ネギま!ネタバレスレ93時限目

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732名無しさんの次レスにご期待下さい
 あびるは糸色の目を見据え、表情を変えずに淡々と意見を述べた。クールビューティと
一部から呼ばれる彼女だが、確かに相応しかろうと思われる。
 けれど彼女も、糸色に再考を促すには至らなかった。糸色は間に一髪も入れず反論する。
「他にもあります。スラッシュマンとか――」
 それは人間じゃなくてロボットだろう、という反論をあびるは行わなかった。代わりに
ネコ科動物のごとき姿形をしたスラッシュマンのしっぽを頭に思い浮かべ、ふんふん、と
鼻息も荒くその様子を夢想する。
 一体どんな手触りなのだろう。猫のようにフサフサした体毛に覆われたしっぽなのか、
それとも合成樹脂に特有のつるつるした手触りなのだろうか――
 唯一糸色の暴走を止められそうな彼女が、うっとりと夢想を始めた以上、他の面々に
同じ仕事を期待するのは難しい。
 止める者のいない中、糸色は黒板に白墨を走らせる。書きながら糸色は叫ぶ。
「それだけではありません!他にもこんな人達が冬眠していると思われます!」

●東京サンシャイン・ボーイズ
三十年後に冬眠から目覚めます。
●AIのデイヴィッド
⇒2000年後に冬眠から目覚めます。
●インリン様
⇒次にいつ冬眠から目覚めるのか誰も知りません。
●クリスタルキング
⇒いつ目覚めるのか誰も知りません。ずっと待っているのに…

「じゃあブラックジャックによろしくも冬眠しているんですね?
 生徒の中から起こった声に、糸色は手を止めて黒板を背にした。
 髪留めが愛らしい風浦可符香が、求められてもいないのに起立し、元気そうな笑顔を
浮かべて糸色をまっすぐ見つめている。
 彼女の笑顔を見ている内、糸色は死にたい気分になった。けれども目を逸らさない。
 ポジティブなのは確かに苦手だが、この少女から感じる何かは単なる陽気さとは違う。
あくまで糸色の主観ではあるが、彼女は嫌がられるのを承知でわざとポジティブな発言を
繰り返しているような節が見られた。天真爛漫に見られがちだった風浦可符香の表情に、
糸色は時折邪悪な翳を感じてしまう。
 可符香から目を背けるのは、そんな邪悪な彼女の意の侭に動く事と大差ないのだろう。
糸色は根が小心な癖に、あるいは小心ゆえに気位が高かったためか、自分の行動が他人の
思惑通りになってしまう事に対して強い反感を持つ性格だった。要するに天邪鬼なのだ。
 見つめ返し、顎で発言を促す。可符香は教室中に通る大きな声ではっきりと発音した。
「ヤンサンに掲載された読み切りのタイトルにも使われたブラックジャックによろしく、
あれも春になってほとぼりが冷めたら連載再開するんですよね?」
 聞こえなかったのか、糸色は可符香に返事をしないまま黒板の文字を乱暴に拭き取った。
足早に教卓を降りた糸色を、長い髪を真ん中分けにした木津千里が呼び止める。
「どこへ行くんですか?まだ授業中のはずですけど」
「冬眠する場所を探してきます」
 糸色はそれだけ言い残して、二年へ組の教室を後にした。