ネギま!ネタバレスレ93時限目

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 暖房がよく利いた教室で教科書の文字列を眺めていると、ついウトウトと舟を漕ぐのは、
普通の人間なら誰でも持っている習性だろう。ましてや午後一番の授業ともなれば。
 どこにでもいそうな女子高校生、日塔奈美もその一人だった。
 ――眠い。
 真面目に授業を聞くつもりなのに、やたら眠くて仕方が無い。胃の腑に収まった弁当が
程よくお腹を温めてくれて心地良い。袴姿に丸眼鏡の教師に指名された工藤君の朗読が、
甘く優しく奈美の意識を夢の世界へと誘ってくれている。いっそこのまま眠ってしまえば
どれだけ楽になれるのだろう。
 ――いやいや、ちゃんと授業を聞かなきゃ。
奈美は頭を振って教科書の紙面を睨む。だが寝惚けた頭では、紙面の文章も意味不明な
文字列としか捉えられない。それを無理矢理解読しようと努力すれば疲れる。疲れるから
余計眠くなる。工藤君の朗読でさえ、言葉というより癒し系の音楽にしか聞こえない。
 ――これ以上頑張って、意味あるの?
どうせ途中から授業の内容など、頭に入っていないのだ。無理に目を覚ましてそれで、
先生の説明を聞いても理解できるのだろうか。
 ――やっぱ寝ちゃおう、っと。
 暖かく深い闇めがけて意識が落下を始めた瞬間――
 
 こつんと頭を叩かれ、奈美はお尻で椅子を後ろに突き飛ばしながら立ち上がった。

 担任教師の糸色望(通称絶望先生)は、出席簿を手に奈美を見下ろしていた。
「冬眠ですか、日塔さん?私も冬眠したいですよ」
 怒られている、とばかりに奈美は、糸色を見上げて咄嗟に口走る。
「スイマセン先生!居眠りする気はなかったんです!」
 ハッと口元を押さえる。これでは自分で居眠りの事実を認めてしまったようなものだ。
私のバカ、と墓穴を掘った自分自身に対して舌打ちしながら、奈美は釈明の言葉を探す。
 けれども咄嗟には思い付かない。躊躇っている奈美の先を取るように糸色が叫んだ。
「私も冬眠したいです!永眠がかなわぬなら、せめて冬眠ぐらいしてもいいでしょう!」

 まるで見当違いな糸色の言葉に、奈美は一瞬己の耳を疑った。否、奈美だけではない。
二年へ組の一同が糸色へと注目した。糸色は彼らの視線などまるで意に介さない。
 ああズルいズルい、と糸色は呟きながら教壇へと足早に駆け上がる。
だん、と教卓を叩いて糸色は教室の生徒を見回した。
「動物ばっかりズルいと思いませんか皆さん!ヘビや熊やチューブ――」
 糸色はそこで顎を触り思案する。教室の面々が静まり返る。

 ぽんと手を打ち、彼は何やら勢い付いて云った。
「そう、人間も冬眠しますよね。例えば他にゴールデン・アイのボリスとか――」
 先生、と生徒の中に挙手する者があった。顔に眼帯手足には包帯を巻いた痛々しい姿の
少女――小節あびるが糸色に促され起立して口を開く。
「『俺様サイコー!』って叫んで液体窒素かぶるアレですか?あれは冬眠というより凍結、
もしくは永眠と呼んだ方が正しいと思いますけど」