「私が一緒にお姉さまに謝ってあげるから。ね、こんなことやめようよ」
「やだ! 江利子さまに謝るぐらいだったらぜーーーったい作ってやる!」
はあ…。その場に居合わせた面々のため息。
「第一、令ちゃんだって妹選びで何の苦労もしてないじゃない。偉そうなこといわないでよ」
その言葉にさすがにカチンときたのか、令さまが立ち上がって写真を机に叩きつけた。
「由乃! じゃあなに? 私が他の人と姉妹になればよかったってこと?」
「そんな事言ってないもん。令ちゃんのばか」
「まったくもう! 剣道部の試合もあるってのに! 先行くから!」
令さまはぷいっと顔を背けると、鞄を掴んで肩を怒らせながら部屋から出て行った。
階段がぎしぎし悲鳴を上げるのが扉越しにも聞こえる。
気まずい沈黙。
「…由乃さん」
「分かってる。私が悪かった」
かさかさと写真をかき集める。
祐巳はそれを手伝いながら(あーあ、また痛めちゃった。蔦子さんになんていおう)などと考えていた。
「じゃあ、私も剣道部行くね。写真、蔦子さんに返しておいて」
さすがに反省したのか、由乃はいつになくしおらしい態度で言った。
「うん、頑張って」
祐巳がほっとした様子で送りだす。
由乃がドアを開いた瞬間、お茶の用意をしてた乃梨子がぽつりとつぶやいた。
「…こうなったら神頼みでもやってみます?」
『あるインターネット掲示板で見たんですけど。K駅前に中央公園がありますよね、
あそこの噴水、クリスマスに向けてライトアップが開始されたんですよ。
で、夜そこに行くとマリア様が現れて願い事を聞いてくれるという噂が…』
昨日の乃梨子ちゃんの言葉が頭の中でリフレインしている。
そのときはばかばかしいって一笑に付したけど、今朝いっしょに登校している令ちゃんの仏頂面を見ていると突然思い出した。
いつもは楽しい令ちゃんとの登校。
でも、けんかして仲直りの出来てない日は由乃にとって苦行以外の何物でもなかった。
「ねえ、令ちゃん」
「何」
昨日、あの後の剣道部でも令ちゃんはまったく話しかけてくれなかった。
試合を控えてピリピリしているときに(令ちゃんは気が小さいから本番の結構まえからいらいらし始めるのだ)
怒らせたのは大間違いだったようだ。
(何とか仲直りしなきゃ)
そうしないと、妹選びに(もしかしたら江利子さまに謝るのにも)差し支えてしまう。
「今日は私、放課後薔薇の館行けないからね」
つまり黄薔薇のつぼみ妹選考会議には参加できないという意味だろう。やっぱりまだ怒っている。
何か仲直りの出来るアイディアは無いものか。
『あそこの噴水、クリスマスに向けてライトアップが開始されたんですよ。
あそこの噴水、クリスマスに向けてライトアップが開始されたんですよ。
あそこの噴水、クリスマスに向けてライトアップが開始されたんですよ…』
ぱっと閃いた。乃梨子ちゃんありがとう。
「ねえ令ちゃん、明日の土曜行きたいところがあるんだけど…」
仲直りデートを切り出せば、令ちゃんの態度が軟化することを由乃はよく知っていた。