「まったく。祐巳さんも乃梨子ちゃんも、不甲斐ないわ」
由乃さんは「しょうがないわねぇ」という風に腕を組み、椅子の背もたれにもたれかかった。
そして「ふう」、と一息つくと、祐巳と乃梨子ちゃんに向かって、おもむろにレクチャーを始めた。
「いい、祐巳さん、乃梨子ちゃん。今の流行は『年下攻め』。これなのよ」
そりゃあ、あなたのところはそうでしょうけど。祐巳はそう思ったが、口にはしなかった。
乃梨子ちゃんの方を見てみると、微妙な表情で固まっている。
彼女もきっと、祐巳と同じことを思っているに違いない。
「『誘い受け』っていう手もあるけど、これは高度な技だから、初心者にはオススメしないわ」
由乃さんはノっている。祐巳にも乃梨子ちゃんにも止められない。
そしてそんな固まる二人のことは気にもせず、由乃さんは固めたこぶしをダンッとテーブルに
振り下ろし、ただ呆然と由乃さんの話を聞くだけの祐巳と乃梨子ちゃんに向かって気合いを
入れた。
「とにかく!今夜は最後のチャンスなんだからっ。頑張ってよ、二人とも!!」
頑張って、って言われてもなぁ。
乃梨子はベッドの上に寝転がりながら、ひとり密かに溜め息をついていた。
(でも、確かに今夜が最後のチャンスだよね)
姉妹ごとに割り当てられた二人部屋。志摩子さんは自分のベッドの上に座り、静かに髪を梳かしている。
乃梨子はそんな志摩子さんの様子を、さっきからこっそり伺っていた。
そして由乃さまの言葉を思い出しては、今日ここで自分の気持ちにケリを付けるべきかどうなのか、
自分のベッドの上でごろごろしながら思い悩んでいたのだ。
しかしそれもここまでだ。
乃梨子はやっと、「いつまでも行動を起こさずにウジウジしているのは自分らしくない」と
結論を出し、「やっぱり言うなら今しかない」と心の中で自分に活を入れた。
そして自分を励ますように勢いをつけて起き上がると、意を決して志摩子さんに話し掛けた。
「あの、志摩子さん。ちょっと大事な話が」
突然真剣な眼差しと声音でそんなことを言い出した乃梨子に、志摩子さんはほんの少し驚いたようだ。
しかしすぐに気を取り直すと、髪を梳かしていた手を止め頷きながら返事をした。
「大事な話?いいわ、何かしら」
そう言い手に持っていた櫛を脇に置き、乃梨子を誘うように志摩子さんは一人分のスペースを
空けてベッドの上に座り直した。
それを見て、乃梨子は緊張しつつも志摩子さんの隣に並んで腰を掛ける。
志摩子さんはただ静かに、乃梨子が口を開くのを待っている。
「あのさ、志摩子さん」
この先を言ってしまったら志摩子さんに嫌われてしまうかもしれない。
乃梨子はそう思ったが、今更後に引く気は更々なかった。