「じゃあ、次は祐巳ちゃん……」
「ふえぇっ」
小犬のように一歩あとずさる祐巳ちゃんの前に、祥子が親猫のように立ち塞がった。
「……の前に祥子かな?」
令は微笑みを絶やさずゆっくりと祥子のほうへ足を進める。
「れ、令、しっかりなさいよ!」
「祥子こそ。顔、赤いよ?由乃とのキスみて、感じちゃった?」
「か、顔が赤いのはあなたのほうよっ」
上から優しく見下ろして、頬に触れた。令が身長を生かすところを初めて見たかもしれない。
「ひあっ……い、いやっ」
「そんなに怖がらないで……。祥子のことなら、なんでも知ってるから……」
「気持ちよくしてあげる」
「ぅんんッ」
祥子の顔を両手で抑えると、強引に唇を塞いだ。
さすが、よくわかってる。そう、祥子には強気に行ったほうがいい。
令は祥子の首に腕をまわしきつく抱き締めると、自分の胸で祥子の胸を押しつぶすような動きをした。
途端に祥子の抵抗が弱まったかと思うと、呆けて床にへたり込んでしまう。
そうか。祥子は胸が弱いのか……。勉強になった。
「一丁あがり、って感じねー。いやー、お見事」
横で聖が感心したように呟く声で我に返る。
そうだ……観察してる場合じゃなかった。
……逃げよう。
祥子には悪いけれど。済んでしまったものは仕方がない。
取り敢えずまだ無事な志摩子と祐巳ちゃんの貞操(?)は守り抜かなければ。
「聖!」
「うん?」
「令を五分足止めして。そしたら、前に私が蔦子さんから没収した
祐巳ちゃんの秘蔵写真あげるから」
「え、それ本当?」
「本当よ。女の約束よ」
「……よしきた。令、次は私が相手よ」
聖ならそうやすやすと落とされはしないだろう。
威風堂々と令に挑戦にいく頼もしい背中にエールを送りつつ、
呆然と突っ立っている志摩子と、快感のあまりエクトプラズムが今にも出そうな祥子と由乃ちゃんを見て
顔を赤くしたり青くしたりしている祐巳ちゃんの腕をひき、ビスケット扉に向けて突っ走る。