「祐巳ちゃん、氷砂糖ばっかり食べないでよ」
「えー、だって乾パン硬いんですもん」
「若いうちから歯を鍛えなきゃだーめ」
そんな他愛もない事でも話が弾む。白薔薇さまも、祐巳と同じく冬休みに退屈してたんだろう。
正しいごろ寝とは何か、できゃあきゃあ盛り上がる。
何の拍子だろう、ふっと話が途切れた。
雲の隙間から日光が差し込み二人を照らす。
祐巳が窓の外に目を向け、暖かいな、と呟いたときだった。
「…ふっ、う…」
呻き声? 驚いて振り向くとさっきまでとまったく違う白薔薇さまが、いた。
うつむき加減で両目を閉じ、右手は口を抑え声を殺している。
「どど、どうしたんですか!? 気分でも悪いんですか!?」
慌てて傍によって訊いたが、目を伏せたまま首を横に振られる。
どうしよう、もしかしたら保健の先生が校舎にいるかもしれない、そう考えて外に出ようとすると、
「待って」
微かな声だったが、祐巳の足を止めるには十分だった。
口を押さえたまま白薔薇さまがゆらりと立ち上がり、言う。
「ごめん、肩、貸して」
トイレにでも行くのかな。そう判断して白薔薇さまの左腕を取って自分の肩に廻した。
「歩けますか?」
一歩踏み出そうとした、その時、
祐巳は後ろからもの凄い力で抱きしめられた。
「ぎゃっ!」
驚くと同時に怒りが湧いてきた。
本気で心配したのに、白薔薇さまにとってはスキンシップの前振りに過ぎないんだ。
「白薔薇さま! いくらなんでも!」
やりすぎです、と振り向いて言おうとしたが放してくれない。
顔が祐巳の背中に強く押し当てられるのを感じた。
「ごめん、ホントごめん…」
祐巳がふと目を下ろすと、白薔薇さまの手が祐巳の制服の生地を掴んでいた。
小刻みに震えるその手は、力の入りすぎで真っ白になってる。
白薔薇さまの腕で締め上げられ、祐巳が身をよじる。それでも腕はそのままだった。
しんとした薔薇の館。
何も言わないない白薔薇さま。
祐巳は驚きから立ち直ると同時に、だんだん怖くなってきた。
「あのー…」
そう呼びかけた祐巳の耳に何かが聞こえてくる。
「ふっ、くぅ…んん、ぁぁ…」
嗚咽? いや違った。