「なんでしょう、由乃さま」
丁度自分の紅茶を入れて戻るところだった乃梨子ちゃんは、そのまま祐巳たちのテーブル
までやって来た。
「まあまあちょっと、ここへ座ってちょうだい」
「はあ」
乃梨子ちゃんは祐巳たちの正面の椅子に腰を下ろし、手に持っていた紅茶をテーブルに置いた。
「乃梨子ちゃんって、志摩子さんのこと好きなのよね?」
「え。……ええ、まあ……好きですけど」
乃梨子ちゃんが向かいの席に落ち着くやいなや、由乃さんは何の前置きもなくいきなり
本題を切り出した。
そして由乃さんの言葉にさすがに少し驚いたような乃梨子ちゃんは、由乃さんの質問の真意を
計りかねるというように、やや曖昧に頷いた。
本当は志摩子さんのことが大好きなはずなんだけど。
由乃さんが何を企んでいるのか分からないので、とりあえずは慎重に返事をする作戦なのだ、きっと。
「やっぱり好きよねえ。で、昨日の夜は部屋で二人っきりだったわけだけど。志摩子さんと
何かした?例えばキスとか」
どこまでもストレートな由乃さん。
「……えっと。そのようなことは、何もしてませんけれど」
「ダメじゃない!志摩子さんを押し倒すなりなんなりして襲わなきゃ!!」
ぶっ!
横で聞いていた祐巳は、飲みかけていた紅茶を吹いた。
「襲わなきゃ」って!そうまでしてさせたいのか、由乃さん。
祐巳は慌てながらもハンカチを取り出し、濡れた口元とテーブルを拭いた。
乃梨子ちゃんはというと、驚きの表情を浮かべて固まっている。
「いい、乃梨子ちゃん。向こうが積極的に出るのを待ってるんなら、それはダメよ。
なんたって相手はあの志摩子さんなんだから。乃梨子ちゃんの方から一歩を踏み出さないと、
いつまで経っても進展なんてしないわよ。ここは強気にいきなさい!私が許すわっ」
熱く語りまくる由乃さん。
そして乃梨子ちゃんは、話の方向性が見えてきたのだろうか。落ち着いた口調で由乃さんに
こう言った。
「あの。人のことより、由乃さまの方はどうなんですか」
乃梨子ちゃんは自分たちのことから話題をそらそうと、由乃さんに切り返した。
でもね乃梨子ちゃん、その戦法は由乃さんには通用しないよ。
「うちは昨日もエッチしたし、今夜もするわよ」
平然と返す由乃さん。ああやっぱり、と祐巳は思った。へえ、今夜もするんだ……って、ええっ!?
由乃さん、さりげなく凄いことを宣言している。
「…………そうなんですか」
そしてそれを聞いた乃梨子ちゃん。
そうなんですか、って。言葉だけ聞くと、いつもの冷めた乃梨子ちゃんの反応に思えるけれど。
見ると乃梨子ちゃんは、スティックシュガーと間違えたのか、紅茶にタバスコを入れようとしている。
あーあ、思いっきり動揺してるでしょ。