。
椅子の上で不自然に身じろぎをし、慌てて自分の心を押さえ込もうとする。

今抱きしめることなんて、できはしないのだ。熱心に祈りを捧げている志摩子の邪魔を
してしまうことになる。そう、そんなことはしたくはない。でも……。

志摩子のことを抱きしめたい気持ちと、そうはできない気持ちとが混ざり合って、
乃梨子の心の中は訳も分からず複雑だった。

どうしてこんな気持ちになったのだろう。志摩子のことを見ているだけで、確かに
幸せなのに。でも自分も同じ心を共有できたら、同じように隣に並ぶことができたら……。
そうしたら、もっと多くの幸せを感じられるのかもしれない。

(好きな人と同じ行動をしてなくちゃ気がすまない人って、いるよね)

自分もそうなのだろうか……。いや、自分はそんな性格ではなかったはずだ。
少なくとも今までは、そんなことを思ったことなどありはしなかった。
そう、今までは……。

どうやっても入り込むことができない志摩子の心の領域。確かに存在しているその
部分に、少しでいいから自分も踏み込みたいと思っているのだ。
そう思い当たった瞬間、乃梨子はそんな感情を抱いてしまった自分のことが悲しくなった。

「乃梨子?」
「えっ?」

名前を呼ばれ、ふと気付いて顔を上げると、祈りを終えたらしい志摩子が自分の前に
立っていた。どうやら考え事に没頭してしまっていたらしい。志摩子は不思議そうに、
乃梨子の顔を覗き込んでいる。
895名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:38:15 ID:AxOt+p6C
「どうかしたの?」
「ううん、なんでもない。ここって静かだし、ちょっと考え事に夢中になっちゃった。
さ、帰ろう」

内心の動揺を隠しながらそう微笑んで誤魔化し、乃梨子は椅子から立ち上がった。

お聖堂の扉を開けると、外は来た時よりもまた少し寒くなっているようだった。
そして中に入った時には微かに姿を残していた夕日も、もう既に沈んでしまっている。
どんどんと暗くなっていく校内を、二人は並んでバス停へと歩き出した。

(私、志摩子さんのことを独り占めしたいのかな……)

乃梨子は外気に少し身体をすくめながら、自分の心を整理しようと一人懸命になっていた。

相手のことが誰よりも大切ならば、一秒でも多くの時間を自分のために割いてもらいたい。
そう思っても当然だとは思う。

(好きなんだから、こんな気持ちになっても当然だとは思うけど)

別に他の誰かに取られそうになっている訳でもないのに。自分には入り込めない領域が
その人の中にあるのが、ただもどかしいだけなのだ。
しかし、自分はそこまで嫉妬深かったのだろうか。

そんなことを考えながら並んで歩いていたその時、乃梨子の手が志摩子の手を偶然
かすめた。

「――!」

乃梨子はとっさに、触れた手を慌てて引っ込めた。
その乃梨子の反応に、志摩子は少し不思議そうな顔をしている。そして乃梨子自身も
また、無意識のうちの自分のその行動に驚いていた。

今は周りに誰かがいる気配もない。普段だったら照れる志摩子の手を取り、そのまま
繋いで歩いたはずだ。
しかし今日はどういう訳か、それができなかった。志摩子の手に、何故だか触れては
いけないような気がしたのだ。

今触れてしまったら自分が抱いているこの良く分からない感情が、繋いだ手を通して
志摩子にも伝わってしまうかもしれない……。そんな気がしたのだ。

「大分寒くなってきたし、早く帰ろう。風邪引くといけないし」
「ええ……そうね」

乃梨子は誤魔化すように、笑顔を作りながらそう言った。
今日の自分はどうかしている。
志摩子から視線をそらし、少し早足で歩き出した。
896名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:39:20 ID:AxOt+p6C
帰り道、乃梨子は自分の心に意識が向かないように無難な話題を志摩子に振り続けた。
そしてとりとめのない話をしながらも、時折志摩子が何か言いたげな視線を自分に
寄越すのを乃梨子は確かに感じていた。しかし乃梨子はそれに気付かない振りをして、
一方的に話し続けたのだった。

そうしてバス停で志摩子と別れると、乃梨子は何故だかほっとした気分になった。
だがそれと同時に、自分の悩みで精一杯なことに憤りも感じ始めていた。

(ほんと、どうかしてる。志摩子さんにも心配そうな顔させちゃったし……)

ため息をつき、一人JRの駅へと歩き出す。
しかし一歩足を踏み出すごとに、その足取りは鉛のように重くなっていったのだった。



乃梨子と別れ家へと帰り着いた志摩子は、自分の部屋へ入ると深くため息をついた。

(乃梨子、やっぱり元気がなかったみたい)

今日も乃梨子は何か考え事をしているようだった。
お聖堂でも自分の中に入りがちな様子がうかがえたし、帰り道でもいつになく妙に
よそよそしかった。

何か悩んでいるのは間違いないのだ。
バス停で乃梨子と別れるまでの間、志摩子は何度かそれとなく話を向けてみようかとも
思った。しかし様子のおかしい自分のことを志摩子に悟られまいとするかのように
喋り続ける乃梨子に、話を切り出すことは結局できないまま別れてしまった。

大事なことなら、きっとそのうちに自分に話してくれる。そう信じてはいるのだが。
やはり乃梨子のこととなると、どうしても気になってしまう志摩子なのだった。

今日の帰り、思い切って聞いてみた方が良かったのかもしれない。
今さらそんなことを思ってしまう自分が、志摩子はとてももどかしかった。

(上手く気持ちを伝えられなかったのは、私も同じなのね……)

乃梨子と出会ってからは、自分の心も確かに随分と軽くなっている。しかし大事な
ところでは、一歩を踏み出すことに戸惑いを感じてしまう部分も、まだまだ残っている
ようだった。

そんなことを考えながら、志摩子はまたひとつため息をついた。
乃梨子ももう家に着いているはずだ。
せめて電話でもしてみようかとも思ったが、やはり顔を合わせて話したかった。

そう思案に暮れながら志摩子が制服を着替えようとしたその時、家の呼び鈴が鳴った。
897名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:40:06 ID:AxOt+p6C
「ごめんなさい、急に押しかけちゃって。なんだか……顔が見たくなって」

顔が見たいも何もない。つい先ほど別れたばかりではないか。
玄関先に出てきた志摩子の姿を目の前にしてやっと、乃梨子には自分の行動を
冷静に振り返る余裕が出てきていた。

バス停で志摩子と別れた後、乃梨子は自分のマンションへ帰るために駅へと
歩き出した。しかし足を一歩踏み出すごとに、その足取りは乃梨子の暗い気持ちを
反映するかのように確実に重くなっていった。
そして悶々とした気持ちを抱えながら電車に揺られ、自分の家の最寄駅のホームに
降り立った瞬間、乃梨子は自分の気持ちを抑えられなくなったのだった。

今日は土曜。週明けの月曜に学校で会うまで待っていられない。
家に帰ったら志摩子に電話をして、明日の日曜に会いに行けばいいのだ。そう理性は
告げていた。
しかし気が付いた時には電車に飛び乗り、乃梨子の身体は志摩子の家へと向かっていた。
少しでもいいから自分のこの気持ちを、今すぐに志摩子に会って伝えておくべきだと
思ったのだ。

「月曜まで待てなくて」
「いつだって、来たい時に来ていいのよ」

放課後別れたばかりのはずの乃梨子の突然の訪問に、志摩子もさすがに驚いたようだ。
しかし勢いでやって来たものの、玄関先で居心地悪そうにしている乃梨子を励ます
ように、志摩子は優しく言葉をかけた。

部屋へ行きましょう、と言う志摩子の後に続いてひんやりとした廊下を歩く。
もうすっかり暗くなったこんな時間に押しかけるのは、どう考えても失礼にあたる。
家の人になんて挨拶をしようと慌てて考え出したが、大きな家は他に誰もいないかの
ようにひっそりと静まり返っていた。
そして志摩子の部屋へと通されると、どうしても今すぐに会って話したかった気持ち
とは裏腹に、乃梨子は何から切り出していいのか分からず動揺した。

「お茶は、後でいいわよね」
「うん……」

何の用も無くいきなりやって来たのでないことは、やはり志摩子にも分かっているの
だろう。乃梨子の心配をよそに、部屋に入るとすぐに志摩子が立ったまま話を切り出した。

「乃梨子、最近時々辛そうな顔をしているわ。今日も少し、おかしかったように
思うのだけど」

やはり悟られていた――。
自分の心の内を無防備に表面に出さない自信はあったのだが。しかしよくよく考えて
みれば、志摩子が悩みを抱えている時は、たとえ何も言われなくても乃梨子にも分かる
自信があるのだ。
898名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:40:47 ID:AxOt+p6C
志摩子に心配をかけていたことに後悔の念を覚えたが、それでも乃梨子は何から
話せばいいのかはまだ分からずにいた。
そしてそんな乃梨子の代わりとでもいうかのように、志摩子は話を進めてきた。

「悩み事があるのではないの?それに何か、私に遠慮しているみたいに見えるわ。
今日の帰りは特に……」
「遠慮なんてっ」

遠慮どころか、その反対なのだ。話すべきことが見えてきたような気がして、乃梨子は
志摩子の言葉を遮った。

「遠慮なんて……私、なんだか最近志摩子さんのことが気になってしょうがなくて」
「それは、私のことを好いていてくれるからでしょう?」

優しく語り掛ける志摩子の柔らかな声音に促されるように、乃梨子は俯きながらも
話し続けた。

「そうだけど……。でも、志摩子さんの心の中とか、そういうところも知りたくなってきて。
知りたいだけじゃなくて、もっと……もっと深く入り込みたくなってきちゃって」

今までは何のためらいも無く志摩子に近付いていけた。なのにどういう訳だか最近は、
その距離の取り方が分からなくなってきたのだ。
そう、志摩子との距離が縮まれば縮まるほどに……。

「私も乃梨子のことなら、なんでも知りたいと思っているわ」

志摩子のその言葉は、乃梨子には嬉しいものだった。志摩子だって、きっと同じ
気持ちなのだろう。
そう分かってはいるのだが、何故だか割り切れないものもまた乃梨子の心の中には
溜まっていた。そして乃梨子はそれを吐き出すように、言葉を続けた。

