「ね?令ちゃんカラオケやろやろ」
「別にいいよ」
「テレビは何が写るのかな。…うわっ!エッチなビデオやってる!」
「…み!見ちゃダメだってば!」
「だったらプレステでもやろっか。私、スペインね」
「ウイイレは苦手だから…」
テンションの上がった由乃にいいように振り回されるのはいつもの事なのだが、
踏み込んだ場所が場所だけに、令はいつも以上にげんなりと気が抜けてしまう。
まったく由乃ってばどうしてこんな所に来ても平気なんだろ…と顔を向けてみれば、
当の由乃はベッドサイドに置いてあった箱からなにやら包みを取り出しては、
それをまじまじと観察している。
「えと…なになに?『簡単な装着方法』…まずは先端に被せて…なにこれ?」
「うわあああああっ!?」
奇声をあげながら真っ赤な顔の令が由乃の手からそれをひったくると、
そのまま元の箱の中に入れ直してばんっ!っと、しっかりふたを閉めた。
「あーもう。ちょっと。何するのよ令ちゃんってば」
「…もういいだろ。由乃、帰ろうよ」
ぜえぜえと赤い顔で荒い息を吐く令の姿に、由乃は眉をしかめてちぇっと舌打ちをする。
「つまんないの。令ちゃん、ちっとも楽しそうじゃないんだもん」
「…あ、あんまりあちこち弄らないほうが良いって。ね?由乃」
「いいわよ。令ちゃんが気乗りしないなら。今度、祐巳さんを誘ってもっとゆっくり探検しよっと」
「…いや、由乃…そんな事をしたら間違いなく祥子に殺されるよ」
アレも駄目、コレも駄目と、好奇心旺盛な彼女の暴走をちくちくとたしなめる令に、
膨れっ面で不満の顔を見せながら、
由乃はうろうろと部屋の中をうろつきまわっては様々な場所を覗き込む。
「トイレは普通…クロークにも異常なし…うわ、すごい!令ちゃん、お風呂とっても広いわよ」
「ふうん…そうなんだ。良かったね。じゃ、そろそろ」
適当に切り上げて帰ろうとする令の気持ちなどまったく念頭に無い様子で、
ぱちんっ!っと手を合わせた由乃が突然声を上げた。
「あ!そうだ…ね、令ちゃん?ちょっと来て来て」
なにやら思い付いたらしい、にんまりとした顔でこいこいと手招きする由乃を見て、
令の心臓がどきりと鳴った。ちょっと由乃さん。この上まだ、なにか?
「どうしたの…あ、本当だ。結構広いね」
覗き込んだ浴室は確かに広く、部屋の雰囲気に合わせたしゃれた造りが目を惹いた。
浴槽は長身の令が手足を伸ばしても、たっぷり余るほどの大きさに見える。
「ね、令ちゃん。お風呂入ってかない?」
「お!?お風呂!?なんでわざわざ」
突然の提案にぎょっとなった令に、だってほら。っと、由乃が指差したのは、
広い浴槽に取り付けられたジャグジーのスイッチ。