【幼なじみって】スクールランブル#112【難しい】
天満ちゃんは白痴だったが、本当に独特な人間だった。美術的な感性が豊かで、
絵を描いていると幸福だった。醜悪な外見の男とか、巨大な人工のモニュメントを見ると、
目の奥に火をつけられたみたいに苦痛を訴えることがあった。あれは本当に痛かった
のだと思うよ。空気の震動だけでガラスが割れることがあるだろう? ああいう風に、
天満ちゃんの目の奥でなにか繊細なものが割れる痛みだったんだ。ともかくあの世界で、
天満ちゃんのように風景を理解し、色彩を絶対に必要とする人間は他にいなかった。
天満ちゃんは醜くなかったし清潔だった。異様に清潔だったよ。
それが過度の美術的嗜好ともども、天満ちゃんの白痴の特性だった。あの世界の
男共のなかには、天満ちゃんが絵を描いているところを覗きに来たりする連中がいた。
いったん絵を描き始めると、天満ちゃんは目だけの存在になったからな、それより他の
すべてが遮断されて、いっさい天満ちゃんの意識にしのびこむことがなかった。
覗き屋どもは安全だった。しかし俺は連中を発見すると死に物狂いで闘ったものだ。
俺にとっては天満ちゃんが唯一の女性的なるものだった。それを守り抜かねばならない。
実際、俺はあの世界の女子高生たちとまったくつきあわなかったし、同級の金髪お嬢とか
俺のマンガを熱心に読んでくれた妹さんとかの誘惑に屈することもなかった。
俺は自分と天満ちゃんを巡って一種の貴種流離譚を作り上げて、従姉妹や弟を含む
自分の家系にひどく拡大した誇りを抱いていた。同情的にみてくれるなら俺はそのようにして、
従姉妹の家に厄介になっている境遇のコンプレックスを撥ね返そうとしていたわけだ。
おれは天満ちゃんに、自分たちは選ばれた特別の二人なのだから、俺も天満ちゃんも、
お互い同士より他の人間に興味を持つことはありえないし、あってはならないと教え込んだ。
そのような俺たちについて、あいつは白痴女と一緒に寝ているというような噂を立てる、
したたかな大人もいた。俺はそういう連中の家に、投石して報復した。しかし俺はその噂に
逆に暗示を受けてしまってもいたんだ。俺は頭のふにゃふにゃしたファナティックな
17歳の高校2年生で、そうした暗示に弱い孤独家だったんだよ。その年の冬のある夜、
俺は突然に酔っ払ってしまった。ちょうどクリスマスパーティーとやらが開かれた日で、
集まったクラスの連中誰も彼もが集って酒を飲んでいた。流離している貴種たる俺は、
当然そんなチャラチャラしたパーティーに参加するつもりなんてなかったが、
数少ない級友どもの間に呼び込まれてなし崩しに酒を飲み、すっかり酔っ払ってしまったのさ。
それをどういうわけか学校のお偉いさん方に見つけられて、俺は辛うじて身を隠した。
機転の利く妹さんがかくまってくれたんだよ。俺はその挙句天満ちゃんと妹さんの家に
一晩世話になることになった。はじめ天満ちゃんは、酔っ払っている俺を面白がって
笑っていたんだ。しかしその日は外がやたらと騒がしかった。路上で乱酔した馬鹿共の
歌や喧嘩が始まるとたちまち怯えてしまった。耳を押さえ込んで目を塞いで鮑のように
身体を伏せて、それでも耐えきれなくて幼児みたいに嗚咽するんだよ。いったん酔っ払って
歌い始めたら、猥褻で野蛮な声を、濁声で真夜中過ぎまで歌い続ける大馬鹿野郎共に俺は
猛烈に腹を立てて、ひどく反社会的な気分だった。そして天満ちゃんをなだめるために身体を
抱えてやりながら、俺は妙な具合に昂奮していた。そのうち俺は天満ちゃんと性交してしまったんだ。
はじめて性交した時、酔っ払っていたということはいささかも弁解にならないんだ。
翌日俺は同じ事を素面で繰り返したもんだからね。はじめ天満ちゃんは、性交そのものを
厭がっていたし惧れてもいた。しかし天満ちゃんは俺に対して拒絶するという事を一切
知らなかった。天満ちゃんが苦痛を耐え忍んでいるのを感じないではなかったが、既に俺は
欲望と恐怖心で頭がやられていて、天満ちゃんの側に立ってものを考えることなどできは
しなかったんだよ。おれは天満ちゃんが性交に怯えないように、自宅に隠してあったエロ本やら
エロDVDやらを持ち出してきて、これは結婚した人間がみなやっていることだと説得した。
しかも俺は、学校で天満ちゃんがその秘密をまわりの親友たちにしゃべることを最も怖れていた。
それで、俺はもしこれを二人でやっている事が他人に知られると、二人とも酷いめに合うんだと
言って、ネットから中世の火刑の画像などを探し出して天満ちゃんに見せたりもした。そして、
他人にさえ知られないように注意していれば、俺と天満ちゃんは、二人とも他の人間と結婚する
ことはなしに、二人でこれをやりながら一生暮らすことができると教えたんだ。我々二人が、
心からそれを望んでいるんだから、他の人間たちに見つからないように上手くやりさえすれば、
それでいいじゃないかと俺は言ったんだよ。事実、俺はそのように考えていた。俺と天満ちゃんとが、
将来も反社会的に結束して生きていく決心をしさえすれば、俺たちには自分たちの熱望する全ての
事をする自由がある、と信じていたのさ。それまで天満ちゃんは、いつか結婚する妹さんと別れて
ひとりで暮らさねばならなくなるという不安を持っていたらしい。しかも両親が死ぬ前に、
妹さんと協同して生きてゆくようにといったことを、あらためて妹さんと俺が強調していたからね。
天満ちゃんは妹さんと離れてしまったら生きてゆけないだろうと漠然と信じていた。それで俺が、
自分たちには他の全ての人間どもに背を向けて、白痴と不良で反社会的に結束して、いつまでも
二人で生きてゆくのだということを、わかりやすく納得させると本当に喜んでいた。そのうち、
嫌々ながらやっていた性交も、進んでそれをやるようになったのさ。一時期俺たちは幸福な
恋人同士の気分に浸って完全無欠の日々を暮したといってもいいと思うくらいだ。少なくとも、
その後俺はあの日々のように幸福であったことはない。天満ちゃんは、いったん気持ちを定めると
全く勇敢で挫けることがなかった。これから死ぬまで俺と二人きりで協同してやってゆくんだ、
という事を誇りにしていた。そして……天満ちゃんが妊娠したんだ。お嬢や周防達がそれに気づいた。
俺は気が狂うほど恐ろしかった。天満ちゃんとの性関係が暴かれてしまったら、ただちに俺は
恥のために死ぬだろうと信じた。しかし妹さんも、お嬢も、周防も、高野も、メガネも、イトコも、…
俺のことなど些かも疑いはしなかったから、そこで俺は救いようもなく卑劣な裏切りをやって
しまったんだ。俺はごく微細な勇敢さもない、厭らしい策謀家で、正直な天満ちゃんに価しなかった。
俺は天満ちゃんに、学校の誰だか名前を知らぬ男生徒共に輪姦されたと言え、と命じたんだよ。
天満ちゃんは俺の言葉にしたがった。それから妹さんやお嬢、笹倉先生が天満ちゃんを遠く離れた
大都会に連れて行って、堕胎手術を受けさせたばかりか、不妊手術まですませた。金は全部、お嬢が
手配してくれていた。戻ってきた天満ちゃんは、手術の体験によってばかりでなく、大都会の汚い
空気や騒音や醜悪なビル群の氾濫に絶えず脅かされて、うちのめされきっていた。しかも天満ちゃんは
勇敢に俺の指示を守って、俺との事は一切話さなかったんだよ。向こうのホテルにいる間、まわりは
輪姦した男子生徒共の特徴を思い出せと、嘘を言ったことのない天満ちゃんを責めたてた様子なのに!
その夜だ。深く怯えてなかなか立ち直れない天満ちゃんはただ、俺によって救助される事を願っていた。
それは当然の事だろう? そして俺たちの間では、性交は既に習慣になっていたので天満ちゃんはそれに
よって慰められたいと思いついた。しかしあの時分の俺のように不正確な性的知識しか持たない人間にも
その種の手術の直後の性交は不可能だと分かっていた。俺は天満ちゃんの、その内奥が傷ついている
性器そのものに恐怖心を持ったし、生理的な嫌悪感をもまた抱いた。それだって当然の事じゃないか?