「私、自分がこんなに執着心が強い人間だなんて知らなかった。すごく自分勝手な
気がする。ごめん、ごめんね、志摩子さん……」
「乃梨子」

苦しげに呟くと、俯いた視界の隅で志摩子がゆっくりと、立ったままの二人の間の
距離を詰めてくるのが見えた。

「謝ることなんてないわ。誰にだってそういう感情はあるもの。私だって……」

志摩子は一呼吸置いて、話を続ける。

「私だって、あなたが他の人と仲良く話しているのを目にした時、少し嫉妬したわ。
きっと、あなたの一番になりたかったのね」

その言葉を聞いた乃梨子は俯いていた顔を上げ、志摩子の瞳を見つめ答えを返した。

「志摩子さんは、私の一番だよ……」
「乃梨子だって、私の一番だわ」
899名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:41:22 ID:AxOt+p6C
今更言われなくても、それは二人ともとうの昔に実感していることなのだ。
しかし確かな言葉として確認できると、乃梨子の心は急速に満たされ、壁が一つ
取り払われた。

「でも私は、志摩子さんに私のことだけを見てほしいだなんて、そんなこと、
言いたくない」

震える声を途切れ途切れに搾り出しながら立ち尽くす。
そうだ。たぶん、これが一番伝えたかったことなのだ。
言葉として口に出してみて初めて、乃梨子にはそれが分かった。

「そんなあなただから、私は好きなのよ」

無意識のうちに力が入っていた身体に、志摩子が優しく抱きついてくる。
不意に乃梨子は自分の頬に、冷たく、それでいて熱い何かが伝っているのを感じた。
乃梨子の頬には、自分でも知らぬ間に涙が流れていた。

「あなたの悩みに、もっと早く気が付くべきだったわ。……ごめんなさい、乃梨子」
「どうして?どうして、志摩子さんが謝るの……?」

抱きついていた身体を離した志摩子は、静かな瞳で乃梨子のことを見つめている。
その瞳が揺れて見えるのは、自分の目に涙が溢れているからなのだろうか。

「あなたは、本当に優しいわ」

志摩子の右手が乃梨子の頬に延び、涙を拭うようにそっと動いた。
そうしている志摩子の瞳からも、涙が一粒流れ落ちている。
その涙の粒は、乃梨子にはこの上もなく綺麗で純粋なものに見えた。

「あなたには、いつも支えてもらっているのに。これではどちらが姉なのか、
分からないわね……」
「姉とか妹とか、そんなの関係ないよ」

弱々しくそう言った乃梨子に、志摩子が顔を近付けた。その柔らかな唇が、乃梨子の
頬を流れる涙に口接けてくる。

「そんなの、関係ない……」

志摩子の柔らかな唇の感触を頬に感じながら、ぎゅっときつく目を閉じる。
乃梨子の頬を伝う涙の筋が、また僅かに太くなった。
900名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:42:39 ID:AxOt+p6C
立ち尽くす乃梨子の頬を伝う涙に、志摩子は優しく口接けた。

今日の放課後別れたばかりだというのに、「顔が見たくなった」と言って突然家に
やって来た乃梨子。
その乃梨子は今、自分の心を言葉にして涙を流していた。

志摩子はしばらくそんな乃梨子の涙に唇を触れさせたままでいたが、不意に
乃梨子にきつく抱きすくめられ、二人はそのまま畳の上に倒れこんだ。
志摩子を押し倒した乃梨子の腕はいつもよりも力強く、その瞳は今までで一番、
欲情した光を宿していた。
乃梨子は自分の下に組み敷いた志摩子のことを、まだ涙に濡れた瞳でじっと
見つめている。

物事を割り切るのが上手そうな乃梨子のことだ。執着心や独占欲のような慣れない
感情を持て余して、一人悶々としていたのだろう。しかし、その気持ちを自分に
ぶつけてくれたことが志摩子には嬉しかった。

ひと時互いの気持ちを確かめるように見つめ合うと、乃梨子が志摩子に顔を寄せ
唇を重ねてきた。そして自分の唇を乃梨子が激しく求め始めると、志摩子はそれを
受け入れ自分から舌を絡ませていった。

「んっ…」
「は……ぁっ」

志摩子の舌の動きに合わせるように、乃梨子も舌を志摩子の口内に差し込んでくる。
二人は目を閉じ夢中で互いの唇と舌を貪り合いながら、甘い唾液を交換し合った。
その深い口接けはいくらしていても飽きることがなく、息継ぎをするために微かに
唇を離しては、また重ね合わせる。
そしていつしか二人の濡れた唇は、ぴちゃぴちゃと淫靡な音を立て始めていた。


今までで一番激しいキスなのではないだろうか……。
志摩子はそう思いながらも、長く濃厚な口接けで頭は半ば朦朧となりかけていた。
そこに追い討ちをかけるかのように、乃梨子の手が志摩子の胸に延びてくる。
その手が柔らかな膨らみを丹念にこね回すように、ゆっくりと動き始めた。

乃梨子のその手の動きに制服と下着の上からであるにもかかわらず、志摩子の身体は
敏感に反応し、全身が熱く燃えるように急速に火照り始めてくる。
そして志摩子の口内を舐めまわす舌の動きに合わせるかのように、胸を揉みしだく
乃梨子の手の動きが徐々に激しくなってきた。

今日の乃梨子は自分のことを上手く制御できないようだ。
しかし乃梨子のその激しさは志摩子にとって不快なものでは全くなく、その熱さを
自分にぶつけてくる乃梨子のことがたまらなく愛しかった。
そして今こうして乃梨子の想いを受け止めているのは、他の誰でもないこの自分なのだ。
その事実が、志摩子にはこの上もなく嬉しかった。

胸を撫でまわしていた乃梨子の指が、布越しに乳房の登頂を探り当てた。
乃梨子の指の動きがそこを刺激するような細かい動きに変わると、その先端が硬く
勃っていくのが自分でも分かった。そして胸の反応に同調するかのように、下腹部も
どんどんと熱くなってくる。
901名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:43:32 ID:AxOt+p6C
「ん……うんっ……」

口接けの合間を縫って、堪らずに吐息を漏らす。しかしその僅かな隙も逃すまいと
するかのように、すぐに乃梨子の唇が塞いでくる。
そしてその乃梨子の息遣いは、身体を責められている志摩子のものよりも、はるかに
荒く激しいものになっていた。

深い口接けをそのまま続けながら、乃梨子の手が志摩子のスカートの裾をたくし上げ、
その中に入り込んできた。ふとももを這い回り始めたその手のひらに、志摩子の
下半身は敏感に反応する。

温かな手のひらで内股を撫で回される度に、ぞくっとするような感覚が沸き起こる。
その感覚に志摩子は脚を震わせ、身体をすくめた。
そして自分の秘所が熱く脈打ち始めたのを感じたその時、乃梨子の指がショーツの
上からその部分をそっと刺激してきた。

「乃梨子……っ」

敏感な部分を割れ目に沿って指で上下に擦られる度に、気持ちよさが秘所に広がって
くる。そして乃梨子の指の動きに呼応して自分の中心からとろとろと熱い蜜が
溶け出していくのが、志摩子にははっきりと分かった。

「あ、ぁっ」

感じる部分を擦り上げる指の動きが徐々に速度を増してくると、その快感に唇から
漏れ出る嬌声を抑えられなくなり、志摩子はさらにきつく目を閉じた。

「乃梨子、んっ」
「ふ、はぁっ」

ショーツ越しの愛撫を続けながらも、乃梨子はなおも志摩子の唇を求めてくる。
口内と乳房、そして秘所に同時に刺激を受け、志摩子の快感は更に高まった。

布越しの刺激がもどかしい。
志摩子がそう感じ始めたのと同時に唐突に胸と秘所への愛撫が止まり、唇を離した
乃梨子が身体を起こした。志摩子がそれまで閉じていた目を開けると、乃梨子が
荒い息のまま、志摩子のスカートを捲り上げているのが視界の隅に見える。
そして片方の手で腰を軽く持ち上げられると、そのままショーツを脱がされた。

自分の愛液で濡れたショーツが両足から抜き取られると、熱く火照っていた秘所が
外気に晒された。
そのひんやりとした空気を、志摩子が自分の濡れた柔肉に感じた瞬間。
何かぬるぬるとした熱いものが、志摩子の濡れそぼった割れ目に沿って這わされた。
902名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:44:12 ID:AxOt+p6C
「――!?」

今までに体験したことの無い刺激に驚いた志摩子が再び下の方へ視線を移すと、
腰の辺りまで捲り上げられた自分のスカートと、露わになった白い太ももが見えた。
そしてその両脚の間で身体を屈め、乃梨子が自分の秘所に顔を埋めていた。

「乃梨子、だ、だめよっ……!」

乃梨子の熱い吐息を自分の秘所に感じる。そしてその柔らかい舌は、自分の二つの
花びらをゆっくりと押し広げるように、敏感なそこをねっとりと這いまわっていた。
志摩子は乃梨子の予想外の行動に驚いたが、その秘所からは、すぐに抗いがたい
快感が沸き起こってきた。

「そんな、とこ……ゃ、んっ……ぁ、ぁ」

乃梨子の唇と舌での愛撫を秘所に受けながら、志摩子は恥ずかしさと、そしてそれを
上回るほどの凄まじい快感に今までにない興奮を覚えていた。
脚を閉じてしまいたいと思う一方で、乃梨子になら自分の恥ずかしい部分を全て晒しても
いいという気持ちも、確かに心の中に同居していた。
そして自分の秘所を無言で舐め回している乃梨子の舌を感じているうちに、志摩子の
心からは恥ずかしさが徐々に消えていった。

乃梨子の手が自分の脚を更に押し開くように力をかけてくる。
その手に促され、志摩子は羞恥に緊張していた脚の力を抜いた。

志摩子の秘所は乃梨子の唇と舌の愛撫を受け、快感にひくひくと震えていた。
そこからは、とろとろと熱い蜜が流れ続けている。
そして乃梨子の舌が、その志摩子の溢れる愛液を舐め取ろうとするかのような動きで
秘裂を舐め回す。

