ネギま!ネタバレスレ93時限目

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683名無しさんの次レスにご期待下さい
「ちなみにその出席番号、あなた幾らで買ったの?」
 私が訊ねると、マリアは天井に向けられた人差し指を元気よく目の前に突き出して答えた。
「一カイ!」
 一カイ――私は語尾を上げてマリアの言葉を繰り返す。一カイは何円に相当する通貨で、
マリアの国では平均年収がおおよそ何カイ位になるのだろう。
「高かったの?それとも安かった?」
「安いヨ」
「そうじゃなくて、マリアの国では一カイで何が買えるの?」
 エットネ――マリアはくりくりした瞳を巡らせた。小学生みたいに低い背丈と舌足らずな
喋り方が、実年齢よりも幼い印象を強調してみせる。
「ソウソウ、一カイデご飯一日食べれるヨ。私ズットそうして来たモン」
 ならば一カイはおおよそ一ドル、日本円でも百円強といった所か――おおよそ?!
 今日の為替相場は1ドル何円だったっけ。カイについても私は全然知らない。これでは
マリアが買った出席番号の値段をきっちり算出できないじゃないか。正確な額をきっちり把握
しなければならないのに、一カイが食費一日分だなんてドンブリ勘定もいい所だ――
「あの、委員長どうしたの?」
 風浦さんの声で、私は目まぐるしい思索から解放された。そうなのだ。
 肝心なのは取引が公正だったかどうかであり、一カイが何円に相当するのかはその目安に過ぎない。
取引内容が妥当か否かさえ判れば、後で通貨単位カイの価値を調べる事は幾らでも出来る。何だったら
この前風浦さんに教えてもらった団地の奥さんに聞いてみてもいい。
 食費一日分で出席番号を手に入れられたのなら、きちんとしたフェアトレードと判断できる。
それでクラスの一員となったのなら文句はない。この子は確かに関内・マリア・太郎だ。
「マリア」
 私は褐色の少女に向かって、できるだけ優しく微笑みかけた。

「あなたもクラスの仲間なのよね。変な事聞いてゴメンなさいね」
 マリアは私の態度が変化した事に戸惑いを覚えたのか、真っ黒な瞳をぱちくりと開いて
じっと様子を窺っている。
「ナカマ――ゆきえカ?」
 そんな名前どこで覚えたんだろうこの子は。確かに二千年の恋にまりあって娘がいたけど、
難民の彼女がそんな事知ってるはずないのに。
「別にあなた、エーユーの着歌サービスでゲーム主題歌をホントに唄ったりしないでしょ」
 マリアは訳がわからない、といった風に首を傾げた。可笑しくて可愛らしくて、私は
見ているだけでつい吹き出してしまう。
 しかし私が調子に乗りすぎたのは事実だ。きっちりと彼女にフォローを入れる。
「ううん今のは忘れて。仲間っていうのは友達と同じなの、だからあなたと私は友達」
 そこまで言うとマリアの顔がぱぁと晴れ上がった。本当に幼けなくて無垢で綺麗で、
この子の笑顔は見ていて爽快な気分になる。
 人懐こい子猫のように、マリアが勢い良く私に抱き付く。
「トモダチ! 委員長とマリア、トモダチ!」
 頬擦りするマリアの黒髪からは汗の匂いがした。清潔を良しとする私だが、今は不快に思わない。
それよりも感情を剥き出しにして喜ぶこの子が愛らしくて、私は華奢な肩をそっと腕で包んだ。
 背後に立つ風浦さんが、マリアの背中をとん、と軽く押した。