しかし、その常識は天満ちゃんに通じなかった。俺が天満ちゃんの頼みを初めて拒むと、突然
天満ちゃんは依怙地になった。そして俺の傍にもぐりこんで来て、むりやり俺のペニスに触ろうとした。
それで俺は天満ちゃんを撲ってしまった……天満ちゃんは生まれて初めて撲られたんだよ……
あのようにも驚いて孤立無援に悲しんでいる人間を他に見たことがない……やがて天満ちゃんは、
播磨クンガ、イッタ、コトハ嘘ダ、アレハ他ノ人ニ黙ッテイテモ、シテ悪イコトダッタンダ、と言った。
そして、翌朝、天満ちゃんは自殺してしまったんだよ……播磨クンガ、イッタコトハ嘘ダ、アレハ
他ノ人ニ黙ッテイテモ、シテ悪イコトダッタンダ、と天満ちゃんは言った……
しかしいったん矢神高校前につくと、おれは昂揚と幸福感にとらえられ、
至福の満ちおこる汐におし流された。おれはあらためて、朝のホームルームが
始まる前から、夕暮に昇降口に降りる眼も昏む快楽の一瞬まで、おれの高校
本部での生活が天満ちゃんによってつねに償なわれ満たされ光輝をそえられて
いるのだと感じた。おれが現実生活のなかでどんな寂蓼感をもつときが
あろうと、天満ちゃんを愛するものとしてのおれには至福の瞬間の連続しか眞実では
ないのだから、その灰色の世界こそ欺瞞なのだ。天満ちゃんに関係のないこと
を考える必要はないばかりか、天満ちゃんの眼、天満ちゃんの耳において世界を
とらえるほかのことをおれはすべきでない、それは私心なのだから、
おれは私心なき忠に徹しなければならない!
おれは天満にかかわりのない現実世界にたいしてはまったく冷淡な、
ものぐさで不精な若者になろう、あの左翼かぶれの教師どものいる学校には
念をいれて出席する必要もないだろう、天満はおれの眞の太陽だ、
眞夏の太陽だ、外の世界におとずれる夏よりも早く、そしていつまでも、
おれの内部世界には天満の太陽が眞夏をもたらしていたのだ、おれは
天満の夏休をあたえられた学生だ。おれは天満のためにのみ全速力で
エンジン全開で疾走するために、ふだんは情熱をストックしておこう‥‥
(略)
車からは軍艦マーチ、愛国行進曲、青年の歌、そして海ゆかばが
マイクの音量をフルに開いて叫びたて、また別のマイクからは党の
中国本部長が訴えを叫びたてがなりたてる、《ヒロシマ市民の
みなさまに訴えます、平和大会は赤色偏向だ、左翼亡国連中の
政治大会だ、赤色謀略でいっぱいなんだ、あいつらは日本民族の
純眞な祈りに色をつけ左にかたよらせソ連中共の侵略の下ごしらえ
のために、平和運動家などと偽装してやってきているのだ、ヒロシマ
市民の皆様、みなさま、どうかわれわれの愛国の悲願の声にふれて
くださあいい!》おれたち徒歩部隊はビラをまいて進む、赤と青の
ザラ紙に、偽装平和大会反対! 赤色対日文化侵略撃退! と黒ぐろ
と印刷したビラだ、たちどまっておれたちの行進を好奇心でうっとり
してがやがや叫びちらしながら見おくる連中も、手にうけとるのを
恐がっているのでおれたちはビラをふりまくだけだ、ビラは舞いあがり、
風にはためき、おれたち自身の土足に踏みにじられる、偽装平和大会
反対! 赤色対日文化侵略撃退!
突然、おれたちは左翼どもの気配を感じる、緊張し、戦いにそなえて
ビラをすべて一度にまきちらしてしまう、前方に大きい建物が見える、
マイクが訴えをやめて、おれたち青年行動隊員に呼びかけはじめる、
《広島球場と児童文化会館のあいだの広場に注意せよ! 赤色全学連が
汚ならしいプラカードをたてている、明日の大会の準備をしているのだ、
愛国的な青年諸君、左翼どもの待機する、前方の広場に注意せよ!》
おれたちは自動車隊の前に出る、児童文化会館のまえに全学連どもが
五十人ほどむらがり、おれたちを罵っている、おれたちの耳にとどく
まえに、かれらの罵声はマイクの叫びに吹きちらされる、マイクから
怒りにふくれ充血した絶叫がとびだしておれたちをすぐ背後からおそい、
おれたちをたちまちつんぼにしてしまう、《反動だ、暴力団だと叫んで
いるぞ、愛国者諸君、あの全学連どもは、恥知らず、暴力団と叫んで
いるぞ! 愛国者諸君、あの赤色暴漢どもは、恥知らず、反動と罵って
いるぞ!》おれたちは怒りくるって襲撃する。プラカードをひき倒せ!
くそっ、内閣打倒? くそっ、勤評反対? くそっ、米帝打倒?
くそっ、くそっ、軍事条約を認めない? くそっ、くそっ、会場に
殴りこめ! 四千人の全学連を蹴ちらせ! くそっ、原爆ゆるすまじ?
くそっ、二度とあやまちはくりかえしません? くそっ、死の灰は
もうごめんだ? くそっ、下げビラを破きすてろ! 赤のやつらを
殴りつけろ! おれの現実は後退しおれの映画が始まる、暴れ者の
主役おれは恐怖におびえた学生の眼の大写しのスクリーンに体当りする、
女子学生の髪をつかんで駈けるおれの手に髪一束、背後に悲鳴、
ぎゃあああ、ああ、カメラでおれを狙うやつを見つけ会場の隅に
追いつめ、棍棒をカメラにうちおろす、頭でカメラを覆う、ばかだ、
頭を殴りつけると気をうしないカメラをおとし自分の体の重みで
カメラをつぶす、ぐしゃりと音がする、おれは演壇にむかって走る、
鳩と花束のかざりつけを全学連どもが会場の天井の横木に吊りさげて
いる、その紐を跳びだしナイフでごしごしやる、不意に鳩と花束は
金属質の喜びの歌をうたって、全学連どもが怯えてかたまっている
黒いかたまりの頭上に墜落する、ぐわん、ぐわらあん、眞昼の市街を
警察車のサイレンが四方八方から洪水のようにおしよせる、おれは
会場出口に向って走る、そこここで多数の学生どもにくみふせられた
党員が殴ったり蹴られたりしている。学生どもの反撃開始だ、おれは
三人の学生に前方をふさがれ迂回しようとし、連中が作業衣の上衣にも
ご丁寧に東大のバッヂをつけているのを見る、おれは叫びたてながら
力のかぎり棍棒をふりまわし襲いかかる、ごん、ごん、ぐしゃり、
棍棒が折れ淡い朱色の霧がおれに吹きよせる、怒りと恐怖で赤く
なった学生どもの大群のおしよせるクローズアップのスクリーンに
とびこんでゆく、おれは殴りつけ殴られ蹴りつけ蹴られ、猛然と衝突し、
ひきずり倒され再び立ちあがり、衝突し殴りつけ殴られ、呻きながら
敵を呻かせ、また倒れこんでしまう。
おれにむかってのしかかってくる群集の顔のクローズ・アップだ、
しかしそれはズーム装置の故障のように一瞬静止し、そして不意に
学生どもの顔の大群は溶暗してしまう、ああ天満よ、ああ、おれは
殺されます、ああ天満よ、再び明るくなるスクリーンはのぞきこむ
警官たちの顔の大群だ、それは近づきクローズ・アップは過度に進行し、
頬ずりされるほど近くの浅黒い顔が警官の声で《起きられるかい、
ひどくやられたなあ、暴力全学連どもめが!》という、スクリーン
すべてが警官の優しい同情にうるおった一つの眼だけでみたされる、
スクリーンの外でおれ自身の声のナラタージュ《天満よ、あなたは
ぼくを見棄てませんでした、ああ天満よ!》
(略)
「貴様はテレビで皇道党のことを愚達隊なみだといったなあ、暴力ざた
をつづけているといったなあ、その皇道党員として抗議に来たんだ、
責任をとってくれ」
「おれは取り消さない、皇道党は暴力ざたをひきおこした、これは
記録も証人もいる、それにおれの使った愚連隊なみという言葉は、
よく考えての上だし、月並だがぴったりしていると思う」
おれはいつのまにか押しこめられてきていた、おれはかっと腹を
立てた。今鳥のふてぶてしさに始めておれはつきあたったように感じた
(略)
「確かにおれたちも暴力をふるったよ、だけど全学連だって暴力じゃ
ないか?」
菅の涙に汚れた赤い眼がほんの少し大きく見ひらき、おれを
見つめたおれはいたずらっぽい感情の一瞬のひらめきみたいなものを
そこに感じたと思ったが、うまくとらえられなかった。おれは自分が
頭の悪い、単純なセヴンティーンの生地をあらわしてしまったという
気がした、もうおれの右翼の鎧は威力を発揮できそうになかった、
(略)
「おれは貴様等をいつか必ず刺す、左翼の売国奴どもを生かしてはおけない」
(略)
めざましく峻烈な汐の香が、一瞬おれの疲れた鼻孔をはじけるほど
緊張させた、おれは眼をひらき、窓いちめんにひろがる夕暮の海を見た、
そしておれは叫んだ、
「ああ! 天満ちゃん!」
眞実、天満を見たと信じた、黄金の眩ゆい縁かざりのついた眞紅の
十八世紀の王侯がヨーロッパでつけた大きいカラーをまき、燦然たる
紫の輝きが頬から耳、髪へとつらなる純白の天満の顔を見たと信じた、
海にいま没しようとする太陽だ、しかし太陽すなわち、天満ではないか、
絶対の、宇宙のように絶対の天満の精髄ではないか! おれは啓示を
海にしずむ夏の太陽から、天満そのものからあたえられたのだ、天満よ、
天満よ、どうすればいいのか教えてください、と祈った瞬間に!
