「…トイレ」
私がおめでたいんだかおめでたくないんだか良くわからない初夢から目覚めると、まだ午前3時だった。
「うう、寒い」
祥子さまや白薔薇さまを起こさないようにそっと廊下にでる。
板張りの廊下はしんとした冷たさに満ちていた。
(なんだったんだろう、さっきの夢)
一富士、二鷹、三なすびとは言うけれど、一祥子さま、二白薔薇さま、三キャンディーなんてわけがわからない。
語呂もちっとも合ってないし。
それでも、初夢で祥子さまを見れたんだからきっと縁起が良い夢に違いない。今年も仲良くできるといいな。
そんなことを考えながら用を足し、足早に廊下を戻る。あったかい布団が恋しい。
暗い廊下は似たような障子が延々と続いていて、帰りにはちょっと迷ってしまった。
「ただいまー」
そっと呟きながら障子を開ける。祥子さまの静かな寝息が聞こえてきてほっとした。
「…おかえり」
「ひゃっ!」
返事を返されるとは全く思ってなかったのでビックリしてしまった。
夜だからと慌てて口を押さえたのでほとんど声は漏れなかったけど。
「何よ祐巳ちゃん。人のこと幽霊みたいに」
白薔薇さまが布団の中で憮然としてこっちを見てる。
「だって、返事が返ってくるなんて思わなかったんですもん。あれ、もしかして起こしちゃいました?」
私は祥子さまの足元を回りながら囁き返した。
「ううん、最近あまり眠れないんだ。さあ、寒いから早く布団に入りなさい」
お布団にはいりなさいって、あの、何でご自分の掛け布団を持ち上げてるんですか。
「もしかして、私にそこに入れとおっしゃいますか」
「あたり。ほら、あったかい空気が逃げちゃうから早く」
ちょいちょい、と手招きする白薔薇さま。
「せっかくですがお断りします」
「えー」
そりゃ、白薔薇様ファンクラブの人たちからすればとんでもないシチュエーションなんだろうけど、私は残念ながら違う。
小声でブーイングしてくる白薔薇さまを無視して自分の布団にもぐりこんだ。
「祐巳ちゃんを抱っこしてぬくぬく眠りたかったのになー」
「人を抱き枕か湯たんぽみたいに言わないでください」
さらりと凄いこと言ってませんか、白薔薇さま。
「祥子さまがいるのにそんなことできるわけないじゃないですか」
「あれ、じゃあ祥子がいなければ一緒に寝てくれるの?」
「違います」
まったく白薔薇さまったら正月だろうと深夜だろうと365日24時間オヤジモードなんだから。
ふん、と仰向きになって寝ちゃおうとしたときだった。
「ねえ、ちょっとお話しよ」
振り向くと白薔薇さまが、布団から手だけだして手招きしてる。
「ここから先は絶対行かないから。ね、こっち来て」
ここ、といいながら指で線を示す。私と敷布団と白薔薇様のそれの境目が国境らしい。
「本当ですね。嘘ついたら怪獣の子どもみたいに騒ぎますよ」
「わはは、さすがにそれは怖い」
白薔薇様はもう国境の近くまで転がってきた。
「約束する。お願い」