私立リリアン女学園で先日行われた体育祭。
その代休と週末が上手く重なり、生徒たちにはありがたいことに三連休となった。
そこで祐巳たち薔薇の館の面々六名は、体育祭の打ち上げ及び反省会と称して、
二泊三日のお泊り旅行にやって来た。
ちなみにここは小笠原グループが所有するリゾート地の一角。
静かな木立に囲まれた貸切コテージに泊まり、三日の間敷地内にあるコートでテニスを
したり、あたりを散策したり、あるいは広めのダイニングで歓談したりしながら更に親交を
深めるのが目的。
体育祭の反省会はもちろんのこと、遊びや食事当番も無事にこなし、今は二日目の夕食後。
食後のティータイムに、他愛の無い話などをしながら皆で盛り上がっていた。
その最中、由乃さんに「祐巳さん、ちょっと」と呼ばれた祐巳は、皆からは少し離れた窓辺の
テーブルに行き、そこに由乃と二人で腰を下ろしたのだった。
「ねえねえ、昨夜はどうだった?」
由乃さんは自分と祐巳、二人分の紅茶を入れ祐巳の横の席に着くと、声をひそめて
祐巳に囁いた。
しかし囁かれた祐巳の方はというと。
由乃さんの言う「昨夜はどうだった」という言葉を頭の中で何度繰り返してみても、彼女が
一体何を聞きたがっているのかが、どうしても見当が付かなかったのである。
「え?昨日の夜?何が?」
きょとんとした顔で答える祐巳の言葉を聞き、「はあ」と溜め息をつく由乃さん。
内緒話をするかのように、祐巳の方へと身体を寄せる。
「せっかく祥子さまと部屋で二人っきりの夜だったのよ。まさか、何にもなかったってわけじゃ
ないでしょうね?」
「えっ。な、何もって、何が!?」
そうは言ったものの。
さっきと違い、今度はここまではっきり聞かれているのに、由乃さんが言っている意味が
分からないほど祐巳も鈍くはなかった。
この場合の「何か」とは。
つまりその、キスとか更にはもっと先の……アッチ関係、のことであろう。
でも、何かあったかって聞かれても……。
「……その様子だと、何にもなかったのね」
「うー。お察しの通りです」
残念ながら、何もありませんでした。
情けない顔をして答える祐巳を見て、由乃さんはまたもや「はあ〜」と大きく溜め息をついた。