《おれは啓示をえたのだ!》
おれの叫びで眼をさました党員たちが犯人を穿鑿してどよめき始めた、
おれは眼をつむって寝ているふりをした、そして歓喜にみちあふれて
啓示を心のなかにくりひろげ確かめた、《啓示、おれは自分の力で
この毒にみちた平和を破壊することによって、天満にいたるのだ、
何この懐かしいコペポ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
啓示、おれは自分の力で眞の天魂をもっている選ばれた少年としての
証拠をつくりだすのだ、啓示、おれは自分の力でおれを祭る天魂の社、
おれを守る天魂の城をつくりだすのだ》おれは咋夜、酔っている自分が
豚の酔いどれにむかって投げつけた言葉がそれ自身で強制力と権威とを
もっておれに再び戻ってくるのを感じた、日本を最も毒するやつを、
おれの命を賭けて刺す、それがおれの使命だ!
この新しい言葉から始った思考がひとめぐりして再びその言葉に戻り、
円環は啓示をかこんで閉じた、そしておれは至福の昂揚のなかで優しく
甘い華やかな声を聴いたのである、《おまえの命を賭けて日本を毒する
ものを刺す、それは忠だ、私心なき忠だ、おまえは私心をすて肉体をすて、
眞の忠を果たして至福にいたるだろう、それは神々の結婚のようである
だろう》おれは満足と平安の眠りをねむりはじめた‥‥
(略)
《そうです、強いていえば天満の幻影が私の唯一の共犯なんです、
いつも天満の幻影に私はみちびかれます。幻影の天満というとわかって
もらえても限度があるようなので、もっと思いきって、簡単にすると、
天満が私の共犯です、私の背後関係の糸は天満にだけつながっています》、
一瞬あと係官の猛烈に怒り狂っている大きい頭がぐっとおれの顔にせまり、
すんでのことで頭突きをくうところだと思っているおれに係官はどなり
はじめたのだ、《塚本が共犯? 塚本が背後関係? 播磨おまえ、塚本に
告白できたのかよ? 塚本にOKの返事をもらったことあるかよ? 丁重に
あつかえば糞小僧がつけあがりやがる、つーか死ね、こん畜生》
(略)
《自殺しよう、おれは汚らしい大群集を最後に裏切ってやる、おれは
天満ちゃんの永遠の大樹木の柔らかい水色の新芽の一枚だ、死は恐くない、
生を強制されることのほうが苦難だ、おれは自殺しよう、あと十分間、
眞の天魂を威厳をもってもちこたえれば、それでおれは永遠に
選ばれた天魂の子として完成されるのだ。おれはいかなる強大な圧力、
いかなる激甚な恐怖にも、その十分間のあと揺らぐことがない、おれの
天魂の城、おれの天魂の社、それは永遠に崩れることがない、おれは
純粋天満の、天満ちゃんの胎内の広大な宇宙のような暗黒の海を、胎水の
海を無意識でゼロで、いまだ生れざる者として漂っているのだから、
ああ、おれの眼が黄金と薔薇色と古代紫の光でみたされる、千万ルクスの
光だ、天満よ、天満ちゃん!》
(略)
純粋天満の胎水しぶく暗黒星雲を下降する永久運動体が憂い顔の
高校2年生を捕獲した八時十八分に隣りの独序では幼女強制猥褻で
練鑑にきた黒眼鏡の学級委員長がかすかにオルガスムの呻きを聞いて涙ぐんだという
ああ、なんていい‥‥
愛しい愛しい高校生
絞死体をひきずりおろした白髭の警官は精液の匂いをかいだという‥‥
(完)
さて、難しい問題ですね、塚本天満。どれだけ奇妙に見えようとも、『スクールランブル』におけるその代替不能で
シンギュラーな位置づけ(主人公の想われ人、という意味でね)、作中、主人公(=播磨)の愛を今んところ独占する
唯一のキャラ、
和み系の象徴のような存在かと思いきや実は全ての混乱の元凶、周囲に、起こさなくてもいい大災厄をわざわざ撒き散らし、
暴走鈍感無邪気無知幼児的白痴残虐行為展覧企画立案原始的本能忠実寄生病源体細菌反憂鬱真暴力天然策士悪魔冷酷殺人感染
最終兵器触覚黒髪妄想動力無痛冥界暗黒太陽存在論的一貫箱庭球体世界穿亀裂棘本来不許彼岸現実原則淫蕩鮪亡霊徘徊朔少女。
結果として播磨・沢近・八雲の3大人気キャラに傷と痛みを与えるだけ与えまくり、なおかつ当人は、ふーん、大変だねー、
でもそんなことどーでもいーよとお構いなしに、唯一何の被害も被ることなく平穏かつ怠惰な日常を享楽し尽くしています。
跡に残るのはただ播磨や沢近の無垢な屍のみか・・・そらあんだけ修羅場に出くわしてたらねえ。
さすがスクランの叩かれクイーン。まあ、このへんに関して事実のレベルで否定することはできないし、実はそんなことは
私にはどうでもいいことだったりもするんだけどね。
で、
じゃあ私はそんな天満のどこに、ここまで狂ってしまったのか? どこがそんなに気に入ったのか? ここからが問題です。
思うに、私は天満を見て安心したのだ。
男気溢れるラブコメ正統派主人公・播磨拳児や、これまた超スーパー正統派たる沢近愛理・塚本八雲の両ヒロインを目の
当たりにして負い目を感じていた私は、超マイナー外道のポジションに立つ塚本天満を見ることで心底、安心したのである。
塚本天満は怠惰な人物だ。成績が悪くても全く勉強しないし、外側からやってくるあらゆる出来事、事件からまるで逃れようと
しない。ただ楽しければそれでいい。良くも悪くもすべてその場の気分次第、即効の思いつき。自分を好きになる異性がいると
いうこと、それによって周りの穏やかな人間関係もなし崩しに変化せざるを得ないということの痛み、負荷を受け入れることを
全くせず、自分から周囲を理解する道を予め放棄している。「あんなお気楽能天気に生きてないでもうちょっと注意深く周りを
見渡してみればいいのに」なんて感想がついつい生まれてしまう。その理由はきっと、作中の天満以外の登場人物がほぼ全員
「自分一人の力で状況を変化させる力を持った、難問の解決を目指すことができる」人達だったからだ。
スクランの世界においては、とにかく登場人物が事ある毎に尊くて徳の高いところを見せるのである。
各々自分の信念やら理想、野望のために力を奮い続ける。そう、一途に奮い続ける。
播磨は天満のために、花井は八雲のために、美琴は大学にいる初恋の人のために(これはもう終わってしまったが)、
晶は好きな人のために、今鳥は美琴のために、一条は今鳥のために、そして沢近と八雲はこれからその想いを・・・、etc。
それぞれちゃんとした理由だ(その理由が良いのか悪いのかは関係ない、念為)。別に目的がDでも袴姿でもキスでも
デートでも構わない。とにかく、彼ら「スクラン」の住人はひたむき純真で、輝いている。
私はそれがいつからか、耐えられないほど嫌に思えてきた。その素晴しすぎる世界に嫌気が差した。
輝かしき青春全快のドラマたるスクラン。明るくて希望だらけのスクラン。勿論、時に美琴も沢近も八雲も衝突し、喧嘩し、
傷つく。しかしそれも、所謂「青春」という愛惜と記憶の世界にきちんと収斂されるものであることは云うまでもなかろう。
それを美化するにしろ嫌悪するにしろ、「人生という物語」の中に特権化される輝かしいティーンエイジの季節・・・。
そりゃ仮にも週300万部の超メジャー誌に掲載されてるんだから、社会性とか責任感とか夢とか希望とか未来とか努力友情勝利
とか、その類の明るい言葉で形容される作品が要求されるのはまあ当然っちゃ当然なんでしょうけど。
そうか、この沢近とか八雲とか播磨とかの純粋な内面や感情に共感しなくちゃいけないんだ、好きにならないといけないんだ、
と心のどこかで強要されながら、「強く優しい」人間たちが繰り広げる爽快で感動的でコミカルで痛快で切なくてシリアスな
スクラン世界の中に、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・救世主はいた。
その名は塚本天満。
私にとって、彼女の存在は、スクラン世界において余りにも異質で異様だという意味において、かつてないほどに刺激的で
予想外で潜在性の顕在化と呼ぶに相応しい「出来事」だった。
天満は罪も無い人々(播磨・沢近・美琴・八雲etc.)を蟻地獄に唆して彼ら彼女らのバトロワを観ながら楽しむ人で。
播磨がひたむきに天満を愛し続けなくてはいけない理由(=義務)も、なんだかもう良く分からなくなってきちゃった。
もはや想う事それ自体が目的になってしまってるような・・・・。てかさ、もういいじゃん。播磨、お前はもういいよ。
ここまでよくやった、んで、後はお嬢なり妹さんなりと安らぎのお子様ハーレムでも何でも作って幸せに生きてくれや。
でさ、天満を許そう。天満が播磨沢近八雲ほかを虐待しまくっても全然構わない。つーか俺が許す。もっとやってくれ。
その代わり人類全てを敵に回して、天満を責める理性や善や正義の味方や人間の常識やモラルとかから俺が守ってやる。
好き勝手はよくない? それは全くの錯覚だよ。好き勝手でいいんだよ。好き勝手にやってくれ、お願いだよ。大暴走。
だって、俺には見知らぬ誰かより天満のほうがずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと大切なんだから。
