呪いから解放され、ベストコンディションとなったギンタ。
ギンタは笑う。あいつと自分はどちらが強いのか…ワクワクが止まらない。
自分に近いアイツと、これから始まるただの喧嘩が楽しくてたまらない。
そんなギンタの期待は……突然に裏切られる。
カノッチは静かに後悔していた。ボディキャンドルなど使うのではなかった。
使わなければもっと楽しい時間が、スリルと興奮が自分を待っていたはずだったのだ。
それを求めていたはずが、いつの間にか勝利に固執するようになった自分によって裏切られてしまった。
カノッチの身体が急速に融けていく。さながら頭上のキャンドルのように。
それはボディキャンドルの反作用――呪いを無効化されたことでその呪いが自分へと跳ね返ったのだ。
限界まで融けていたキャンドルとともにカノッチはその形を崩していく。
後悔と自嘲の念に包まれるカノッチだが、不思議と悲しくはなかった。
最後に気持ちのいい程のバカと出会えたからであろうか。……多分、そうだろう。
カノッチは礼をすることにした。これからの本当の戦いに身を投じる戦士に…。
「負けんなよ……」
そんな言葉を贈って消えるのも悪くはない……それがただ、自分に忠実だった男の最期の意識だった。
ギンタは言葉もなく、ただそれを見つめることしかできなかった。初めて相対する人の死。
「カノッチ…」意味もなく呼びかける声さえ擦れていた…。身体が震える。涙が出そうになる。
勝利を告げる言葉も耳に入っていない。ギンタの心は闇に閉ざされようとしていた……。
『負けんなよ…』
そんな中、一つの灯火が燈る。暗く、深い闇の中に燦然と輝く一条の光。
彼の残した言葉。ギンタの勝利を望む遺志。彼は……決してギンタの心が闇に沈むのを望んでいない。
ヴェストリの人たち。ウォーゲームに参加できなかったクロスガード。今までに出会った人々に託された思い。
それらを思い出し、ギンタの瞳に意志の光が戻る。
振り向けばそこには仲間がいる。笑顔で彼の勝利を喜んでくれている。
そうだ、俺は負けられない。ここで立ち止まっているわけにはいかない。
見ててくれ、カノッチ。戦いの厳しさを、命の重さを教えてくれたお前に…今度は俺が見せてやる。
平和という最高の宝物を。
そしてギンタは一歩を踏み出す。この時、彼はただの好奇心旺盛な少年から一人の戦士となった。
仲間に向けて、彼の国で平和を象徴するサインを指で形作り、かざす。
それは彼の鎮魂のために送るギンタの決意。
「ピース!」