ぬるっとした舌が秘裂に沿って上下に動く度に、くちくちと小さく湿った音が
跳ねている。
そのいやらしい水音は、乃梨子の唾液と自分の中から溢れ出した淫靡な蜜が合わさって
立てているのだ。そう思った瞬間、志摩子の身体の奥はさらに熱くなった。
そして乃梨子の舌が小さな肉芽に触れると、志摩子は鋭い快感に打ち震えた。

「あ、あっんっ!……乃梨子っ」

肉芽を襲う強い刺激に志摩子は耐え切れず、快感から逃げようとするかのように
腰をくねらせる。しかしその腰は乃梨子が両手でしっかりと押さえつけている
ために、思うように動かせなかった。
それどころか不自由な腰の動きが乃梨子の舌の動きと重なり、予想外の刺激が肉芽に
与えられた。さらなる快感が志摩子を襲う。
903名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:44:46 ID:AxOt+p6C
「んっ、あぁ!の、乃梨子……だめっ、私……っ」
「志摩子さん……」

ひと言小さく志摩子の名を呟くと、乃梨子の舌が志摩子の入り口を弄り始めた。
その舌は、ほぐすようにゆっくりと浅い所を責め立ててくる。
そこから聞こえてくる水音は、くちゃくちゃと徐々に大きくなってきていた。

入り口を舌で軽く掻き回されている志摩子のそこは、奥までは入ってこない乃梨子の
舌を深いところまで引き込もうとするかのように、ひくひくと蠢いている。
そのいやらしい蠢きが自分でも分かり、自分の身体の淫らな反応に志摩子は
身悶えした。

ほどなくして志摩子の腰が快感に細かく震えだすと、乃梨子の唇が秘所から離れ、
その代わりに細い指が志摩子の濡れた膣口にあてがわれた。
柔らかい舌とは違う硬い指の進入を予感して、志摩子の身体は期待に震える。
そしてその震えを抑える間もなく、あてがわれた指はゆっくりと志摩子の中へ
入ってきた。

志摩子の蜜と乃梨子の唾液でとろとろになっていたそこは、容易に細い指を咥え込んだ。
乃梨子の指はきつい膣壁の中をぬぷぬぷと沈み込み、すぐに根元まで埋め込まれる。

自分の体内に感じる異物感に、志摩子は一瞬身をすくめた。しかしその中はすぐ
に快感を生み出し、乃梨子の指を抱き包むようにぐっぐっと脈動し始める。
そしてその動きに合わせるようにゆっくりと出し入れが始まると、待ち望んでいた
刺激を与えられた志摩子の身体は歓喜に震え、唇からは吐息が漏れた。

「乃梨子、ん、んんっ……ぁっ……」

卑猥な水音とともに自分の中を出たり入ったりしている乃梨子の指。
その乃梨子の指を奥まで誘おうとするように蠢く自分の中心。
とろけるように濡れたそこが淫靡な蠢きを繰り返すたびに志摩子の快感は高まって
いき、さらに愛液を溢れさせた。

「志摩子さん、志摩子さんっ」

自分を求めるような乃梨子の声とともに、挿入された指の動きが速くなった。
その動きに合わせて、ぬぷっ、じゅぷっという濡れた音も早く大きくなっている。
乃梨子はその指を根元まで激しく出し入れしていたかと思うと、中に埋めたまま
掻き回すような動きも加えてくる。
904名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:46:05 ID:AxOt+p6C
微妙に変化を付けて蠢く乃梨子の指に、志摩子の限界が近付いてきた。
それを示すかのように、抽送を繰り返す乃梨子の指を膣壁が更にぐっぐっと強く
締め付ける。
すると、もう果てる寸前だった所に、再び乃梨子の舌が肉芽を転がしてきた。

「あ、ああっ!は、あん……、ああ、あぁぁっ……!」

中を掻き回している指に意識が集中していたので不意打ちを食らった感じになり、
予想外の刺激に志摩子は無防備に嬌声を上げた。
乃梨子の指は変わらず激しく体内を行き来しており、唇と舌は快感で硬くなった
肉芽をねっとりとねぶるように、執拗な愛撫を繰り返している。

膣内と肉芽の両方に同時に愛撫を受け、志摩子は秘所から湧き起こる快感に
今度こそ耐え切れなくなった。
自分の脚の間に顔を埋めている乃梨子の頭に、すがるように両手を延ばす。
その黒髪の中に手のひらを埋めると、すぐにその手に乃梨子の空いた片手が
重ねられた。
そしてそれと同時に、志摩子の中で抽送を続けていた乃梨子のもう一方の手の指の
動きが、さらに速くなった。

「乃梨子、乃梨子っ」

声を震わせながら乃梨子の名を呼び、重ね合わせた手の指を絡ませ、きつく握る。
すると乃梨子の手が、自分の手をしっかりと握り返してきた。
乃梨子と強く繋がった手の感触に志摩子の心は満たされ、同時に肉体は快感の波に
さらわれた。

「あ、あ、ああぁっ……!」

志摩子は乃梨子の熱い愛撫を自分の中心に感じながら、細い身体を震わせ快感の
絶頂へと昇りつめていった。

志摩子は荒くなっていた息遣いが徐々に収まるのを感じながら、うっすらと目を
開いた。疲れたのだろうか、乃梨子は志摩子の隣で眠っている。
自分が果てた後、乃梨子に強く抱きしめられたような気がするのだが……。
志摩子はよく覚えていなかった。しばらくの間、少し朦朧としていたのかもしれない。

今日の乃梨子はいつもよりも激しかった。
起こしてしまわないように気をつけながら、すぐ側にある真っ直ぐな黒髪をそっと
撫でる。

「ん……」

志摩子に触れられ乃梨子は僅かに身じろぎをしたものの、起きる気配は無かった。
今日はこのまま泊まらせよう。
志摩子は乃梨子の髪を撫でながら、そう思った。

乃梨子は強い。
自分の心の内を吐露したことによって、きっともっと強くなるだろう。
目覚めた時には、また笑顔を見せてくれる。その確信が、志摩子にはあった。
そう、自分は乃梨子のことを信じているから……。

瞳を閉じ眠るその頬に涙の跡を見つけ、志摩子はそっと手を添えた。

「乃梨子……」

ごめんなさい。
その言葉を口に出せない代わりに、志摩子はそっと乃梨子の涙の跡に口接けた。
905名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:47:19 ID:AxOt+p6C
月曜の朝。私は駆け足でこちらへやって来る乃梨子に、軽く手を振りながら
挨拶をした。

「ごきげんよう、乃梨子」
「ごきげんよう、志摩子さん。今日も寒いね」

二人にはもう馴染みの場所となったお聖堂の前で、私たちは待ち合わせをしていた。
部活の朝練の生徒でさえもまだ登校していないような早朝だったが、時間を告げると
乃梨子はすぐに頷いてくれた。

あの土曜の夜。身体を重ねた後そのまましばらく眠っていた乃梨子は、目が
覚めると少しの間ばつが悪そうにしていた。しかしそれも次の日の朝を迎えると、
すぐにいつもと同じ明るさを取り戻してくれた。

そして今。
乃梨子の瞳は以前と同じ光を放っていた。私を照らしてくれる、あの光を。
あの夜のことがきっかけになって、乃梨子は少しずつ自分の心を受け入れようと
し始めたように、私には見えた。

乃梨子の涙を見るのはあれで二回目だった。
一度目は、今では二人にとって忘れられない思い出となった、あのマリア祭の時。
あの時も、そして今回も、乃梨子が泣くのは私のためだった。

「最近、本当に寒くなってきたわね。風邪を引かないように気をつけないと」
「そうだね。でも志摩子さんが風邪引いたら、今度は私がお見舞いに行ってあげるから」
「それは嬉しいわね。……でも、なるべく引かないように気を付けるわ」

それもちょっと残念だなぁと笑いながら言う乃梨子に、私は安らぎを感じた。

乃梨子のおかげで私は強くなれた。私は乃梨子に何ができるのだろう。
笑顔を取り戻した乃梨子の顔を見ながら、私はそんなことを考えていた。

(乃梨子ももう少し、私に甘えてくれてもいいのよ)

人に甘えることなど滅多にしなさそうな乃梨子にそう言ったら、怒られるだろうか。
いや……きっと、乃梨子は照れてしまうだろう。

「どうしたの、志摩子さん?」
「なんでもないわ」
「そう?でも、なんだか楽しそう」

不思議そうな表情で尋ねる乃梨子。自分でも気付かぬうちに、頬が緩んでいたらしい。

でも乃梨子が私に甘えてくれるとしたら、どんな感じなのだろう。
そう思った私の心に、はにかむようにして頬を染める乃梨子の顔が浮かんだ。
その想像は朝の冷たい空気に冷えた身体とは反対に、私の気持ちを暖かく和ませた。
乃梨子はぱっと見ではそっけない。愛想が悪いように見えることすらある。しかし
あれで案外、人の心を気遣うのだ。

「朝のお聖堂もいいね」

そう言いながらお聖堂の扉を開けようとした乃梨子の腕を、そっと取る。乃梨子は
一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに察したように真剣な眼差しを返してきた。
そして私たちは身体を寄せ合い、そっと互いにもたれるようにしてキスをした。

これからも、互いに支え合いながら歩いていけますように――。

寒空の下で優しく唇を重ねながら、強く抱きしめられる。
私は支え合える相手が側にいてくれることに確かな幸せを感じて、大切なその人を
柔らかに抱きしめ返した。
906名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:48:22 ID:AxOt+p6C
気持ち悪い・・・。
気持ち悪い・・・・。
気持ち悪い・・・・・。

気がつけば、いつのまにか学校で聞いた少女達の言葉が何度も頭の中をリピートし、その度に由乃は落ち込んだ。
そんな事、今更他人に言われるまでも無いわよ、と悪態を心中つきながら、炬燵の上に不貞腐れたように頭をのっけて、由乃は盛大な溜息をついた。
女同士である、という事をさっぴいても自分の恋は八方塞だ。
令との仲が親密であればあるほど、状況は不利だといってもいい。
他の女性とたちに比べて圧倒的に有利な「身近さ」という点が、実は最大の障害だというのも、なんとも皮肉な事だ。
令が由乃を愛している、という点に関して、由乃は疑いを抱いた事は無い。誰よりも愛されている、という自信すらある。
けど、それはあくまで「妹」としてであって・・・それ以外の愛情があるとは、到底思えない。