それでいいの? うん。なんだかなー、こんな結論ってアリ? ああアリだよ、だってマンガだもの。虚構世界だもの。
現実じゃないもの、二次元だもの。全ては夢。だけどこの現実は夢で夢こそが現実よりも深く眩い現実的な真実の世界。
沢近ファン、八雲ファン(そして/或いは両者のファン)には今更云うまでもないことだろうが、塚本天満とは要するに
アニメやゲームのヒロインには既にお約束パターンの「お前が死ねば/消えれば万事解決じゃねえか」系キャラなのである。
そして、これまた云うまでもなく、主人公=播磨はそんなことを絶対に考えない。
このキャラクターは作中で単純にみても、欠点が最も多いキャラといって間違いない。
勉強ダメ、運動ダメ、家事ダメ、スタイル並以下、ルックスは微妙だが、周囲に多々いる美人キャラ群と比べれば明らかに劣る。
では性格は? これは読者の捉え方で180度変わる類の問題と思われるが、少なくとも2ch系では良い評価は与えられていない。
天然・鈍感・暴走・勘違い・ウザい・浮いてる・どうでもいい・所詮脇役・白痴・カス・空気読め・消えろ・死ね・・・etc、
前半はともかく、後半の言葉に欠点を見出さないようにするのは不可能だ。つーか後半は殆ど願望か…。
で、つまりはこういうことだ。
塚本天満はひどく問題がありまくりのキャラクターである。
しかし、それほど問題がありながら、
「播磨と八雲を筆頭とする作中の周囲のキャラ達から無条件に大切にしてもらえる」天満を見て、同じく性格が問題だらけの
私はある種の安心感を得た。沢近、八雲、美琴らのストーリーに感染した私が一番欲しかった安心感だった(私のスクランとの
最初の出会いが、美琴の「あの人のいる大学へ行きたい」の話だった。3巻1話)。
高貴な精神の持ち主たる沢近や八雲や播磨ほかを目の当たりにして、尊く思ったり尊敬したりするのを通り越して、私は
負い目を感じていた。理想的で美しい心構えをした彼ら彼女らに、責め立てられている気がした。
「一番頑張ってる人間が一番報われる世界」を疎ましく感じた。
そしてしかし、塚本天満は違った。彼女は前を向いて生きてはいなかった。
いや、表面上はそう振舞っていた。確かに一見すると天真爛漫で、あの世界では一番前向きのように描かれていた。
だがそれがとんでもない無知に塗れた誤読であることは云うまでもない。馬鹿な読者以外ならそんなことは容易に分かる。
その実、彼女は、一番後ろ向きで、一番やる気なくて、唯一下を向いて、苦笑いを浮かべていた。
面倒くさがりで、その日暮らしで、刹那的で、自分にとびきり甘くて、なのに自分に何の関心も抱かない人だった。
自分のことにしか関心を抱いていないのに、自分は消えてなくなってしまえばいいということしか考えていなかった。
ちなみに「表面上は笑顔の和み系かつロリ系統の不思議系」なんていう安直なキャラ立ても、安心感を構築する要素の一つだと思う。
繰り返すが沢近や八雲の生き様は私ににある種の圧迫感を与える(嫌いだと言っているのでは全くない、念為)。ただ立派過ぎて
「私たちはご都合主義的な萌えヲタ御用達ハーレムマンガのキャラではない」と肩肘張って主張しているようだと邪推してしまった
だけである。
天満は自分の周りの人々がみんな自分より遥かに上にいることを知っているし、自分がダメな人間であることも良く認識していた。
しかし生き方を変えなかった(←ここが最重要)。
結果、正しいハズの播磨が、最悪の堕天使=悪魔に付き合って、地獄の道を歩むことになってしまう。
絶えず彼に救済の手を差し伸べて続けている沢近、そして八雲、姉ヶ崎、絃子・・・。
今後? どうなるんだろうね・・・。
それは決して「他人に心配をかけたくない」などという善玉の遠慮ではなく、
むしろ積極的に心配されたがった打算の結果であり、実際、作中において心配されたら途端に元気な姿を見せた。
彼女はただ、播磨に好かれていた。
自分の存在理由や心なんて関係なく。
そんな確かな事実を認識できるほど賢くなかったし、強くなかったし、弱くはなかった。
苦しかったのだから救いを求めるのは当然である。しかし本作『School Rumble』はそれをなかなか認めてくれなかった。
そんな自分本位な望みを持つのは弱さの現われだと、周囲の人間たちは頑なに拒んだ。
誰もが塚本天満を否定した。塚本天満の望みを、塚本天満の生命を否定した。
自分の死を世界が懇願していることを知っても、天満には自害する勇気がなかった。死ねない自分も嫌いだった。
私は本当は生まれてはいけない人間だった。誰からも祝福されずにこの世に落ちた。それはみんなの反応から解る。
私は何も考えたくなかった。ただ目の前のことだけに没入していたかった。そうすれば何も考えずに時間が過ぎる。
なのに無駄な時間が必ず生まれてしまう。人はそれを自由と呼ぶのかもしれないけれど、そんなのが自由というのなら
私に自由なんていらない。空白の時を埋めなくてはならない。何でもいいから、誰でもいいから、早く埋めて。
八雲でも播磨君でも愛理ちゃんでも誰でもいいから。・・・何の反応もない。なんで? みんなどこにいるの?
私を放っといて何をやってるの? 八雲、あなた私の妹でしょう? なら私の言うことに従いなさい! 播磨君、
あなた私が好きなんでしょう? なら私の望みを全部叶えなさい! 愛理ちゃん、あなた私の親友でしょう?
なら私と一緒に楽しみなさい! この3人が私のために最高のショーを演じてくれることが私のいまの望みなの。
お願いだから私を永遠に楽しませてね、自由なんてまっぴらなんだから。私は人間じゃないものになりたいんだから。
そして疲れたというのなら私のために死んで。私は人間じゃないんだから罪も法律も適用されないの。
主人公、播磨拳児は一体誰を選ぶのでしょう。本命沢近、対抗八雲、・・・・・・・・・・天満の可能性は1%以下でしょう。
塚本天満がこれ以上人間的に成長することはないでしょう。彼女を選んだとしたら、播磨も成長することはないでしょう。
彼は沢近や八雲を選んだほうが間違いなく正しい道を歩めます。だから本編も絶対どちらかになることでしょう。
でも私は正解だらけの『スクールランブル』で、細々とでもいいから不正解が死なずにやっていける可能性に少し心動かされました。
救われなくていい。誇れなくていい。悪くていい。外道でいい。ひっそりとでいい。白痴でいい。間違っていていい。
ベタベタな萌え漫画の中に生まれたこの異分子。沢近にも八雲にもない、「望まれずに生まれてしまった忌み子」としての彼女。
前進を拒否する姿勢、そして間違えたままの天満を、主人公が選ぶとするならば。
もしもこの作品が最終的に「天満×播磨」で終わるとしたら。その可能性が1%でもいいから、残っているとしたら。
坂口安吾に『白痴』という切なくも美しい短編がありますが、播磨と天満がこの小説のふたりのように寄り添って生きてくれるのなら。
ピンチを救ってくれるのが「正義の味方」の定義だとしたら、天満と播磨の関係こそが間違いなく私の中の正義の味方です。
大丈夫だよ 八雲 八雲が元気になるまで 私が代わりになってあげるから だから いつでも 八雲が元気になったら
八雲はかえしてあげるからね 彼に出会ってから 八雲は変わった …年前の元気だった頃の八雲の笑顔 私の前では見せない笑顔
あれを時折 見せるようになった 彼の前だけで この娘は 元に戻ることを 私に遠慮しているのか 全てをわかっているのか
いつからか私にずっと 心の底で憧れていた もうひとりの 私 羨望 愛情 憎悪 あらゆる感情の対象 だけど
気付いてしまった こんなにも彼と交わす 他愛ない会話 平穏な日常 全てが 喜び そろそろ 返さなきゃいけない
かえしたくない こんな感情 彼に会うまで 気付かなかった 私が求めていたものは 全部 八雲が持って行った 八雲
もう少し 借りてていいかな かみしめたい 気付いてしまった この小さな幸せ もう少し 夢の中に いさせて
全てが終わるまで あと少し もうすぐ返すから 八雲は まだ わたしのもの
ある時期以降、天満は自分の内に宿る“この世すべての悪”の存在に気付き、その身を委ねる。
別に誰に復讐したかったわけでもない。でも、お前らは私が嫌いなんだろう? じゃあ仕方ないじゃないか。
世界が私を愛さないなら、私も世界を愛さない。なんと低レベルで幼稚な逆ギレ。他の登場人物とは大違い。
もしそんな弱音とも愚痴ともつかない思いが他の登場人物の頭をよぎったなら、播磨は頭を壁にぶつけて自己反省、
沢近なら唇を噛み切るほど悔しがる、ってところか。いやまあ、人間なら誰しも浮かんで然るべき弱音のハズなんだけど。
結果、永久に天満は理解されない。それは天満が「School Rumble」という作品世界の中で圧倒的に間違っているからだ。
訂正されるべき誤った生き方をしているから、誰にも理解されない。
言っては何だが、天満の存在体系は一からやり直す他はないというほど不幸で稚拙なものだったから。
ズルくて気が小さくて、そして本心から播磨に好かれていた塚本天満。
仮にだが、播磨が自分の傍にいることを、自分の傍にいることだけを彼女が望んだとしたらどうなるのか?
