【ザコバナ】テニスの王子様119【お前もかー!!】

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 テニスというスポーツがある。網を張った棒切れで黄色い球を打ち合うとい
う単純なルールが受けて、たくさんの中学生がテニス部に入っている。
 全国的に人気があるので、当然全国大会もある。今年の全国大会は東京が開
催地と決まったので、予選で負けた氷帝学園という学校のテニス部もおまけで
出場できることになった。部員達は飛び上がってよろこんだ。
「バンザーイ!」
 しかし全国大会が何をする所なのか誰も知らなかったので、キャプテンの跡
部景吾というクソガキが代表して顧問の先生に質問した。
「先生、全国大会って何ですか」
 顧問の先生は榊太郎といって、テニス部の顧問の癖にピアノを弾く生意気な
オッサンである。榊は人を小馬鹿にしたような口調で答えた。
「そりゃキミ、全国の中学生がテニスをする大会だよ」
「テニスってこれですか」
 跡部は愛用の棒切れを榊に見せた。榊はピアノを弾く手を止めて、ポケット
から黄色い球を取り出した。
「それだけじゃダメだ。この球も持って行きなさい」
「どっちも持って行けばいいんですか」
「そうだ。この球を打ってくれたまえ」
 榊は黄色い球放り投げて、跡部は力一杯棒切れを振った。棒切れは見事に球
を打ち返して、球は音楽室の後ろの黒板に命中した。
「素晴らしい! 全国大会もこの調子で頑張ってくれたまえ!」
「はい!」

 全国大会が始まった。会場には日本中の小汚い中学生が集まって、みんな嬉
しそうに棒切れを振り回している。氷帝学園の相手は青春学園というふざけた
名前の中学で、すでに一人目の選手がテニスコートに突っ立っていた。越前リ
ョーマといって、頭は悪いがテニスはものすごく上手いらしい。
「氷帝学園の選手もコートに入りなさい」
 審判のお呼びがかかった。だが氷帝学園のテニス部員は全員朝に弱いので、
誰も試合なんかやりたくなかった。
「お前が行け」
「ふざけんなバカ。お前こそ行け」
「バカって言うなバカ」
「じゃあ天才でいーよ。だから行け」
「誰でもいいから早く来なさーい!」
 審判が怒ってホイッスルを吹いた。誰でもいいというので、通りがかった中
小企業の社長を捕まえてコートに放り込んでやった。
「選手以外の人間はいけませーん!」
 ヤケクソにホイッスルを吹き鳴らす。実に融通の利かない審判だった。ホイ
ッスルの音がうるさくてすっかり目も覚めたので、氷帝学園の部員は全員コー
トの中に入った。
「試合開始!」
 五人の敵をネット越しに迎えて、リョーマはなかなかサーブを打たなかった。
テニスのルールをよく知らなかったのだ。
「どーすりゃいいんだっけ?」
「球を棒切れで打ちゃいーのよ」
 竜崎スミレという、ジジイだかババアだか分からない青春学園テニス部の顧
問に言われた通り、リョーマは球を投げ上げて棒切れで引っぱたいた。黄色い
球は大ホームランとなって、青空に吸い込まれて消えてしまった。
「はい、次は氷帝の番」
 審判はサーブ権を氷帝学園に移した。審判もテニスのルールなんか全然興味
がなかった。氷帝の部員は一人一個ずつ球を持って、てんでバラバラの方向に
棒切れを振った。全部の球がホームランになって空の彼方に飛んでいった。
「はい、次はアンタの番」
 審判から棒切れを渡された中小企業の社長もホームランを打った。試合を観
戦していた他の学校の部員達もなんだか面白くなってきて、みんなで棒切れを
振ってホームランをかっ飛ばした。中学生の夢を乗せた黄色い球が、秋晴れの
晴れ渡った空に無数の放物線を描いた。
 みんなテニスが大好きだった。