いっそ・・・従姉妹でなければよかったのに。普通に出会って、普通にスールになりたかったな・・・。祐巳さんみたいに・・・・。

普通に出会って普通に恋に落ちて・・・玉砕覚悟で告白して。
令の方にその気がなかったとしても、告白されたら、悪い気はしないんじゃないだろうか。仮に断わるにしても、一人の女の子として丁寧に扱ってくれるに違いない。

それに令ちゃんってば、結構押しに弱いから、その気がそれまでなくても、強引に迫れば落ちるかもしれないし・・・。

由乃は思わずその様子を想像して、クスリと笑ってしまった。
だが次の瞬間、現実にはありえない、あまりに空しい想像にガクリと項垂れる。

ああ・・・・もういや。こういうの向いていないわ、私。

グルグルと同じ所を回っては、「どうしようもない。」という後ろ向きな答えにたどり着く。
全く持っていけいけGOGO、先手必勝が信条な自分らしくない。
体さえ丈夫になれば全てが上手くいくと思っていた昔の自分は、なんと楽天的であったのだろうか。
今の自分と来たら、告白する事も諦める事も出来ず、ただ悶々と溜息をつくだけだ。
907名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:49:06 ID:AxOt+p6C
「どうしたの?由乃、溜息ばっかりついちゃって・・・。」
「え・・・いや・・なんでもないよ・・・。」

不意に母親に顔を覗き込まれ、由乃は慌てて頭を振った。
それでも尚不審気な母親の顔を見て、由乃は無理やり笑顔を作ってみせる。
手術の成功で健康体になった今でも、両親は由乃の一挙一動にひどく敏感だった。

「もうすぐ試験だなーなんて考えていただけ。」
「そう?ならいいんだけど・・・。」
「それより、何か用があったんじゃないの・」
「あ、そうそう、今日ね、令ちゃん一人だから、夕飯の時に呼んで来てちょうだい。」
「え?何それ。おばさん達いないの?」
「そうなのよ。遠縁の親戚で、不幸があったんですって。」
「令ちゃんは行かなかったの?」

学校のある平日ならとにかく、今日は金曜日。明日から週末に入るのだから、連れて行っても良さそうなものだ。

「それがね、令ちゃんちょっと風邪気味なんですって。たいした事は無いらしいんだけど、
一応大事とって置いていくって言ってたのよ。」
「ふうん。」
「いくら家事が万能でしっかりした令ちゃんでも、こんな時はやっぱり心細いだろうし、色々手間だと思うの。だから、呼んできてちょうだい。」
「わかった。行って来る。」

由乃は頷くと、炬燵からゆっくりと立ち上がった。
どんなに令の事で胃が痛くなるほど悩んでいても、お隣さんであり、従姉妹である令とははこうした「ご近所づきあい」があって、結論が出ようが出まいが、それをこなして行かなければいけない。
どんなに令の事で思いつめていても、会えば、最近お父さんのトイレが長くってさ、トイレ貸してよ、とか肉じゃが大目に作りすぎちゃったからおすそ分け〜とか、そうういった事をニコニコ笑って話さなければならないわけだ。

「・・・・・本当に、まるて家族みたいだよね。」

由乃の呟きに、そうねえと母親は呑気に笑って同意した。
908名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:50:07 ID:AxOt+p6C
インターホンを押してもノックをしても反応が無い。
仕方なく由乃は合鍵で支倉家のドアを開けた。
物音ひとつしなければ明かりもついていない、支倉家から人の気配はしなかった。

「お邪魔しまーす。由乃でーす。」

令のローファーが玄関先にあいてある所を見ると、家にはいるようだ。
具合が良くない、という話だから、もしかして部屋で寝ているのかもしれない。
勝手知ったる支倉家である。由乃は遠慮もなしにそのまま上がりこむと、令の部屋目指して二階へ昇った。

「令ちゃん?由乃だよ。」

令の部屋の扉を軽くノックしてみても、反応はない。
そっと音を立てないように扉をあけてみると、ベッドの上で横たわる令の姿が目に入った。

やっぱり寝ていたんだ。

起こすのも可哀想だし、ここはひとまず退散するか、と由乃が引き返そうとした所、ふいに令が寝返りを打った。思わず引き込まれるように由乃の視線はそちらに動く。

「・・・・ん・・。」

寝返りを打った令は、短く声を漏らした。表情は険しい。悪い夢でも見ているのだろうか。
なんとなく帰る気もそがれてしまい、由乃はふらふらと令のそばに近づいた。
ベッドの脇にある椅子を引き寄せ、そのまま座り込んで令の寝顔を覗きこむ。

令ちゃん、色白いなあ。睫毛も長―い・・・。

しげしげと寝顔を覗き込んで、心中そんな感想を漏らす。
思えば付き合いは長いというのに、令の寝顔をこうしてじっくり眺めたのは初めてのような気がする。
改めてみてみると、令の顔は女性的な甘さや華やかさこそ感じられない物の、至極綺麗に整っている事に気がつかされる。まるで眠りの魔法にかかった王子様のようだ。

「んん・・・。」

時折寝息とも寝言ともつかない声を漏らす、令の整った唇を眺めているうちに、由乃はそこから目が離せなくなった。

令ちゃんの唇はどんな感触だろう・・・・・。どんな味がするんだろう・・・・。

静寂の中、令の吐息だけが辺りを支配している。
日は既に沈みかけ、窓から差し込む夕日が部屋を薄い橙色に染めていた。
由乃は今更ながら、今自分が、この世で一番好きな相手と二人っきりでいるのだ、という事に気がついた。

どうしよう・・・・。

令の寝顔を見ながら、由乃は胸がドキドキする自分に動揺した。
いまだかつて感じたことの無い衝動に、自分で自分に驚いてしまう。

・・・・キスしたい・・・・かも・・・・。
909名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:52:15 ID:AxOt+p6C
 新聞部。
それは、お嬢様学校であるリリアン女学園にあって、急進的とも言える路線を貫く組織だった。
放課後、クラブハウスの一角にある部室で、部長である築山三奈子は部員達を前にしていた。

「さて皆さん、先日の『黄薔薇革命』では色々とありがとう。お蔭で、大スクープをモノにすることが
出来ました。改めて私から、お礼を言わせてもらうわ」

そう前置きをして、三奈子は頭を下げる。ぱらぱらと拍手が沸いたが、どこか遠慮がちな気色が
ないでもない。皆、この後に来るものを予想しての事だった。案の定、次の瞬間にそれは始まった。

「しかしっ!!」

(来た!)
部員達は密かに目を見交わし合った。部長はここからが長い。
「読者は常に、新鮮な話題を求めてやまないもの。リリアンかわら版のさらなる発展のためには、
継続的に読者に話題を提供する事が必須条件となります。そこで皆さんっ!」
どん、とテーブルを叩いて続ける。

「話題は生もの、時間が勝負。今多数の読者が食いつくネタと言えば、やはり山百合会に関する
ゴシップ……いえ、スキャンダル記事……じゃなかった、衝撃のニュースであることは、改めて言うまでもあ
りません。そこで私は、今一度『黄薔薇革命』に匹敵する大スクープを掴むために、部員の皆さんに一
層の奮起を促したいと思います!そのためには、山百合会の幹部達に張り付いて、あらゆる角度から
アタックを試みなくてはなりません。必要とあれば、脅しにすかしに泣き落とし、どんな手でも使って───」

「部長、少し落ち着いてください」
その声は、部員達の一角から発せられた。三奈子は渋い顔をして演説を中断する。声の主は、彼女の妹
である山口真美であった。三奈子の心中など、意にも介さないように真美は続ける。

「あんまり無茶な事をしてると、山百合会だけじゃなくて学校側からも睨まれちゃいますよ?ただでさ
え、最近の新聞部はやりすぎだって言われてるんですから。あれだけの大スクープの後だからこそ、こ
こはあえて慎重に行かないと」
910名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:52:48 ID:AxOt+p6C
妹の冷静な指摘に、姉はますますヒートアップする。

「何言ってるの?ジャーナリズムが権力に迎合してどうするのよ!?いいこと、何者にも媚びず、不偏不党を貫き、真実を追究し続けるのが真のマスコミ人なのよ。ペンは剣よりも強く、鉄は熱いうちに打つ!
これが、私達新聞部のあるべき姿で───」
「あの〜、私達の活動予算は、部長の言う“権力”、つまり学校側から出てるんですけど……?それと、その予算の配分を決めるのは山百合会なわけでして。自分達のスポンサーに喧嘩を売るっていうのは……
ちょっとまずいんじゃないですか?」
「うっ……」

なんて可愛げのない子だろう!思わず三奈子は、童話に出てくる意地悪ばあさんのような述懐を密かに
洩らした。結局、この日の会議は「山百合会その他について、何か目を引く情報があったら報告する
こと」という程度の無難な結論に落ち着いた。下校時、校門への道を歩く三奈子は、真美から見て少し
ご機嫌斜めそうだった。

(ああ……何でうちの妹は、こんなに口やかましいのかしら?私の才能に嫉妬してるってわけでも
なさそうだけど。もうちょっと素直になってくれれば言う事なしなのにねえ。これは私の姉としての指導が
足りないのかも……?)
(ああ……どうしてお姉さまって、ああも自己陶酔して暴走し易いんだろう?記者としては優秀だし、
あれさえなければ理想なお姉さまなのになあ。これは私の妹としての補佐が至らないせい……?)