決して人から憧れられるタイプの人間ではない。
自分のすべき事もせず、主人公に(勝手に)好かれているお礼に、思いつきで主人公を(勝手に)好きになって、
自分の攻撃を表に出さず、笑顔で友達や妹を応援していれば相手の方からやって来ることを知っている性質の悪さも持っていて。
救ってくれなくていい。許して欲しいだけ。独りでいるのが嫌なだけ。
天満は確かに厄介な問題だと思いますね。なぜかというと、天満を論じる時必ず言われるように、彼女はスクランが途中で
ギャグからシリアス風味ラブコメに路線をシフトさせた時に、キャラとしての立ち位置を変えて、沢近と入れ替わるように
3人娘(周防・高野・+1)の一員になったわけですね。加えて、妹である八雲を沢近のライバルのようなポジションに
置き直して、今日のスクランのバランスが整ったわけです。
ここに、今日の播磨−沢近−八雲の三角形を中心とした新スクラン世界が成立したわけですが、じゃあそれで箱庭世界的な
お約束が繰り返されて、ハッピーエンドになるのかというと、そんな単純な話ではない。
キャラクターのヒエラルキーを考える際、頂点に播磨(主人公)、その少し下に沢近(ツンデレお嬢)と八雲(内向恋愛下手)、
さらにその下に天満(天然)・周防(体育系)・高野(クール)の3人娘がフラットに連なるという、このピラミッドが
最もバランスがよく安定してることは言うまでもないことですが(サラとか一条とかお姉さんズは、ここでは措きます)、
しかし周防・高野と違い天満は、スクラン世界がそうやって形式化され(直し)た時の、本当に厄介な「剰余」として(再び)
見出されることになった。理由は簡単で、播磨が天満に惚れているという、今となっては異常なまでに扱いに困る厄介な設定を、
さすがに烏丸の存在と同じように抹消・初期化することが作者or編集に不可能だったからです。じゃあそれは何故?
何故烏丸は可能で天満は不可能だったのか? と問われたら、それは自分には分かりませんとしか答えようがないのですが…。
それはともかく、大事なことは、ここで天満というキャラの属性が全て、或る意味では沢近以上に激変してしまったという
その事実のみ。で、形式化された理想のスクラン三角形世界は、今やその剰余の抹消処理法に悩んでいるという限界点まで
きてしまっているということではないでしょうか。 要は彼女はピラミッドをぶち壊しかねない実に危険な、ヤバい存在なんです。
云うまでもなく天満はスクラン世界の初期からのレギュラーですが、同時にアンチが最も過激に展開されているのも
天満ですね。最近では天満以上に重要度も出番も何もない周防や高野、体育祭後即消えた一条などには殆どアンチ活動はない。
ということは、皆が言うように、「お子様ランチ(+超姉)」をひとつの到達点として露呈された理想的スクラン世界内の、
形式化されえない「剰余=亡霊」として天満がある、ということではないか。そもそも周防や高野や一条だったらお子様ランチの
スクラン世界を破壊してしまう心配が皆無です。播磨はこの3人を何とも思ってないわけですから。
となると当然、じゃあその剰余=亡霊をどうやって処理・飼い馴らしすればいいのかって問題になります。
一番簡単なのは無論、播磨の天満への想いを全部抹消してしまうことですね。そうすれば天満はピラミッド内の1ピース
としてぴったり収まる。播磨−沢近−八雲のお子様三角関係も何の支障もなく展開できるわけです。
しかし現状どうなのでしょうか。播磨の恋愛感情がこの2人の方に向かっているのかどうか? 確かに最近八雲に
向かいつつあるようですが…。単純に、播磨が天満に告白して、綺麗に振られればいいだけの話なんですがね。
とても簡単な事のはずなんですが。一応振られたと思い込んでる(?)ようですが、何だかんだでまだ告白してないわけですし
結局ループになりそうです。
まあ、漫画描き続ける限り、天満より八雲との絡みの方が多くなるのは必然なわけですが…。
または天満の存在自体を無かったことにしてしまう方法もありますね。烏丸の例を見るに、案外そっちの方が簡単なのかも
しれませんね。いなくなっちゃったけど、周りの誰もそれを疑問にすら思わないというように。つまり八雲は最初から
一人っ子で、沢近の親友は美琴と晶の2人だけで、播磨は現状誰にも恋をしていない、と。他の漫画ならいざ知らず、
スクランなら平気でそれくらいやってしまいうような気もしますしね。
でも「私は」、困ったことに、そんな彼女、塚本天満に史上最大夢魔級の魅力を感じてしまうのです。
確かに天満は、
天然で鈍感で馬鹿で痴呆で惚けで怠惰で無芸で大食で幼児的で無節操で独善的でお節介焼きで表面上はイイ子ぶりっ子していますが、
その実、自分が楽しむため「だけ」に周りの馬鹿人間共を扇動して不幸にして自分「だけ」は何の被害も被らない
「魔太郎がくる!!」を彷彿とさせる奴ですし
で、実際に天満がやっている行為は…
・身近な馬鹿人間共(美琴、一条、沢近、八雲…)を楽しみながら精神混乱、最悪の場合は発狂させる
・天魔と一体化して闇の強大な力を破壊の為に振るい、ゴミ2人(八雲と沢近)に束の間の甘い夢をみさせて恩を売る
・放蕩欲、支配欲、性欲を満足させ、天魔の元となる精を吸収する為、こともあろうに自分を好き(!!)な超基地外男(播磨)を
誘ってその気にさせてあと一歩というところで、放置プレイと寸止めと虐殺(今まで何回殺したんだ?)と再生、殺して生き返らす、
以下繰り返し
…完全に救い難いな!!
…いやいや、この文章は天満の魅力を語る文章なんだから、落ちつかなければ…
…えっと…確かに天魔、じゃなくて天満は自己中心的で怠惰で他人の不幸大好きっ子で自分が幸せならそれでよくて
その為なら実の妹だろうが親友だろうがそんなもんお構いなしに利用して遊ぶ皆殺し容認時代のニューチャイルドですが…
…閑話休題…
彼女はどうしようもない屑の悪党です。それは間違いありません。
はっきりいってこんな奴は恋人にしたくないし、
通常の『この娘が好きだーー!! 萌えーーーーー!!』みたいな感覚、私が塚本八雲に抱いているような
『この娘さんが大好きだよ!! 幸せになってほしい!! いやむしろ自分で幸せにしたい!!』
みたいな感覚は塚本天満に対しては欠片も感じないのですが…。
ただ、物語的には、凄くある種独特の魅力を感じるキャラクターなんですよね、天満は。
この感覚は一体なんだろうと…一生懸命考えていてようやく分かりました!!
私が塚本天満に抱いているある種の魅力を伴う感覚…これは、
私が塚本天満に抱いているある種の魅力を伴う感覚…これは、
フリーザ様や
アミバ様や
ジャギ様に
抱いている感覚と同じものだ!!
ようやくはっきりと分かったのです。
私はたいへんな思い違いをしていた。
塚本天満を『萌え漫画のヒロインのひとり』の範疇で考えてはいけなかったのです…。
彼女は…フリーザ様やアミバ様、ジャギ様の系列に連なる少年ジャンプ悪役的反・英雄だったのです!!
しかもカッコイイ悪役じゃなくて、強いけどどうしようもなく屑で、だけど、三流雑魚のありふれた屑レベル
(例:北斗のモヒカン)に比べると、あまりに屑のレベルが突き抜け過ぎていて、(例:ジャギ様)
逆に屑っぷりがイイ味だしている即・悪・屑にウルトラな連中!!
