……が。
「逃がしはしないわよ」
江利子が立ちふさがった。
「……どいて」
「そういうわけにはいかないわ。楽しいお茶会じゃない?最後まで付き合ってよ」
「……」
悪役はまりすぎ。
「それに、祐巳ちゃんと志摩子。このままここから逃げちゃっていいの?
あなた達のお姉さまと、友人の由乃が可哀相じゃなくって?」
「おねえさま……」
祐巳ちゃんと志摩子が、迷うようなそぶりを見せる。
「ひ、卑怯よ……!」
と言うと、待ってましたとばかりに。
「あら、置いて逃げようとしたそっちのほうが卑怯じゃないかしら?」
全く口の減らない……!でも事実だから反論できない。どうしてくれようか……。
久々に私に口論で勝ったことが嬉しいのか、満足げに小鼻を膨らませている江利子を睨みつける。
なんとかしてこの天邪鬼をどかさなくては……。
「紅薔薇さま」
うまい反論を考えあぐねていると、聞きなれた凛とした声が頭の後ろで響いた。
……なぜ?
「そういう風に眉間に皺を寄せていると、美貌が台無しですよ……?」
うえぇ。なんだこの歯の浮くようなセリフは。
ていうか、足止めの聖は。まさか。もう……?
「ようこー。ダメだったわー。マジできもちいい……令、うますぎ。
蓉子も味わっといたほうがいいよー」
「……」
顔をあからめて、オンナの表情になっている犠牲者が部屋の隅に、新たに一人。
うわぁ。弱っ。
「……蓉子、これはいわゆるチェックメイトというやつじゃないかしら?潔く諦めなさい」
心底嬉しそうな顔をする江利子……。
「さあ、令。メインディッシュよ。存分に料理してみせてね。
うふふ、卒業までに一度鼻を明かしてやりたかったのよ。」
「承りました、お姉さま」
料理って。やっぱり、ああいうことだろうか……。
……マリア様。お助けください……。