性格は正反対と言ってもいいほどに違う二人だが、似たような事を考えていたりする。
三奈子が校門の前でぴたりと立ち止まると、二人は同時に口を開いた。

「真美」
「お姉さま」
「……あ、何かしら、真美?」
「いえ、お姉さまこそ先にどうぞ」

しばらく譲り合った後に、三奈子がそれではと話し始めた。

「実はね、私はちょっとしたネタを握ってるのよ」
「へえ。どんな事ですか?」
911名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:54:52 ID:AxOt+p6C
三奈子が言うには、最近黄薔薇姉妹の三人に妙な動きがあるとのことだった。“勉強会”と称して週末は
三人の内誰かの家に集まり、極秘で何やら会議を開いているという。
三奈子にとっては、それがどこか引っ掛るらしい。

「まあ、支倉令と島津由乃の二人がやってるって言うんなら、別に不思議でもないんだけど」

そこに、鳥居江利子までが入っているとなると、少し話は違ってくる。あの三人は、以前そこまで仲が
良く、まとまって行動していただろうか?

「……言われてみれば、ちょっと不思議ですね」

真美は素直に認めた。

「でしょう?人が普段と違う行動を取り、しかもそれを隠したがっている。これはスクープの前兆よ。
まあ蓋を開けてみれば実際には大した事ない話かもしれないけど、こういう小さなネタを丁寧に拾う事
も記者として大切なの。真美にも、その辺分かるわよね?」

へえ、お姉さまって自分に陶酔しがちなところがあるけど、それでも結構真面目に頑張ってるんだ……
ちょっと三奈子を見直した真美だった。

「それじゃ、明日ね。ごきげんよう真美」
「はい。ごきげんよう、お姉さま」

真美は三奈子と別れると、帰路に着く。少し、嬉しくなってきた彼女は、寄り道をせず真っ直ぐ家を
目指した。明日からは、お姉さまの手伝いで忙しくなるかも。頑張ろう!新聞部次期編集長と目される
真美は、決意を新たにしていた。
912名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:55:32 ID:AxOt+p6C
翌日の昼休み、三奈子は黄薔薇三姉妹と接触するべく校内を捜し回った。出来れば、由乃を捕まえたいと
思っていた。やはり、上の二人より下級生の由乃の方が話を通しやすいだろう。いざとなったら、先輩としての
立場を利用してでもネタは掴まなければ。横暴?強権的?だから何?私のような豪腕記者でなけりゃ、
百戦錬磨の新聞部員達のリーダーは務まりませんっての。
などと思いながら一年生の教室前を歩いていると……いた。紅薔薇のつぼみの妹である祐巳と、楽しそうに
話している。

「島津さん、ごきげんよう。ちょっといいかしら?」
「あ……築山三奈子さま。ごきげんよう」

努めてにこやかに話しかけた三奈子は、由乃の態度に警戒心が含まれていることを察知した。これも、
日頃の行いの賜物だろう。元々、歓迎されるなどとは思っていないし、その程度のことでへこむような
三奈子ではないのだった。

「単刀直入に言いますけど、最近貴女達が定期的に行っているという“週末勉強会”のことについて、
色々とお話を伺いたいわ」
「……!」

その途端、由乃の顔がさっと青ざめたのは、三奈子はもちろん祐巳の目にも明らかだった。これは、間違い
なく何かある。三奈子の記者魂が、めらめらと燃え盛り始めた。横では祐巳が、忙しそうに表情を交代させている。
これが噂に高い、『紅薔薇のつぼみの妹の百面相』だろうか。

「……何のお話か、分かりませんけど」
「あら、おかしいわね。じゃあ私が聞いたのはデマだったのかしら?」
「とにかく、私は知りません。それでは、ごきげんよう」

それだけ言うと、由乃は目を白黒させる祐巳の手を引いてそそくさと立ち去ってしまった。
一方、一人残った三奈子にとって、勉強会なるものが“クロ”であることは疑いようのない事実と
なっていた。
913名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:56:15 ID:AxOt+p6C
(黄薔薇第二革命の勃発)

すでに三奈子の脳裏では、一面見出しの煽り文句がルンバを踊っていた。
あとは、取材する算段をつけなくては。しばらく思案すると、彼女はきびすを返した。
そう、築山三奈子の辞書に「あきらめる」という言葉は無いのだから。
そして放課後。三奈子は、薔薇の館に単身乗り込んでいた。

「……それで、いかがでしょう、ロサ・フェティダ。“勉強会”の取材に応じて頂けますか?」

二階の会議室にいるのは、三奈子の他に黄薔薇の三姉妹。
それ以外の幹部達は、ロサ・フェティダこと鳥居江利子の要望により席を外している。一種、異様な
雰囲気だった。由乃は敵意むき出しの視線で三奈子を睨みつけ、令は不安そうに由乃の手を握っている。
二人の右側に座った江利子は、まったくの無表情だった。
しばらくの間、部屋を沈黙が支配し、そして───

「いいわよ。取材なさっても」
「……本当ですか!?」
「お、お姉さま!?」
「そんな!私反対!絶対反対っ!」

江利子の言葉に、三人は驚愕の表情を見せる。
黄薔薇三姉妹にとって、決して他人に知られてはならない秘密。それが暴かれようとしているのに、
江利子の態度には余裕すら垣間見えた。

「ただ、一つ確認しておきたいことがあるわ。貴女には妹がいるわよね?」
「え?はい。山口真美といいます。記者としては優秀なんですけど、これが結構生意気な娘でして───あ……ゴホン。それが何か?」
「うん。出来たら、その娘も連れてきて欲しいのだけれど」
「え……真美をですか?分かりました。それでは、都合を聞いてみます」
「じゃあ、日曜の十一時に集合ね。場所は、後で連絡するから」
「はい。それでは、今日はありがとうございました。ロサ・フェティダ」
「どういたしまして。それでは、ごきげんよう」

ビンゴ。思わず心の中でガッツポーズを取る三奈子。正直な所、ここまで上手く行くとは思っていなかった。
断られたら、以前の自分の言葉通りに脅し→すかし→泣き落としの三段構えで望もうと思っていたのだけれど。
令と由乃は納得がいかなそうな顔をしていたが、やはり薔薇さまの言葉は鶴の一声。
上下関係の厳しいリリアンでは、上級生の言いつけに逆らう事は出来ないのだった。自分の判断の正しさに満足した三奈子は礼を言って意気揚々と薔薇の館を出て行った。後には、三姉妹が残された。

「お姉さま、どういうつもりですか!?取材を許可するなんて!」
「そうですよ江利子さま、あの人に知られたら、どんなことになるか!」

令と由乃は、血相を変えて江利子に詰め寄る。しかし、当の江利子は余裕さえ感じられる笑みを浮かべており、
困ったような様子は欠片も無い。

「大丈夫よ、二人とも。そんなに慌てないで。私に考えがあるから」

二人をなだめるように両手を挙げると、彼女は窓に歩み寄った。眼下に、嬉しそうに走り去って行く三奈子の姿が見える。

「いい夢を見れるといいわね」

そう呟くと、江利子はわずかに唇の端を上げ、微笑した。
914名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:56:52 ID:AxOt+p6C
その後、三奈子は新聞部の部室で黄薔薇姉妹との交渉成立を真美に誇らしげに告げた。彼女には、姉として
自分が敏腕記者であることを常に妹に証明して見せなければならないという気負いがある。今も、
「どう、少しは見直した?真美」と言いたげな雰囲気を全身から醸し出している。しかし、真美は三奈子が
期待していたような反応を示さなかった。腕組みをしたまま、眉をひそめて考え込んでいる。

「……どうしたの、真美。何か言いたいことがあるなら、はっきりおっしゃい」
「ええ……はっきりとは分かりませんが、何かおかしいと思います」
「どういうことよ?」
「それは……こう言ってはなんですが、お姉さまは山百合会の人達にあまり良く思われていないと
思うんです。それなのに、どうしてそうあっさり取材の許可が出たんでしょうか?」

またこれだ。三奈子は天を仰ぐ。自分の妹は、人がいい気分に浸っている時に冷水を浴びせかけるのが
趣味なのだろうか。しかし真美は、姉の心中になど無頓着そうに続ける。

「もし取材させてくれるとしても、本当の“勉強会”の内容をお姉さまに見せてくれるという保証はどこにも無いです。
当たり障りの無い事をして見せて、煙に巻くつもりかも知れませんよ?」
「ああもう!分かったわよ。じゃああなたは来ないでいいから、家で待ってなさい!例え黄薔薇姉妹が
適当にお茶を濁そうとしても、この築山三奈子が新聞部部長の肩書きに懸けても真相を探り出して見せますから!
いいこと?見てらっしゃいよ、真美!」

それだけ言うと、三奈子はごきげんようも言わずにドスドスと部室を出て行ってしまった。後に残された
真美は(ちょっと言い過ぎたかな)と思いながらも、やはり自分が感じた違和感を拭い去る事が出来ないでいる。

「大丈夫かな、お姉さま……また無茶な事しなきゃいいけど……」

しかし、忠告する以上のことは今の自分には出来そうにない。しばらく考えていた真美は、やがて頭を
振ると原稿の執筆に取り掛かった。ふと外を見ると、鉛色のどんよりとした空が広がり、木々が風に強く
揺られている。嵐が来るのだろうか。


そして日曜日。
三奈子は早めに目を覚まし、身支度を整えると準備する道具を確認した。
メモ帳、シャーペン、テープレコーダーにカメラ。
取材用のアイテムに抜かりは無い。三奈子としては、出来れば“取材七つ道具”なるものを用意
したかったのだが、残念ながら四つしか集まらなかった。まあ、いいとしよう。

意気揚々と家を出た三奈子は、待ち合わせ場所の駅に向かう。そこでは、令と由乃が待っていた。三奈子が
挨拶をすると、二人も朗らかに挨拶を返してきた。自分の取材を嫌がっていたはずの二人だが、何か心境の変化でも
あったのだろうか?少し気になった三奈子だが、他愛の無い会話を交わすうちに、その思いもいつの間にか消えていた。
目指すは、集合場所である鳥居江利子の自宅。

(さあて……この築山三奈子、黄薔薇革命に続くスクープ、絶対にゲットして見せるわよっ!)
915名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:57:37 ID:AxOt+p6C
到着した鳥居家の玄関先で、三奈子は決意を新たにする。令がインターホンを押してしばらくすると、
江利子が玄関のドアを開けて出てきて、とびきりの笑顔を作って言う。