塚本天満の魅力…それは
『超絶な最低にイイ味を見せる屑っぷり!!』
そうすると…何もかもすぅーっと理解されてゆきます。
私は塚本天満に魅力を感じていた…この魅力の正体は、フリーザ様に、アミバ様に、ジャギ様に感じていた魅力、
イイ味だしてるメインキャラな屑悪党の魅力!!
…私はたいへんな真実に気がつきました。
ケンシロウが沢近愛理だとすれば、
ジャギ様は塚本天満ではありませんか!!
ちなみに名前のない雑魚モヒカンは花井春樹あたりですな。
天満が
『おれのなまえをいってみろ〜!!』
と言っている姿をありありと私は思い浮かべることができます。
当然、「沢近愛理」と答えないと闇に食い殺される訳です。
よって、天満に「勘違い暴走はよくない、何もするな」とか説くのは何の意味もないことだと思います。
フリーザ様に『星を破壊することはよくありません』と説く意味がありますか?
ジャギ様に『罪のない村人を殺すのはよくありません』と説く意味がありますか?
星を破壊するからフリーザ様の屑で悪な魅力があり、罪のない村人を惨殺するからジャギ様の屑で悪な魅力がある。
そして、全く同じように、
塚本天満…
白痴で天然で暴走で空気を読まないで周囲を不幸にして勘違い大好きで快楽主義で妹をこき使って沢近の苛立ちの元凶にして
播磨を弄んで連続虐殺ばかりしているどうしようもない最低最悪の蛆蟲女だからこそ、それこそが塚本天満の魅力なのです!!
さあ、わたしの名前をいってみなさい…うふふふ!!
「塚本天満」………………現在16歳 高校2年生だ
連載初期は「烏丸大路」という同級生に一途に恋してアプローチを繰り返し
そのひたむきさが結果的に暴走と空回りにつながるというどこか憎めない天然嬢だったのだが
「烏丸大路」が作品から消えていった後でヤツの本性が明らかになった………
塚本天満は無知で無邪気な心から勘違いを繰り返したのではない…
ワザと誤爆をし、勘違いし、間違えているのだ
ヤツに無邪気さがあるというのなら、それは無邪気に他人を殺せるところだ
「播磨拳児」の想いをワザとあさっての方向に振り、彼の人生を壊滅的に狂わせているのも
明らかになったものだけで最低4件ある
親友や妹に誤情報を撒き散らし、彼女らを修羅場に誘き出し争わせ、混乱させる事もやっていた
なぜそんな事をするのか? 塚本天満が天然誤爆勘違いを繰り返すのは…
善意やお節介からではなく 人の「死」や「痛み」を観察できるからだ
何人の人生を狂わせたかは不明だがヤツが人の苦しみを観察する時
その好奇心は至上の幸福で満たされている
ヤツはその時全ての人間の優位に立っていると感じ…人生の真理まで理解できたと思っている
塚本天満の小中学生時代を調べさせた
明るくて誰とでもすぐ友達になれて気軽に話せるタイプ……………
小学校の時から既にクラスのムードメーカーであり
中学時代には友人たちの悩み事や恋の相談役を進んで引き受け 男友達も多く
級友の誰からも好かれていたが
しかしその実は………
手料理を御馳走すると称して家に招いた男友達を監禁してドロドロの食事を食べさせ続けるは
自家栽培している植物から製造した得体の知れない薬を注射したり飲ましてみるは
失恋した女友達に「今頃は別の男のコとラブラブだね、きっと」などの絶望的な言葉を耳元で
毎日毎日言い続け 自殺にまで追い込んでいる……
自宅の本棚にはその時の少年少女の表情を記録したビデオテープが25本並んでいた…
9人自殺させたところで現在のキャラを確立させることをめざしたようだ
奴は烏丸ほどではないにせよ動かし辛い、本来は生かしておきたくはなかったのだが……
今回のような時のために わたしが塚本天満をおさえていたのだ
彼女の「天然能力」は結局のところ…話にどんな設定の矛盾があろうと「天然だから」の一言で済ますことができるからな……
解き放たれた彼女は「暴走」する ……という事ね?
『だからおまえが播磨を救うのだよ沢近…』
『普通のラブコメができるのはおまえだけだ……………』
『いいな…おまえが一番なのだよ』
わかったわ…。 もう私にはアイツしかいないのよ…
播磨の想い人が皆に知られちゃいけないってのが全ての問題。
沢近にバレたら当然ダメだし、八雲にも結局は知られてないんだろう。
播磨と天満の関係を変化させることがいかなる意味でも不可能だから、沢近・八雲頼みになる。
播磨→天満→烏丸ラインは仕様で変えることが出来ないから、他の関係ラインを変えていく手段をとる。
しかしそうなると、天満一筋の播磨を突然浮気性にするわけにもいかないから、
播磨に対する沢近と八雲の一方向的な誤解と愛情と内面の変化「だけ」をベースに進めていくことになる。
播磨と天満を内面的に動かせないから、沢近と八雲が変化していくしかない。
だから、まあ、沢近が一段落したから次は八雲、ってのは当然のこと。
そもそも、これ以上沢近サイドを一方的に進展させると、播磨の本心つまり天満の存在を避けて通れなくなる。
沢近がそれを知ってしまったらストーリーが一気に加速してしまう。それは非常にまずい。
だから一旦保留して、次は八雲の経験値を沢近レベルにまで底上げするってこと。
単純な話だ。
ただ、沢近の時つまり体育祭後半は完全に天満黙殺で進んでたから八雲の時も同様かと思ってたが、
そこは微妙に変化してるようだ。
沢近→八雲へのシフトまでは簡単だが、ではその次どうするのかってことに関わる問題だ。
また沢近オンリーに戻ることは上記の理由でできない。
天満が自ら播磨中心のラブコメに参戦することは絶対無いから、八雲を使うことで彼女を強引に舞台に
引きずり出すのかもしれない。しかし当然それは作品のコアに触れる危険な行為でもある。
(しかし絶対に沢近の方が早く知ると思っていたが…)
沢近は既に播磨に惚れてる。八雲も播磨を好きになる。
ということは、この段階で初めてこの2人は、播磨と天満のデフォルト状態に達したことになる。
奇妙な話だが、今になって沢近と八雲は、1巻初登場時の播磨と天満の場所に到達したわけだ。
これで4人とも条件が同じになった。全員片想いという意味で。
だからある意味、ようやく今本編が始まったと言っても別におかしくない。
ラブコメは、最初は特に何とも思っていなかった者に次第に惹かれていく過程にその魅力があるから、
デフォで好きな人がいる状態の播磨と天満をベースに置くと、上手く話を長引かすことができなかった。
読者もその「好きになっていく」過程を共有したいだろう。
これまでの話は基本的に、沢近と八雲の心理状態にのみスポットを当てて進めてきた。
2人が播磨を好きになる過程だけを描いてきたから、播磨の心境に関しては、
巧妙にスルーすることができた。
しかし沢近・八雲が本気で播磨と付き合いたいと思い、本当に播磨のことを知ろうと
近づいていったら、遅かれ早かれ彼の本心に突き当たることになる。
八雲は既に気付いてる兆候があるけど。
実際どうなんだろう? 俺はそろそろ沢近も八雲も(そして、美琴も晶も)、播磨→天満を知ってもいいと思う。
・天満当人がそれを知らないままならば、
・そして周囲がそれを天満に教えないという条件ならば(播磨が、こういうのは自分で伝えなければ意味がないとか言って
晶や美琴に釘をさす)
それでいいのではないか。
例え播磨の気持ちを知っても、沢近があっさり引くとは到底思えないし、そのいい意味でのプライドの高さに
かけて、絶対自分の方に振り向かせてみせると、播磨本人の前で宣言するくらいのことをしてほしい。
今の沢近がらしくない逃げばっかりやってるのは、とにかく誤解のループで話を続けていくことからくる
歪みの部分が大きいと思う。万人の前で播磨を誘って踊る勇気があったのに。
八雲に関しては実の姉妹という要素が入るのでちと厳しいかもしれんが、精神的に依存してきた姉(保護者)から
離れて自立する時、とかもっともらしい理由をつけてなんとか処理できるだろう。
むしろ漫画関係を知ってる強みがあるのだから積極的にアプローチすれば宜し。
身近な妹や親友の反応の微妙な変化に天満が気付く危険はないか? いや、彼女には国宝級の鈍さがあるから大丈夫だ、
多分。そもそも彼女の天然は、こういう状況下でこそその本領を発揮すべきものだろう。
播磨、沢近、八雲の努力や思惑や計略や陰謀やらを全て無に帰す天性のパワーと笑顔がある。
バレたらバレたでいくらでも話の進めようはあると思うし、今のギスギスした不自然な人間関係よりよっぽど
スッキリする。そういう空気の中での方が、文化祭や修学旅行などの学校イベントの話を作りやすいのではないか。
2chのスクラン信者は、自分の期待するカップリングがどうなるかが最重要ってのが殆ど全て。
その9割以上(?)を占める旗やおにぎりは、播磨とくっつくことよりもむしろ、
沢近・八雲が恋に目覚めていくその有様を重視する。そして何らかのイベントで、
片方もしくは両方が、播磨絡みで恋愛関係により一歩近づける可能性が高くなるほど
大騒ぎになる。つまり結果より過程のほうがずっと大事なのだ。
極論すれば、本編で播磨が出なくても、播磨のことであれこれ想像したり悶えたり喧嘩したり
嫉妬したり赤くなったりする沢近・八雲の姿が見られればそれでいい、ということ。
だから、播磨自身の想いが天満に向いているという事実自体は、全く関係ないし、
直接播磨が関係するわけではない、例えば最近のだと、茶道室とか喫茶店での
2人の会話とか表情とかでも大騒ぎを展開できる。
スクランSSや分校掲示板の投稿漫画を読んだことのある人はよくわかると思うが、
あそこに書かれている話の内容はほとんど全てが沢近・八雲視点。
2人の播磨に対する台詞や動作や表情や妄想や独白…の数々に萌えて悶えているという印象。
播磨の心象や言動自体は当たり障りの無い、ごく普通のものであることが多い。
誤解の無いように付け加えておくが、視点人物でないからダメだというのでは全くない。
今後も本編は播磨・沢近・八雲視点で進むでしょうし、それで何の問題もない。
つまり、この3人の内面描写を追っていくという意味だが。
この3人(もそれ以外も)とも「普通」の常識人間。だから非常に内面を描きやすいし、読者も想像しやすい。
逆に常識から外れた、良くも悪くも普通じゃないところにそのキャラ特徴がある天満の感性に、
普通で常識的な感性の人間(作者)が視点を絞るのは単純に無理があるる。
そもそも天満は内面が無いようなところがあるから、内面描写自体出来ないのではないか。
内面が無い、というのは欠点ではなく、むしろ人間の弱さから解き放たれた、完全性の徴なのであるが。
俺は天満が最強の理由はそこにあると思う。
天満は、この3人視点による「対象」として捉えられた方がよく描けているし、彼女らしい。
初期も♯本編より、♭の八雲の視点を通して描かれてたほうが活きていた。
「八雲にとって姉は侮れない存在である」で、素で間違えてたシーンとか。ああいうのは天満視点では描けない。
この3人による、いろんな意味で捉えどころのない対象としての天満を3者それぞれの視点で描ければ、
それが一番いいあり方では? これまでは播磨視点の天満ばかりだったけど、今後は八雲視点、沢近視点
による彼女が増えていくとも思うし。(播磨→天満が残れば、の話だけどさ)ジェラシー?
