三年生を送る会。
由乃ちゃんの手品・志摩子の日舞・祐巳ちゃんの安来節。そして、祥子の屈託のない笑顔。
予定外で驚いたが、どれも楽しませてもらった。全く、聖もやってくれる。
ひとしきり笑った後、今は和やかに談話しつつお茶をいただいている。
「あれ?もうお茶なくなっちゃったの?」
「ああ、じゃあ私が淹れるわ。みんなまだ飲むわよね?」
聖の発言に江利子が応えて席を立つ。
「そんな、お姉さまにやらせるわけには」
「いいのよ令。最後なんだから、やらせてくれない?」
立ち上がりかけた令を、江利子は珍しく殊勝な口調で嗜め座らせる。
「お姉さまがそういうなら……」
江利子のやつ、いったいどういう風の吹き回しだろう。
まあいいか。て色々思うところがあるんだろう。そう、なにしろこれで最後なのだ。
私は深く考えずに席を立った江利子を見送り、祐巳ちゃんと祥子に視線を戻した。
二人とも、幸せそうに笑っちゃって。
少し妬けるが、満足感と幸福感のほうが断然大きい。
ありがとう、祐巳ちゃん。よく頑張ったね、祥子。心の中でそっと言う。
「はい、お茶が入ったわよ」
江利子が席に戻る。
「……令、あなたが一番最初に飲んでくれない?」
「え?」
「私がここで淹れる最後のお茶だろうから……。あなたに一番に飲んで欲しいの」
「あ……、はい。いただきます」
「ありがとう」
本当にいったいどういう風の吹き回しだろう。
江利子は由乃ちゃんがピリピリするのを完全に無視して、
優雅な仕草で、それでいて嬉しそうに浮き立つように、令のカップにお茶を注いでやっている。
まあ、こういうのも江利子らしいと言えるかもしれないけれど。
「いただきます、お姉さま」
令が真面目くさった顔で再度言う。
なんとなく、部屋全体がシンと静まりかえり、全員が令に注目する。
令はしずしずとカップに口をつけ……
目を瞑ってぐい、と一気にカップをあおり、喉をニ・三度鳴らし……
「ぶーーーーーッ!!」
おもいっきり吹き出した。
そして吹き出したものはちょうど正面にいた私に雨のように降り注いだ。