「志摩子さん、あ、あの……」
思いがけない展開に動揺し、乃梨子が小さく声を出すと、志摩子さんは乃梨子の手を
握っていた手に少し力を込めた。
そしてその手に志摩子さんの温かみを感じた乃梨子は、動揺していた気持ちを抑え一瞬で
覚悟を決めた。
緊張した身体を志摩子さんの方に寄せながら、乃梨子も目を閉じた。
そして――そっと唇を重ね合わせる。
初めて触れた志摩子さんの唇は、とても柔らかかった。
唇を合わせていた間は時間の流れがとてもゆっくりと感じられた。
しかしいざ離れてみるとそれはとても短い時間だったということが分かり、乃梨子にはそれが少し不思議だった。
目を開いた乃梨子の瞳に、少し頬を赤く染めた志摩子さんの顔が映る。
(……キスした後って、どんな顔すればいいんだろ)
破裂しそうなほどに高鳴る心臓と、熱くなる身体。そして志摩子さんに受け入れられた自分の心を、
乃梨子はまだ持て余していた。
「志摩子さん……」
「乃梨子、ありがとう……。あなたの気持ちが聞けて嬉しいわ」
そう言った志摩子さんはしかし、少し寂しげな微笑みを浮かべて言葉を続けた。
「私の気持ちも分かってくれていると思っていたのだけど。でもやっぱり私は、いつも少し
言葉が足りないようね。あなたのことを苦しめてしまったかしら……」
「そんなことないっ」
志摩子さんは全然悪くないのに。
そう言う志摩子さんのことがいじらしく感じられて、乃梨子は思わず志摩子さんのことを抱きしめてしまった。
そして志摩子さんの鼓動を胸に感じながら、自分の気持ちを全部話してしまおうと乃梨子は決意した。
「私、志摩子さんにキスとかこういう事とか……もっと先の事とかもしたいって、そんな風にも
思ってたんだけど……。それでもまだ私のこと、好きって、言ってくれる?」
「どんな乃梨子でも、私は好きよ……」
その言葉を聞いた乃梨子は、志摩子さんを抱きしめた腕にさらに力を込めた。
腕の中に志摩子さんの身体の温かさを感じながら、そのままベッドに押し倒す。
「志摩子さん……」
乃梨子はベッドの上で、自分の下に横たわり目を閉じている志摩子さんと夢中で唇を
合わせた。
ぎこちなく、自分の舌で志摩子さんの唇を開かせる。
志摩子さんとの距離がまた一歩近付いたことを実感し、乃梨子の心は高揚していた。
ディープキスの経験などなかったが、口付けは自然に熱を帯び始める。