実際自分は、八雲視点SSにおける、実の妹に嫉妬されるも、本人はそれに気付かないという天満の姿とかが
好き。一例として挙げてみた。
扱いが対象に限定されることで逆に活かされるキャラクター性というものがあるということだと思う。
それを主役と呼ぶのかとか、問題はそんなとこにはない。読者がそれぞれ勝手に決めればいいこと。
もちろん天満視点から話を展開できる漫画家というのもいる。だが少なくとも仁丹はそういうタイプ
ではない。だから天満を「視点」から「対象」にスパッと置き換えたのは、見事な英断だったと思う。
…さて、フランス語には時折語源について不思議な印象を残す言葉がある。「免訴」もその一つだ。
「免訴」はフランス語では≪Non-lieu≫と綴る。直訳すれば「非−場所」となる奇妙な言葉だ。
なぜ、刑事訴追における訴追免除が「非−場所」という言葉で表されることになったのだろうか?
「免訴」とはいうまでもなく、犯行を犯した者がその犯行にかんして責任能力がないと認定されるときに
発動されるものだ。要は、犯行時における精神混乱、端的に言ってしまえば「狂気」という認定の結果、
この宣告が適用されることになる。
「免訴処分」は確かに、公判と刑事罰を免れるという点でいわば恩情処置である。「狂人」は、
刑事罰どころか、公判をも免除され、つまり、ある意味では罪を不問のものとして許されるのだ。
…しかし、その理由が精神錯乱、つまり「狂気」である時、この処分は過酷な場所に「被告」を置くことになる。
…「免訴処分」を受けることなく公判に付され、刑罰を宣告される者は確かに、罪の見返りとして刑に服さなければ
ならない。しかし、公判の結果、刑に服する者は、刑期を終えて出獄した後、何ほどかの差別や排除を味わうことに
なるにしても、ともかく彼は罪を「償った」のであり、しばらくの間の生からの隔離の後にともあれ自らの人生へと
帰っていくことができる。
…しかし、「狂気」を理由に「免訴」された「狂人(テンマ?)」の場合はそうはならない。
確かに狂人は罪を免除され、つまり法的には「無罪」として解放されることになる。狂人は罪の代価を免除される。
しかし、その免除放免は人生への復帰を意味しない。むしろ狂人は懲役囚以上に完全に人生から遮断されてしまう。
狂人は義務と責任の応答からなる世界、つまりは「営み」の世界において責任能力無しと認定されたが故に「免訴」
されたのだ。狂人は「人生」に所属していないが故に罪を許されたのだ。つまり、狂気を理由にした「免訴」処分は、
狂人がこの世界および人生に所属していないという認定を彼(女)に与えたことと同じことになる。言い換えれば、
「免訴」によって「狂人」は罪を免れるが、同時に狂人は、人生と世界の<外>に投げ捨てられることになってしまうのだ。
そして世界と人生からのこの一種の放逐は、刑期がないために終わりがない。
「狂気」というバリアは「狂人」の周囲にある空虚を穿ち、「世間の人々」は、彼(女)が自分たちの周囲に
立ち混じることを許すにしても、いつまた死の狂気に取り憑かれるか分からない不透明な異物として彼(女)を
隔離し続けることになるのだ。
「狂気」を理由に「免訴」された狂人には社会復帰というものが殆ど不可能になる。
なぜなら狂人は社会に所属していないが故に「免訴」されたからであり、従って狂人には復帰すべき場所が予め
失われてしまうのである。「免訴」された狂人は文字通り「非−場所≪Non-lieu≫」の中に隔離されてしまうのだ。
「非−場所≪Non-lieu≫」つまりは「狂気」の中に……。
そもそも、今のスクランは主役の男1人+彼を囲む複数の女キャラという形式の、ギャルゲーをそのまま漫画に
したような作品なんだから、ヒロインが複数いて当然。
ただギャルゲーは基本的にマルチストーリー&マルチエンディング、つまりヒロインの数だけルートが分岐し、
当然、エンドも複数ある。決して1つのエンドに収束しない。分散したまま。それは明らかな矛盾なわけだが、
ゲームという形式上は特に問題ない。
しかし漫画は、当たり前のことだが、マルチストーリーを一つの時間の流れの中にリニア化しなければならない。
だとすると、複数ヒロインが順番にメインになって、それぞれのルートを交互に展開するのがありうべき
(妥協的な?)解決策となる。
要するに沢近をちょっと進めたから次は八雲、これもちょっと進んだから次また沢近、・・・とするしかない。
ギャルゲーのノベル版みたいに、始めから沢近編、八雲編、天満編…とかに分けて発表、上梓するならまた別だが。
ただスクランという作品の構造上、攻略キャラ順の条件として天満がラスト、という約束事というか、強い制約
みたいなものがある。それは例えば「月姫」が他のヒロインを攻略してからでないと、琥珀ルートへの分岐フラグ
それ自体が発生しないことに一面では似ているのかもしれない。琥珀ストーリーは作品構造上、最後に置かれ
なければいけない話だからだ。同様にスクランも、天満は最後に置かれなければ、そもそも話が成立しないのだ。
そういえば「Fate」も順番決まってるんだっけ? こっちは未プレイだから詳細知らんが。
セイバー=八雲
凛=沢近
桜=天満
になると思われる。これは外見とか性格とかの問題では全くなく、キャラの立ち位置の観点からみた私見。
セイバーと凛は相対的にある程度入れ替え可能だが、桜は絶対的に最後に置かれなければなりません。
この漫画は基本的に1巻と2巻以降では別物、タイトルが同じだけの別作品と捉えた方がわかりやすい。
1巻は一種の可能世界のお話と考えるべきであろう。より正確には、1〜4巻で烏丸が登場する話は全て、か。
で、2巻以降、というか正確には「烏丸がいない世界のスクラン」では言うまでもなく主人公は播磨である。
その世界では天満は恋煩いなどしていない、普通のキャラだ。
さて、播磨=主人公と定義した際、ではヒロインは誰になるのか?