「ごきげんよう、三奈子さん。待ちかねてましたわ。あら、真美さんは一緒じゃないの?」
「ごきげんよう、ロサ・フェティダ。妹はちょっと都合が悪くて、私一人なんです」
「そう、残念ね……でも、よく来てくれたわ。さあ、上がってちょうだい」
「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」

江利子に導かれて、三奈子の姿は鳥居家に吸い込まれた。後に令と由乃が続く。
そして……
日が暮れるまで、三奈子を含めて誰一人そこから出て来る者はいなかった。
夕闇が垂れ込めた住宅街に、関東には飛来しないはずのワタリガラスが不吉な鳴き声を木霊させていた。

「それでお姉さま、取材の結果はどうだったんですか?何かいい情報がありましたか?」

翌日、真美はクラブハウスの前で三奈子を捉まえると、開口一番に聞いた。

「えっ……ええ、まあ、その……あれは……」

はっとしたように振り向いた三奈子は、うつむき加減にぼそぼそと呟く。真美は、怪訝な顔をした。
お姉さま、いつもの元気はどうしちゃったんだろう。

「あの、もしかして、やっぱり上手く行きませんでした?適当に誤魔化されちゃったとか……」
「いえ……まあ、結局大したことじゃなかったのよ。だから、あの件は忘れていいわ」

お姉さま、何か変だ。いつものお姉さまなら、「せっかくいいネタを掴んだと思ったのに、無駄足だったわっ!でも、私はこんなことであきらめたりしなくってよ!」とか言いそうなのに。

「お姉さま。何かあったんじゃないですか?」

その一言に、三奈子が一瞬凍りついたのを真美は確かに見た。

「何でもないわ……本当に、何でもないの」
「嘘です。何かあったんですね?話してください。誰にも言いませんから」
「だから何でもないって、言ってるでしょう!?」
「!……わかりました」
「……分かってくれたのね」

三奈子は、少しほっとしたように肩をなで下ろした。しかし、

「今度は、私も行ってみます。それで、真相を探り出して見せます」
「それは駄目っ!!絶対に駄目よ、真美っ!!」

突然、必死の形相で叫ぶ三奈子に、真美はびくりとする。

「お願い……もういいのよ。何も無かった。私の勘違いだったの。納得してちょうだい、真美」
「そんな……そんなのってないです、お姉さま。真実を追究するのが、真のマスコミ人じゃなかったんですか?
そんなお姉さまのことが好きだったのに!もういいです、私が一人ででもやって見せますから。お姉さまには頼みません。失礼します」
「待って……待ってよ、真美……」

走り去っていく真美の姿に、三奈子はがっくりとうなだれた。

「私だけで十分なのに……あなたは巻き添えにしたくないのに……」

木にもたれながら呟く三奈子の目に、うっすらと涙が光っていた。
916名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 18:59:31 ID:AxOt+p6C
それから一週間近く、三奈子と真美はほとんど口も利かなかった。
思いつめたようにふさぎ込む三奈子と、不機嫌そうにしている真美。他の新聞部員達も、そんな二人の姿に居心地の悪さを感じる時間が過ぎ、そして───

また日曜日がやって来た。それまで、真美は何もしていなかったわけではない。
それとなく黄薔薇姉妹の会話に聞き耳を立て、日曜にまた“勉強会”が行われること、その場所は島津由乃の自宅であること、三奈子がまたそこに行くらしいこと、などの情報を掴んだ。

「こうなったら、行くしかないよね……」

そして日曜の午前、少し迷った末に真美は島津家を発見した。外見には、ひっそりと静まり返っているその家。
何の変哲も無い。しかしその刹那、真美は自分の前頭葉付近に何かが閃いた様な感覚を覚えた。上手く言えないが、何か大変な事が───

(見えるわ……私には、何かが見える!ここでは、良くないことが起こっている……)

意を決した真美は、息を吸い込むと呼び鈴を鳴らした。
その時、二階の閉められたカーテンがわずかに開き、また素早く閉じられた事に彼女は気付かない。
焦燥に駆られながら待っていると、しばらくして玄関から由乃が出てきた。少し息を切らせている。

「あら、真美さんごきげんよう。今日は何の御用かしら?」
「ごきげんよう、由乃さん。ここに、私のお姉さまが来てると思うんですが」
「……ええ。いらっしゃってるけど。あなたも取材?」
「そうです。中に入れていただけますか?」
「ごめんなさい、ちょっと待っててもらえる?」
「……はい」

由乃はきびすを返すと、家の中に消える。待っている間にも、真美は体内で膨れ上がる焦燥感を持て余していた。しばらくすると由乃が戻ってきた。

「どうぞ、真美さん。今ちょっと立て込んでるけど、入って」
「お邪魔します」

真美は、由乃の後について家に上がり、階段を上がって行った。
後ろからは由乃の表情は見えないが、その歩き方からは楽しそうな雰囲気が伝わってくる。それが
先刻感じた違和感と合わせて、奇妙に不安な気分にさせる。

(一体、何がどうなってるんだろう……)
そう思った時、由乃が振り返って言った。

「ここよ。いらっしゃい、真美さん。入って」

促されて我に返った真美は、ドアのノブに手を掛け、回して開けた。そこには……
917名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:00:30 ID:AxOt+p6C
真美の眼前には、信じられない光景が展開されていた。昼だというのにカーテンを閉められて薄暗い部屋の中に、三つの人影が浮かんでいた。江利子、令、そして……三奈子。三人の肢体が一糸まとわぬ姿で、ベッドの上で悩ましげに絡み合っている。

「……嘘……何?何なの……これ……?」

呆然とする真美。ふと、肌の感触を背に感じて硬直した。由乃が後ろから抱き付いている。

「ふふ。いつかの私みたいな反応するんだね、真美さん」

そう言うと、真美の左のうなじをねっとりと舐めた。

「ひゃうっ!」
「あ、可愛い……くすっ」

動転した真美の視界は、極度に狭くなっていた。捉えていたのは、江利子と令に弄ばれる三奈子。江利子に後ろから抱きすくめられ、乳房を愛撫されている。そして両脚が大きく開かれたことによってあらわになった秘部を、令が一心に舐め回していた。

「はむっ……ああ、はあ、もう……やめ……んあっ!」
「二回目ともなると、大分具合がいいみたいね。そっちはどう?令」
「ぷはっ……はい、お姉さま。いやらしい液がどんどん溢れてますよ。経験なかったって言うのが、嘘みたいに」
「そう。良かったわね三奈子さん。これから、何も考えられなくなるまで可愛がってあげるわ」
「い、いやあ……もう、ゆるして……んむっ……」

信じられない。どうして、お姉さまがこんな目に?真美は、由乃に抱き付かれている事も忘れて叫んだ。

「やめて下さい!お姉さまに、何をするんですか!?放してあげて下さい!」

その言葉に、江利子はおやという表情で真美の方を見る。

「あら、真美さん。ごきげんよう。どうしたの、大きな声出して」
「ふ、ふざけないで下さい!お姉さまにひどいことをしておいて、その態度は何ですか!?」
「え?ひどいこと?よく分からないわね……私達は、三奈子さんに取材させてあげてるだけだけど?」
「なっ……これのどこが取材ですか!?人を馬鹿にするのもたいがいに───」

「はいはい。その辺の事は、この由乃が教えてあげますよ〜」

真美の耳に口を近づけ、由乃はささやいた。そして、“勉強会”が始まった切っ掛けと、三奈子がベッドの上で弄ばれるようになるまでの経緯を、かいつまんで語った。そして最後に付け加えた。三奈子さまは私達の“勉強会”を文字通り体を張って取材しているのだ、と。

「そんな……それじゃ、勉強会っていうのは……」
「ふふ、驚いた?真美さん。私たち三人は、いつも皆で愛し合ってるの」
「そう、先週までは誰にも邪魔されずに来たの。この三奈子さんが嗅ぎつけるまではね」
「でも、もう何の心配も無いわ。三奈子さんはすっかり素直になってくれたし、それに───」

江利子の言葉に、由乃が語を継いだ。

「真美さんも、こうして来てくれたわけだしね」

そう言うと、真美の胸に手を伸ばす。真美は、その意味する所を悟って凍りついた。
918名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:01:10 ID:AxOt+p6C
「いっ……いやあ!放して!お姉さま、助けて!」
「あっ、ちょっと、暴れないでよ、真美さん」
「あらあら、困ったわね……令」
「はい、お姉さま」

江利子の目配せに、令は立ち上がって真美の前までやって来ると、その細い両肩に手を置いた。

「真美ちゃん。お姉さまを困らせちゃいけないよ」
「……!?困らせるって、そんな……」
「そうそう、三奈子さまって、すごく妹想いなのよ。自分はどうなってもいいから、真美にだけは手を出さないで、ってね」
「そんな……そんな……私……」

立ち尽くす真美を、三奈子は虚ろな目で見つめた。その口から、か細い声が。

「真美……どうして……どうして来たの……?来ちゃいけないって言ったのに……」
「……お姉さま……ごめんなさい……私、お姉さまの言いつけを守らないで……」

「……お願い……妹は……真美だけは……はぁんっ」
「麗しい姉妹愛ね。ちょっと感動しちゃったわ、三奈子さん」

そう言いながらも、江利子は責める手を休めない。三奈子の乳首を片手でつまみながら、熱く濡れそぼった
陰唇を指でなぞる。三奈子のそれは本人の意思とは裏腹に、さらなる刺激を渇望して叫んでいるようだった。

「んあっ、はあんっ!あっ……ああ……」
「意外と早く、私達のものになってくれたわよ。三奈子さんは。素質があったのかしらね?」
「うん。令ちゃんと同じぐらいえっちなカラダだったかな?あんなに濡らしちゃって…うふふ」
「ちょ、ちょっと、由乃……もう」

悪夢を見るような思いの真美の前で、三奈子の瞳にわずかに残っていた理性の光がゆっくりと消えていった。取って代わったのは、淫靡な牝の視線。全身を襲う快楽に身を任せた証だった。

「はあっ……ううん……あっ、そ、そこぉ……」
「あらあら、もう駄目みたいね、三奈子さんは。……そろそろかしらね。令、由乃」
「はい、お姉さま」
「真美さん、準備はいいかな〜?」
「なっ……何をするんですか!?」

