「まったく。なんのためにわざわざ色別二人部屋にしたと思ってるのよ」
由乃さんは「わざわざ」って言うけれど。
ここは元々二階にツインルームが四部屋ある建物だ。
だったら一部屋余るけれど、色別に姉妹二人が同じ部屋に寝るのが一番自然な分け方では
なかろうか。実際部屋割りした時も、そういう風にあっさり決まったわけだし。
しかしそんなことは忘れたかのような由乃さん。かまわず話を続けてくる。
「まあそんなことだろうとは思ったけど。それに祐巳さんとこだけじゃなくって、白薔薇さんちも
あの様子だと、昨夜は何もなかったようね」
そう言って由乃さんは、離れたテーブルにいる志摩子さんと乃梨子ちゃんの方を見やった。
つられて祐巳も顔を向けると、二人は楽しそうにおしゃべりしている。
「何もなかったって、どうして分かるの?」
「全然いつもと変わらないじゃない、あの二人」
「でも志摩子さんも乃梨子ちゃんも、思ってることがあまり顔に出ないタイプなんじゃない?」
祐巳がそう言うと、由乃さんは得意げな顔付きをして解説を始めた。
「あそこの姉妹は誕生してまだ半年も経っていないしね。さすがに愛の営みがあった後に
何事も無かったかのように振る舞えるようになるには、私と令ちゃんくらいの年季が必要なのよ。
今日の私と令ちゃん、普段と別に変わらないでしょ?」
「うん、いつもと同じ。いつも通りの仲良しさん」
返事をしながら「ふうん、そういうものなんだ。さすが由乃さんとこは違うね」、って祐巳は思った。
…………って、
「あ、愛の営みぃ!?」
「しーっ!祐巳さん、あまり大きな声出すと向こうに聞こえるわよ」
まったく、そんなに驚かなくたっていいじゃない。
祐巳のことをジト目で見ながら、そうぶつぶつ言う由乃さん。
「じゃ、じゃあ……、由乃さんは令さまと、昨夜、その、あの……」
しどろもどろになる祐巳に、由乃さんはあっさり答えた。
「私と令ちゃん?もちろんしたわよ。エッチ。昨日が初めてじゃないけど」
「――――――!!」
思わずまた大きな声を出しそうになってしまったけれど、先回りした由乃さんに、その口を
手で塞がれてしまった。
きっとまた、考えていることが顔に出ていたのだろう。なんせ祐巳は百面相だから。
慌てた祐巳が祥子さまたちのテーブルを見ると、こちらの様子には全く気付いておられないようで、
祥子さまは令さまたちと歓談なさっている。
祥子さまに自分の百面相を見られていなくてよかった。
そして今の由乃さんのセリフを聞かれなくてよかった。
祐巳はきっと今も見守っていて下さるだろうマリア様に、心の中で感謝した。
「まあ、さすがにいつもと違う場所だから、少し盛り上がったけどね」
祐巳のことを落ち着かせてそう言いながら、由乃さんはちょっとだけ何かを思い出しているような
表情になった。
もしかして昨夜のことを思い出しているのかな、と祐巳は思った。
でもいつもイケイケな由乃さん。
その由乃さんが言う「少し盛り上がった」とは、一体どれくらいの盛り上がり方なのだろう……。