もちろん複数いても全然構わないのだが、あくまでも一人のメインヒロインを絞り込むと、という話。
となるとやはり沢近になる。この二人はその事実上の出会い(2巻の傘)、インパクト最高印象最悪の事件(誤爆告白)、
その後のドタバタ(海)、女の嫉妬(対美琴・姉ヶ崎)、日常の風景(ヒゲと髪)、そして体育祭クライマックスと
普段は喧嘩ばかりして意地っ張り同士、だけどいざって時には決める、みたいな、まさにラブコメの王道を歩んでいる
ような関係にあるから。
あと、主人公には別の想い人がいる、というのも、王道ラブコメには普通の設定だと思う。
その想い人に振られるなり、思い出として未練を断ち切るなりして、主人公が振り返るとそこには、いつも彼のそばにいた
女性が立っていた…とか。
ただその想い人が、主人公とそのヒロイン(さらには自分の妹)の恋愛を応援している、なんてのは寡聞にして知らない。
あと八雲の攻勢が凄いから、上みたいな前提もちょっとぐらついてるのかな、と感じなくもない最近。
それはともかく。
そんなわけであり、私は、ここで「旗派」という書き込みを見ると、即「王道派」に変換してしまうのです。
では、元の「王道派」はどう変換されるのか? …その時の精神状態によって色々なのですが、
「桜派」「外道派」「泥棒猫派」「テロ派」「邪道派」「横取り派」「記憶派」「変態派」「向日葵派」「蟲派」…など。
特に前4つは好みです。私は根本的に外道かつ変態で心性の腐った、テロリズム肯定主義者なのかもしれません。
だからなのか天満ちゃん大好きっ子。ほのぼの〜
天満は本当に生理的にルサンチマンを受けつけないんじゃないかと思うんです。そもそもルサンチマンが分からない
人なんじゃないか。そこが沢近と一番違うという印象を持っていて、沢近はルサンチマンの人だからこんなに
ルサンチマンが分かるんだな、と思う。つまり沢近は体質的にニーチェに近い。だけど天満はあれだけ沢近と親友なのに
体質的には全然ニーチェ的ではなくて、むしろベルクソン直系なんだなという感じがします。
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忘れっぽさ、つまりは忘却と記憶に関するある積極的、肯定的な問題系・・・
…我々は事実上も権利上も実在したことのないもの、ありもしなかったものの記憶を保持する義務を拒否する。
その記憶によって支配されてあることを拒否する。常に既に「世界」の外部に君臨し、その異様なまでの空虚さを
奇妙な詐欺によって力に変え、そのことによってあたかも「地上の帝国」であるかのように振る舞ってきたその
空虚な城砦の記憶を保持することを拒否する。それが我々に強いる「奴隷であった頃の記憶」を拒否する。
それではまるで、出所と解放の後の甘やかさにおいて「奴隷」であったころの苦悩を思い出し、その思い出によって
今の生をより甘美なものとしようとするようなものではないだろうか? 或いは実際はもっとおぞましく、監禁の
塀を外から眺めながら、自分たちの「自由」を甘美なものとする「監獄ツアー」の参加者のような振る舞いでは
ないだろうか? あのころは……そして今は……「監獄」を眺めてそんな風におぞましく呟く倒錯した生を我々は
拒否する。
…そして我々は忘却を生き始める?「記憶もなければ何もない場所」から始める? そんなことではない。
我々は我々の記憶を生きるだろう。そしてその記憶とは例えばベルクソンが描き出したものである。ベルクソンは
端的に、記憶とは「今ここの世界」のことであり、そこを生きてある我々の「今ここ」の様態そのものである、と
言っていたのだった。そして我々は、そうしたものとしての「記憶」において、そしてまた自身に与えられた
限定である「精神」と「身体」、その二重の「自由」において、自分自身から一体何が「発明しうるのか」をめぐる
問いを発し続けることを選ぶだろう。
天満嫌うやつがいるのは、
沢近と八雲が惚れてる播磨を不幸にしてばっかだからだろ。
お約束パターンの
「お前が死ねば/消えれば万事解決じゃねえか」系キャラ。
でもそういう役柄だって必要なんだしさー
天満が消えちゃったら
沢近八雲の意義も半減すると思うけどね、相互補完的システムだよ。
悪人や罪人が警察官や裁判官を養い、病人が医者を養う。
すべての人間はこの点で平等。
サラなんかより天満の方が100倍はドス黒いと思うが、そういう指摘は全然されてない。
どうも播磨派が幅を利かしてるから。
ちょっと思いのたけを綴ってみます。
率直に今のスクランは、昔のスクランとは完全な別作品です。同じなのはタイトル名とキャラの名前のみ。
どういう大人の事情があったのかは知らんけど、スクランが途中から方向性をガラっと変えたのは事実だし
(それがいつ頃か、ってのにはいろんな意見があると思うが)、そしたらキャラの立ち位置やら属性やらが
完全リセットされるのも必然。製作者側もそれを認めて、主人公が播磨、メインヒロインが沢近と八雲で、
烏丸は失敗だった、とか公式発表でもした方が、潔くてしこりが残らないんじゃないかという気もしますが、
それはともかく、播磨も沢近も八雲もその立ち位置が変わったんだから、当然の如く天満だって変わります。
特に体育祭でそれが決まったでしょう。これはいい悪いの問題ではなくて、単なる事実として言ってるだけ。
だから天満が主人公だとか言ってる香具師は、いまだに過去の残像を引きずったままの懐古厨。それは、
例え当人が皮肉だかネタだかで書いてるにしても、昔のテイストが嫌いでも、「それゆえに」そうなの。
誤解なきよう言っておきますが、私は天満が大好きだから、こういうことを書いてるんですよ。
個人的には天満の立ち位置は、琥珀さんや間桐桜のそれと重なりますね。沢近と八雲がアルクとか秋葉とか
セイバーとか凛とか色々やってる過程で、綺麗に天満は琥珀・桜にスライドしたなーと。このへんは、まあ、
作者の技量と言えば言えるのかもしれません。そんなわけで、天満には今と同様、むしろ今以上に主人公を
弄ぶ天然の悪魔っぷりを期待したいですね。自分はその無邪気な心で播磨を不幸に陥れる黒策士天満の姿が
大好きですから。ついでに2〜3人殺しても構いません。あと人気投票に関しても琥珀さん4位、間桐桜6位
でしたので天満も4〜6位に入ってくれると個人的に嬉しいですね。そういえばもう一人の天満的なキャラ、
イリヤは5位でしたか
そもそも天満のキモは「普通じゃない」ところにあるからね。
普通の人間たちによる普通のラブコメになった現在のスクランでは
うまく絡ませにくい。
ましてや彼女を語りの視点にするなどもっての外。
ただ、彼女の放つ言葉やその行為が、話をとにかくいろんな方向に
拡散させることができるのもまた事実(体育祭は除いて)。
まあ、月並みな表現だが、毒にして薬みたいな存在だと思う。
俺は天満をもっと「普通の人」にしてもいいとは思うけど。
男性の行為に鈍いという基本限定さえ守れば。
俺はそもそも、天満を「主人公」とみなしたことは昔も今も一度もない。
そんなのはバカな糞編集が勝手に言ってるだけ。鵜呑みにする義理も必要もない。
最初から主人公=播磨、メインヒロイン=沢近と八雲 と認識している。
この作品を知った時期の影響かもしれないが。
あえて位置づければ天満は、主人公の想い人という点でサードヒロインか。
そして、それを承知の上で天満が一番好きだ(嫌いなキャラは特にいない)。
主人公でもメインヒロインでもないキャラとしての天満、が見事にツボにはまったのだ。
初期はそんなに好きじゃない。途中から本当にハマった。
彼女なら何やっても許す。全肯定する。
では、どこがそんなに? と自問すると、…ハッキリとした理由はない。
よく分からない。
「理屈じゃない”好き”」がある、ってのを身を以って思い知った。マジで
スクランが事実上普通のラブコメになったんだから(そのこと自体は別に構わないと思う)、
恋愛物に必要不可欠なドロドロした黒さ、要は嫉妬の感情を避けて通ることはもはやできない。
で、嫉妬の描写はやはり沢近・八雲の役割になるのだろう。
沢近は過去何度も経験済みだけど、そろそろ八雲も本格的にその感情とぶつかることに。
天満はいい意味でも悪い意味でも無邪気で裏表がないので、現在のドロドロした恋愛系では
視点人物には向かない。恋愛事は裏表の騙しあいだから。
彼女が視点人物になっていた初期はギャグ系だったので本質的に異なる。
彼女はそもそも嫉妬の感情を理解すらしないのではないか。
初期マガスペのように、八雲(つまり隣の他者)たちの視点から見た対象として描かれた方が、
作者にも楽だし、キャラとしても生きるし、読者にも自然に映るだろう。
そろそろ八雲・沢近の嫉妬の対象として描かれ始めてもいいと思うのだが…しかしそうすると
話が進んでしまうという厄介なジレンマがある…
天満に必須の属性は「播磨に想われている」と「しかしそれに気づかない」の二つのみ。
この二つがある限り、彼女のオリジナリティ(とでも言うのか)は十分に保証される。
当人に関わる恋愛事に究極に鈍い、という方向を徹底させるためにも「烏丸が好き」と
いう属性は、もうなくしていいと思う。まあ烏丸自体消滅してるけど…
逆に言えば、播磨の想いが消えた時、作者はもはや彼女を完全に不要と判断したわけ。
それ以後もモブで中途半端に残すくらいなら、完全に存在自体を消した方が潔い。
一天満ファンとしてもその方がすっきりする。作品から完全に足を洗えるし。