膝を震わせながら身悶える真美の服を、令と由乃は涼しい顔で脱がせていく。

「いえね、お姉さまだけに恥ずかしい思いをさせてるっていうのは、妹としてどうかな、と思ってね」
「そうだね。私がお姉さまに教えられた事、真美ちゃんにも教えてあげるよ」
「嫌……嫌です。やめて……」
「大丈夫。怖いのは最初だけだから」
「すぐに、三奈子さまみたいに気持ち良くなるよ……安心して、真美さん」
919名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:01:51 ID:AxOt+p6C
そして数分後。
三奈子と真美は全裸にされた上、隣り合う形で床に寝かされていた。三奈子を令が、真美を由乃がそれぞれ責める格好だった。

「やあっ……あっああっ……ひゃうっ!」
「やめてえ……はあう……んん……あっ」
「う〜ん、やっぱり姉妹は仲良くしてる姿が美しいわね」

ベッドの上で脚を組み、満足そうにうなずく江利子。その言葉をかすかに聴覚で認識しながら、真美は快感と自己嫌悪の間で揺れていた。
お姉さまは、もう抵抗もできないほどに快楽に身を任せてしまっているのだろうか。そんなの嫌だ。私のお姉さまは、そんないやらしい人じゃない。
今は、せめて私がしっかりしないと───小悪魔的な笑みを浮かべ、念入りに自分の乳房を舐め上げながら時折欲情したような視線を向ける由乃の瞳から目を背けると、真美は必死に自我を保とうとした。

「くうっ……お、お姉さま、しっかりして……負けないで……んっ」
「はぁん……真美ぃ……いいの……あっ、あんっ」
「あ、真美さんたらまだ頑張ってるんだ。自分に素直になろうよ。ふふっ」
「あら。意外と強情な娘ね。それじゃ私もお手伝いしてあげましょうか」

見物を決め込んでいた江利子は、真美の側に来ると両手で真美の太腿を抱え込み、真美の花園に唇を這わせ始めた。
由乃は少し脇に寄り、真美の唇を奪いながら乳房を揉みしだく。二人の容赦ない責めに、それまで細波のようだった快感の襲来が、津波のように押し寄せてくる。

「んんーっ!んぐっ……むっ、んっんっむ−っ!」
「はむっ……んんっ、ぷはっ……くふっ。江利子さま、真美さんもう限界みたいです」
「ああんっ、いいっ、いくっ!ひぁっ、うぁぁっ!」

肉体的な交わりなど全くの未経験だった真美は、さながら激流に揉まれる木の葉のように翻弄され、性的な悦びを味わうどころではなかった。
もはや羞恥と言う感情すらも凍結し、理性は事態の非現実性を否定して意識から遊離する。こんなのは嘘だ、と呪文のように繰り返してみたが、肉体に潜む何かが彼女を容赦なく限界へと追い立てていく。混濁した無意識の中で、真美は本能的に三奈子を求め、手を伸ばしていた。
920名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:02:28 ID:AxOt+p6C
「ひあっ……もうダメぇ……お姉さま……ごめんなさい……わたし……ああっ!」
「んっ……ちゅぱっ……お姉さま、三奈子さんもそろそろみたいです」
「びちゃっ……くちゅっ……ふう。そうみたいね。さあ、真美ちゃん。我慢しなくていいのよ。愛しのお姉さまと一緒にイきなさい」
「ふあっ……あっ、ああっ、んああああーっ!」
「真美ぃ!……あっあっあっ、ああんっ!ま、真美ぃ!ああーっ!」

絶頂に達して、ぐったりと倒れ込んだ三奈子と真美。二人の片手が、堅く握り合わされているのを見た江利子は、くすりと笑った。

「本当に、仲のいいことね……」

姉妹の絆の欠片が、淫靡な香りの漂う部屋に、一筋のきらめきを残していた。


そして次の週が来た。三奈子と真美は、あらかじめ由乃に言い含められている。

「今週も“勉強会”をするから。二人とも、また取材に来るわよね?」

それは、質問の形を取った事実上の命令だった。三奈子は真美の片手をしっかりと握りながら、ただ力なく頷くことしかできない。楽しそうに去っていく由乃。その後姿を見送りながら、三奈子はうめく様に言った。

「ごめんなさい、真美……こんな事になったのも全部、私のせいだわ……許してとは言わない。でも、せめて貴女がこれ以上辛い目に遭わなくても済むようにしたいの。それだけは、分かってちょうだい」
「……どうするんですか?」
「ロザリオを、返して」
「……そんな!?」

それは、三奈子なりの誠意のつもりだった。
姉妹関係を解消することで真美に対する責任を取り、三姉妹に対しては真美にこの事を絶対に口外しないと誓わせる。あとは、自分一人が彼女達に弄ばれればそれでいい。それは同時に、真美が約束を破らないことを保証するものでもある。
江利子達も、三奈子という保険があれば納得してくれるだろう───そう説明する三奈子の表情は、真美が今まで見たこともないほど優しかった。

「ダメです……お姉さま、そんなの絶対に嫌です!」
「真美、お願いだから……」
「お姉さまが私を嫌いになったら捨てるって言うなら別ですけど、自分から妹をやめたいなんて考えた事もありません。お姉さまが私を必要としてくれる限り、私はお姉さまの妹です!」
921名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:03:36 ID:AxOt+p6C
「……解ってるの?このままだったらあなた、いつまでもあんな目に遭わされるのよ?私はもう手遅れかもしれないけど、せめてあなただけは───」
「確かに私、あんな目には遭いたくありません。でも、お姉さまを犠牲にして自分だけ逃げるなんていうのはもっと嫌です。二人で挫けずに頑張れば、いつかなんとかなるはずですよ。逃げずに立ち向かいましょう、お姉さま」

三奈子は驚いた。常に冷静で物事を冷めた目で見ていると思っていた真美が、まるでいつもの自分のような物言いをしていることに。その真っ直ぐな瞳を見返す内に、涙で妹の顔の輪郭がぼやけて、揺れた。

「真美……好きよ」
「あっ……」

内なる衝動の命ずるままに、三奈子は真美の唇を塞ぐ。一瞬硬直した真美は、やがて力を抜いて三奈子の両腕に身体を預けていた。やがてそっと真美を放した三奈子は、伝い落ちる涙を拭わずに言う。

「これからも、私の妹でいて。真美」

風は冷たかったが、二人の心はそれを忘れさせるほどに暖かく火照っていた。


しかし、二人にとっての試練はまだ終わらない。その週の日曜日、江利子は“勉強会”会場の支倉家でおごそかに宣言した。

「今日は、特別ゲストを招待してあるの。……そろそろね」

その言葉を見計らったかのように、玄関のインターホンが鳴る。身を寄せ合いながら手を握り合う二人とは対照的な明るい表情で由乃が部屋を出て行き、やがて戻って来ると、一呼吸置いてからドアを開けた。

「写真部のエース、武嶋蔦子さんで〜す!どぉぞぉ〜」
「ごきげんよう、蔦子さん。“勉強会”へようこそ」
「や、どうもお邪魔します。武嶋です、本日はよろしく」
「いらっしゃい、蔦子さん」
「そんな……!?」
「あ、あなた……」

小脇に高価そうなカメラを抱え、コットンのシャツにポケットが多く付いたカメラマンベスト、下はジーンズという、実用性と機能性を重んじたスタイルの蔦子は、屈託なさげに髪をかき上げながら言う。

「なんでも、こちらでいい写真が撮れると聞きましたので」
922名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:04:44 ID:AxOt+p6C
師走。
2学期の期末試験も終わって、明日から試験休み。
お風呂にも入って、明日はゆっくり寝てようとか考えてたとき、突然リビングの電話が鳴った。

「はい福沢です。あら佐藤さん。ええ覚えていますよ。去年の薔薇さまでらした佐藤さんでしょう?」
ぶっ!
飲んでたお茶を吹きそうになる。っていうか少し吹いてしまった。
なんで? 聖さまから電話? いやな予感がしつつもお母さんと変わる。

『やっほー、祐巳ちゃん、元気?』
ああ、全くちっとも変わってない。
「元気ですよ」
そっけなく言ってみるが、聖さまにはちっともこたえてないようだ。
『高等部は明日から試験休みだよね。明日・明後日暇? 山百合会の現役とOGの交流合宿をしようと思うんだけど』
「急ですね」
また突然何を言い出すんだろうこのひとは。
『うん、急、急』
「どこに行くんですか?」
『一泊だし、近くだよ。私のうちから1時間もかからないところ。お金もかかんないし』
「はあ、」
『ちゃんと泊まれるところだから』
「今年のお正月みたいにまた祥子さまのところに押しかけるなんて嫌ですよ」
『やだなあ祐巳ちゃん。私を信じてくれないの?』
「信じられますか」
お金がかからない宿泊施設ってことは、リリアン学園の研修所かなんかだろうか。
由乃さんが剣道部の合宿で行ったって聞いた事ある。
「他に誰が来るんですか?」
『さあ、祐巳ちゃんに一番に話してるから、まだよく分からない』
「う〜ん」

聖さまのことだ、きっと何か裏がある。
でも、OGとの交流会ってことは蓉子さまや江利子さまが来るかもしれないし…。
「行きます。ちょっと待ってください。親に聞いてみます」
『は〜い、待ってるよん』
私はお母さんから宿泊許可を貰い、明日の待ち合わせ場所と時間を決めて電話を切った。
923名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:05:23 ID:AxOt+p6C
翌日午後、M駅前のコンビニ。
時間ぴったりについたが、他の誰も見当たらない。…なんだか嫌な予感がする。
「やっほ」
「ぎゃう!」
後ろから突然抱きつかれた。振り返ってみると、やっぱり聖さま。
「おお、怪獣の子どもはまだ健在かぁ」
私の頭をなでなでして体を離すと、「さ、行こうか」といって歩き出そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ誰も…」
「ああ、みんな来ないって」
「はあぁぁ?」
かくんと顎が落ちた。
「一本でも、ニンジン。二人でも?」
「…合宿」
こんな会話、前にもしたような気がする。
「これのどこが現役OG交流合宿なんですか?」
そこまで言って、ハッと思い至った。
「まさか、私が現役で、聖さまがOGだって言うんじゃ…」
「お、勘がいいねえ」
…頭が痛くなってきた。
「帰りますむぎゅぅ!」
慌てて逃げようとするが聖さまにがっちりつかまって引きずられてしまう。
「まあまあ、一晩なんだし付き合いなさい」
「たすけてぇ! おかあさ〜ん!」
道行く人にはただの女の子同士のじゃれあいにしか見えないようで、当然、助けてくれる人など誰もいなかった。

