「まったく由乃は情けないなぁ。あれくらいの運動で身体が悲鳴をあげるなんて、やっぱり
まだまだね」
「しょうがないでしょ、スポーツ全般実技は初心者なんだから。それより次は脚揉んで、令ちゃん」
「はいはい」と言い、令ちゃんは由乃の腕をマッサージしていた手を止めた。
うつ伏せになっていた由乃の脚の方に身体を移し、ふくらはぎからマッサージを始める。
お泊り旅行の一日目。
スポーツ好きの由乃の提案で、まずはテニス大会が開催された。
それ自体はさほど時間もかからず終了したのだが、皆がコテージに帰った後も、由乃は
令ちゃんとその場に残り、テニスの個人レッスンをしてもらったのだ。
テニスをしている最中はプレイに夢中で疲れなど感じなかった。
しかし夕食も終わり入浴も済ませ自分たちの寝室に戻ってくると、疲れが一気に表面化
したかのように、全身がもうガクガクになっていた。
そんな訳で、とりあえず筋肉の疲れをほぐしておこうという令ちゃんの手によって、由乃は
マッサージを受けているのだ。
体育会系の部活で長年鍛えてきたためか、令ちゃんはマッサージも上手かった。
「うーん、気持ちいい」と思いながら、由乃はゆったりと身体を弛緩させる。
「脚も結構きてるね」
「令ちゃん、もうちょっと上」
「ん?ここ?」
マッサージをする令ちゃんに、由乃はあれこれ注文をつけていた。
そしてその度に令ちゃんは「由乃はマッサージにもうるさいんだね。ちょっとは私に任せてよ」と
困ったように言うのだが。
口ではぶつぶつ言いながらも、結局最後は由乃の言う通りにしてくれるのだ。
何故なら令ちゃんは優しいから。
そうしてまた由乃のリクエストに応えた令ちゃんの手は、軽く揉むような動きで由乃の
ふくらはぎからふとももの方へと動く。
「あ、そこっ…。気持ちいい。……あん」
令ちゃんの手がふとももを揉み始めるとすぐに、由乃は声を上げた。
その声はイケイケの由乃でさえも、「今のはさすがにただのマッサージにはちょっと
似合わなかったかなぁ」と思ってしまうような艶を帯びた声音になっていた。
そして由乃のその、艶っぽい声を聞いた令ちゃんはというと。
案の定、由乃の声を聞いた瞬間、由乃のふとももに置いていた手を確かに少しだけピクリと
させたのだった。
しかしそれもほんの一瞬のことで、令ちゃんは何事もなかったかのようにマッサージを再開
したのだけれども。その手の動きがそれまでと比べて少しぎこちなくなっていることは、
由乃にはバレバレだったのである。
「ね、そこ、…ぅん…もっと、……あぁっ」
「…………ちょっと由乃。ヘンな声出さないでよ」
悩ましげな吐息が混ざり始めた由乃の声に、令ちゃんが憮然としたような声で呟く。
うつ伏せになっている由乃は、頭の後ろにその声を聞いた。
もう、令ちゃんったら。無理して我慢しなくてもいいのに。
由乃は更に追い討ちをかけることにした。
「だって令ちゃん、んんっ……上手なんだもん……やっ、いい……」
由乃が熱い息を吐きながらそう言うと、マッサージしていた令ちゃんの手が完全に止まった。
――支倉令、落ちたな。由乃は心の中でVサインを出した。