「あらまあ令ったら。それでも私の妹?はしたないわねえ」
「ちょっちょっちょっ、おねえさま!何するんですか!ていうかこれは何ですか!お茶じゃな……」
「令、それは蓉子のセリフでしょ?こんなにかけられちゃって……。もうお嫁にいけないじゃない」
「そ、そうじゃなくて……いや、それは申し訳ないんですけど……」
「なら、ちゃんと謝りなさい」
「ご、ごめんなさい……。……じゃなくて!」
……令が江利子に口で勝てるわけがない。埒があかないので、令がしたいであろうツッコミを私がしよう。
「いいのよ、令。それより江利子。これ……お酒じゃないの?」
さすがに顔にかかると匂いでわかる。
「え、お酒!?令ちゃんに!?」
なぜか由乃ちゃんが素っ頓狂な声をあげるが、それどころではない。江利子を問い詰めるのが先だ。
「そうよ?紅茶にブランデーを少し多目に垂らしてみたの。いい香りでしょ?」
全然悪びれない。それにこの匂いのキツさは「少し」「多目に」「垂らした」なんてものじゃない。
令もまあ、よく気付かずに飲んだものだ。雰囲気に飲まれたのだろうか。
「そういう問題じゃないでしょうが。ここは学校なのよ。それに私達はまだ卒業してない。
そのことをよく自覚するべきだわ」
全く、お茶を淹れるとか令に一番に飲んで欲しいとか、どうも様子がおかしいと思ったら。
こんなことを考えていたなんて……。
「相変わらず蓉子は固いんだから」
「固いとかそういうことじゃな……」
「み、みんな、逃げて!はやく!」
反論を由乃ちゃんの大声で遮られてしまった。
「令ちゃんから一歩でも離れて!」
「ちょ、ちょっと由乃ちゃん。いったいどうしたの……」
「令ちゃんは酒乱なんです……!しかもお酒が入ってるとまるで別人みたいに上手くて……!
だ、だから、酔いが回るまえに、はやっんんくっ」
まくしたてる由乃ちゃんの唇はいきなり立ち上がった令に塞がれた。
江利子を除いた一同は唖然として固まってしまう。
「んんーーっ!!」
由乃ちゃんは暴れて抵抗するが……令は気にせず唇をついばんだり、顔を斜めに向けて深く合わせたり。
「うわ、すご……」
隣で聖が目を丸くしている。私だって同じ感想だ。
こんなの……初めて見た。呆然と二人を見ていることしかできない。
由乃ちゃんの抵抗はどんどん弱くなっていき……やがて完全になくなる。そこで令はやっと唇を離した。
「由乃みたいなカワイイ女の子がそんな大声をあげちゃいけないよ……?」
艶然とほほえみ、由乃ちゃんの頬に指を這わせる。まるでホスト。バックに薔薇が咲いている。
「うん……ごめんね、令ちゃん……」
陶然と頬を紅潮させ目を潤ませ応える由乃ちゃん。
陥落。
その二文字が頭に浮かんだ。