そのまま駅ビルの中に入ると、地下の食品売り場に直行する。
「今夜のご飯と明日の朝ごはん、あとお菓子ね」
「…食事も出ない宿泊施設なんて聞いた事ありませんよ」
もうわけが分からない。昨日の話が全部でたらめに思えてくる。
「ああ、ちょっとした事情があって、ご飯は持ち込みにしようと思うの。だから、ね?」
「うぅぅ」
こうやっていつも聖さまに流されるんだ、私。
不安だけど、それを楽しんじゃっている自分がちょっと、憎い。


買い物を済ませ、駅前駐車場から聖さまの車に乗る。
聖さまはなぜか、デパートのビニール袋をさらに大きな紙袋にいれた。
「出発!」



車に乗って1時間もしないうちに「そろそろだよ」と言われた。どうやら本当に近いらしい。
「どこですか?」
「ここ」

聖さまがウインカーをつけて敷地に入る。
…都内でも有名な、ある高級ホテルだった。
924名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:05:59 ID:AxOt+p6C
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど。
私の中で道路工事が止まらない。
呆然としているうちに車から下ろされ、
聖さまが、ホテルの人(ドアマンさんとかいうらしい)に車のキーを渡してしまっていた。
去っていく黄色い車。
私が立ち直ったのは、既にロビーに入った後だった。

「ちょ、ちょっと聖さま聖さま、聖さま聖さま聖さま、聖さまったら!」
名前を連呼して、フロントに行きかけたの止める。
そのままロビーの端まで引きずって耳打ちする。
「本当にココに泊まるんですか? 冗談だったら本気で怒りますよ!」
「いいじゃん、なかなか経験できないっしょ?」
「勘弁してくださいよ〜。お小遣い足りるはずないじゃないですか」
ガクガクと聖さまの肩を揺さぶる。
うう、ロビーの豪華さに打ちのめされて涙声になってしまう。
半泣きな私を見て、さすがに聖さまが悪いと思ったのか、ポケットから封筒を取り出した。
「実はね、宿泊ご招待券があるの。今年の初めに親が福引で当てたんだけど、
 こんなとこわざわざ泊まりに来ることないし、もうすぐ使用期限が切れちゃうし」
だから、もったいないから使ってみようと言う気になった、とネタばらしをしてくれた。
「でもでも、未成年二人で泊まれるんですか?」
「ああ、予約するときに22歳だって言ってあるから平気」
へなへなと力が抜ける。
聖さまが慌てて支え、近くのソファに座らせてくれた。
「じゃ、私チェックインしてくるから」


堂々とした態度で、フロントに行く聖さま。やがて一人のベルボーイさんを連れて戻ってきた。
「お待たせ。荷物もってもらいな」
「は、はい!よろしくお願いします!」
ボーイさんにガチガチに緊張して、直立不動で話しかけてしまう。
聖さまは、声にこそ出さなかったけど、腹を抱えて笑っていた。

「こちらでございます」
ボーイさんが開けてくれた扉。ドアプレートに"Royal Suite"と書いてある。
いくら英語が平均点な私でもわかる。
これはろいやるすいーとと読むんじゃないのでしょうか。
ということは、この部屋はいわゆるろいやるすいーとるーむなんじゃないでしょうか。
またも呆然としているうちに、ボーイさんは荷物を置いて出て行った。


「おーー、凄いよ、祐巳ちゃん、おいでよ」
部屋の奥から、珍しくはしゃいだ感じの聖さまの声。
つられて行ってみると、その意味がよく分かった。
925名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:06:34 ID:AxOt+p6C
すごい。派手だと言うわけではないが、高級なのが一目で分かる調度品が一杯。
「うわぁ〜、3部屋もあるよぉ」
リビングルーム、ちょっとしたバーカウンターもあるダイニング。そして寝室。
「って、何でダブルベッドなんですか!」
「へ?」
思わず叫んでしまった私に、聖さまはちょっとだけ間抜けな声を出した。
いくら聖さまでも有名高級ホテルのロイヤルスイートは予想以上のものだったらしい。
「もしかして、これで寝るんですか!」
「いいじゃん、女同士なんだし。それとも祐巳ちゃんソファで寝る? ロイヤルスイートの」
「ううううう」
「大丈夫だって。さあ、ご飯食べよ」

聖さまは紙袋を開けだした。
「もしかして、わざわざ紙袋に入れたのって」
「当たり。ホテルにご飯持ち込むのちょっと恥ずかしかったから。ルームサービス頼むわけにもいかないでしょ? いくらかかるかわかんないし」
確かに。このホテルのレストランもすごく高いお店ばかりだろう。

ダイニングで買ってきたご飯を食べた。聖さまはウェルカムドリンクのウィスキーをちょっとだけ飲んでご機嫌だった。

「さ、お風呂お風呂! お先にどうぞ」

蛇口から出たお湯が私の胸辺りまで溜まっている。広いバスタブに浸かって手足を伸ばす。
今日は聖さまに驚かされっぱなしだ。
嫌いじゃない、むしろ大好きな先輩だけど、今日はびっくりの連発だったから、一人になって少しほっとした。

「祐巳ちゃん、湯加減はどう?」
「いいお湯ですよ〜」
曇りガラスの向こうから声がする。
「んじゃ、私も入るね〜」
へ?
言葉の意味を理解でないでいるうちに、ドアが開いて、聖さまが入ってきた。

「お邪魔さま」
タオルで前を隠した聖さまが湯気の向こうに見える。
お酒でちょっとだけ赤くなった頬や首筋が、バスルームの明かりを反射して、それが湯気でぼうっと光って幻想的…じゃなくて!
「ちょ、ちょっと! 何で入ってくるんですか!」
慌てて身をすくめる、首までお湯に使って体を隠す。
「いいじゃん。女同士なんだし。それにこんな広いのに、一人で入ったら寂しいでしょ」
ざばっとかけ湯をする聖さま。
令さまほどじゃないけど、骨格がしっかりしててそこに無駄なくお肉がついてて、ああ、見とれちゃいそう。
「ん〜? 私の美しいカラダにめろめろ?」
図星を指されてはっとする。涎が出そうになってた。いかんいかん、気をしっかり持たねば。
「ちょっと詰めてね」
そういいながら聖さまがバスタブに入ってくる。詰めてね、とはいったものの、じゅうぶん広いので狭苦しさはちっとも感じない。
私みたいに体を縮こまらせていないので、胸の谷間がお湯の外ではっきりと見える。
わあ、お肌つるつるだぁ。
ちょっと下に目をやると、水面にゆらゆら揺れる聖さまのお体が。
桜色のつんと尖ったあれとか、もっと下のほうの…あ、聖さまちょっと濃い目?
926名無しさんの次レスにご期待下さい:2006/04/24(月) 19:07:10 ID:AxOt+p6C
「祐巳ちゃ〜ん、いくら私でもそうじろじろ見られたらはずかしいよ」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて目をそらす。鼻までぶくぶくとお湯につかって、そこで初めてなんだか甘いにおいがするのが分かった。
「あ、気がついた? これ」
聖さまが手に隠し持っていたものを見せてくれる。
「バスオイルだよ。カカオバターとか、他にも色々入ってるって」
そういって指先で固まりをほぐす。バスオイルがとけてだんだんと小さくなってく。

「チョコレートのにおいですね」
「祐巳ちゃん、甘党だから。好きかなって」
きらきら光る小さな粒がお湯の中に広がって、私たちの肌につく。
「ラメ、ですか」
「うん、ラメが入ってたみたいだ」
バスルームの中がチョコのにおいで一杯になる。
「チョコの中にいるみたいですね」
ぽつりというと、聖さまはクスっと笑って、私の髪に触れた。
「髪をほどいても可愛いね…祐巳ちゃんの髪はさしずめメイプルパーラーのミルクチョコってところかな?」
「聖さまはもっと茶色いですね。五円チョコ?」
「失礼な。ハーシーズといってほしいなぁ」
くすくす笑いながらお互いの髪を撫でる。
バスオイルのおかげでお湯がとってもまろやか、いいにおい。
ちょっとだけあった疲れがお湯の中に溶けていっちゃいそうだ。

「眠っちゃわないうちにからだ、洗おう」

せっけんはココナツの香りがするものだった。
「わあ、これ、においちょっと強すぎですよう」
それにしても、よくこんなにバスオイルとかせっけんとかが用意されているものだと思う。
「泊まる人の希望に合わせてフレグランスを変えてくれるのが、ここの売りみたい」
私の疑問を読み取ったらしく、聖さまが教えてくれた。
「祐巳ちゃんの為に、甘い香りのするもので統一してみました」
「それはどうも、ってなに見てるんですかぁ!」
なんと聖さま、バスタブの淵に顎を乗せて、こっちをじっくり見ているではないか。
とろんとした目とにや〜っとしたオヤジ笑い。危険だ。危険すぎる。

「何見てるかって、祐巳ちゃんがおっぱい洗うところとか、脇腹洗うところとか」
ああ、この人お酒入ってたんだっけ。
お酒とお風呂と甘いにおいで、脳みそメルトダウンだ。

「ゆみちゅわん。おせなかながしましょうかぁ」
ざばっ。
聖さまがゆらりと立ち上がる。
一糸まとわぬ肌を、きらきら光るお湯が滑っていく。
お湯に隠されてた聖さまのからだがはっきりと見える。
綺麗な形の胸とか、想像通りちょっと濃い目のヘアとか、腰のくびれとか。
カカオのにおいが舞い上がる。



お父さん、お母さん。
祐巳の貞操は…今夜限りかもしれません。