「あ、これって」
「そう!凄い勢いで泡がどーっ!って出る、アレよ」
えっへん。と、胸を張りながら、由乃があまりにも断片的過ぎる適当な知識を披露する。
「最近いろいろ忙しいでしょ?肩凝っちゃって。これだったら血行とか良くなりそうじゃない?」
「由乃…銭湯巡りのおばさんじゃないんだし」
確かに生徒会に籍を置くふたりは秋に集中する様々な所用に振り回されて、
この所お互いにいささかお疲れ気味ではあったのだが、
その慰労を身内同然の同姓と共にこんな場所で行おうかという女子高生とは、果たして。
「…でも、いいのかな。こんな場所でお風呂なんて」
とはいえ、校内では中世的なルックスでミスターリリアンなどと慕われながらも、
しっかり中身はお年頃の娘さんである令としては、純和風造りの自宅の浴室には望めない
こういったシャレたお風呂にも少しだけ憧れてしまったりもする。
「いいじゃない。令ちゃんどうぞどうぞ。広いお風呂でゆっくりなんて素敵でしょ」
にっこりと由乃スマイルでそう言われたら、それは令にとっては『お勧め』ではなく、
むしろ『強制』に近いものがある。
この場合、事を穏便に済ませるためには果たしてどうしたものか。
その疑念に、令は即座に長年の経験と反省から最良と思える結論を導き出した。
ここは余計な事は言わずにおいて、由乃におとなしく従うのが得策だと。
無力だなロサ・フェティダ。
「…うん、そうだね。たまには足を伸ばせるような広いお風呂もいいね」
「そぉ?じゃ、決まりね!」
やれやれ。お風呂に少し浸かったら、由乃が温まるのを待ってすぐに帰ろう。
そんな事を考えながらトレーナーに手を掛けた令の目に、
その由乃がするするとソックスを脱ぎ始めるのが入った。
あれ?今、由乃『令ちゃんどうぞ』って言わなかったっけ?
にも関わらず、自分の目の前で服を脱ぎ始める由乃…はて?
そんな当然の疑念に固まった令の姿に、由乃がけげんそうな顔を向ける。
「…令ちゃん、お風呂入るんでしょ?」
「…そうだけど」
「じゃ、早く脱いでよ」
「は?」
呆れた。という顔で、脱ぐ手を止めて由乃が向き直る。
「…あのね。令ちゃん、お風呂っていうのは服を着たまま入るものじゃないでしょ?
だったらまず着てる物を脱がないと」
「いや、それはそうなんだけど、な…なんで由乃も服を脱いでるわけ!?」
こめかみにひとさし指を当てながら、由乃はやれやれという顔で首を振り、
目の前のお姉さまに向けて容赦のない言葉を浴びせた。
「ばかね。令ちゃんったら」
ぼそりと呟いた由乃のキツイ一言にぐっと言葉を詰まらせながら、それでも思わず令の視線は
ブラウスのボタンを外して前をはだけた由乃の胸に向いてしまう。
あ。由乃、今日の下着可愛い。…いや、そうじゃなくて。
「チラシでタダになるのは1時間しかないのよ」
由乃に言われるまでもなく、それくらいは令にも判っている。
むしろそれが前提でこんな所まで引っ張って来られたわけなのだが、
それと由乃の突然の脱衣の因果関係が令にはさっぱり見えてこないのだ。
「…だ…だから?」
はぁ。っと、由乃は大きく溜め息を吐きながら、心底呆れたような顔で令の顔をまじまじと見た。
「だからあ、いっしょに入るに決まってるじゃないの。時間ないんだし」