週末の駅前公園。しかもイルミネーション付。
噴水前広場は、夜の7時半といっても二人の想像よりもはるかに多い人にあふれていた。
「多いね、人」
「うん」
「カップルばっかだね」
「そうだね」
ライトアップは街路樹まで施されていて、夜を鮮やかに染め上げている。
空は一面の曇天なので、かえって明かりの綺麗さが引き立つようだった。
由乃が「寒いから」といって令ちゃんの腕にしがみついてみせると、令ちゃんはもうご機嫌。
お母さんの許可を取るのはちょっと大変だったけど、来て良かったなあとのん気に考える令だった。
「で、あれがマリア様の噴水なの?」
「そうだと思う。噴水これしかないし」
人と人の隙間を縫って歩く。
令ちゃんが体を押し込むようにして噴水がよく見れるスペースを確保してくれた。
「「わあっ…!」」
踊る、踊る、光の粒。
綺麗だねー、と平凡な感想を漏らしながら二人で寄り添った。
「で、マリア様はどこ?」
「あ」
そうだ、そのためにここに来たんだった。二人できょろきょろと見回すがそれっぽいものはない。
「何あれ」
由乃がこっそりと指差した先にはお賽銭を入れて拍手を打つカップルがいた。
「何だかなあ。やっぱりただの噂だったんじゃないの?」
「むー」
自分でも本心から信じて来たわけではない由乃は返す言葉もない。
「どうする? 帰る?」
「もうちょっと居ようよ。せっかく来たんだし」
「はいはい」
と、公園の時計が8時の鐘を鳴らしたその時。
「八時キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!」
「八時キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!」
「マリア様マンセ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!」
突然二人の真後ろから叫び声が湧き上がった。
色々な外見の男たちが輪になって万歳を繰り返している。
カメラのフラッシュが焚かれる。
二人はびっくりしてその場に立ち尽くした。無言で。
周りのカップルの中にも、迷惑そうにその場を離れだすのが出始めた。
「諸君、私はマリア様が好きだ。
諸君、私はマリア様が好きだ。
諸君、私はマリア様が大好きだ。……」
なんだかわけの分からない演説まで始まった。
「令ちゃん」
「うん、何だか怖いね。あっち行こう」
自分たちの学園のシンボルが馬鹿にされているようで気分が悪い。
男たちの雰囲気におされるようにして、二人はその場を避けて人けのないほうに歩いていった。