西暦20xx年。若手の時計職人Qは朝、工房に入る。
「これも商売だからな。この程度の時計なら○○分くらいで片付けなきゃ商売になんねぇな」
乱暴に時計を分解し始め、手元が狂って壊し、雇い主や客に怒られる。
「僕は幼い頃に転んで後頭部を打って以来性格が歪んで、親父も道楽人で苦労したんですよ。
これでも、家電も自家用車も俺が面倒見てたんスよ。俺は時計は丁寧に扱うべきだと常に思って
るんだけど、やっぱり現実として商売だって事も考えなきゃいけなくて、そんな自分への怒りで
気が変になりそうで、気持ちを抑えるのに必死だったから、(中略)やむを得ず、自分の手が
自分とは思えない動きをして、時計が壊れちゃったんです」
客は「ごたくはいいから、俺の大切な時計をどうするつもりなんだ!」と言う。
「ハァ?モノも大切にできない分際でこんな長持ちもしないボロ時計選んどいて、俺が面倒見て
やろうってのにたまたま壊れたからって因縁つけるんじゃねぇよ。だいたいね、今回壊れたから
ついでに風防も新品に換えられるんだし、磨いてやるから新品みたいになるだろ。この機会に
時計が蘇ったと思って喜べよ」
雇い主は隣で土下座し、「こいつの非礼は俺に免じて許してください」と泣く。
「議論を避けたがるのは日本人の悪い癖ですよ。欧米ではね、年功序列なんてものはなくて、
若くたって正しいことを言ってれば同じように尊重されるんですよ。正しいことを言うのに卑屈に
なる必要はない。そうそう、この時計、昔の人が手作りで丹精込めてつくったものと違って、
いかにも今の時代の使い捨て思想を反映してますね。長く使う前提としてね、モノはいい物を
選ばないといけませんよ。もっと長く使えるきちんとした時計を買うことをおすすめしますね。
お客さんあんまり時計の扱い知らないみたいだし、セイコーの電波時計とかいいですよ。
クオーツのくせに6石入ってて、いい機械ですよ」
客が言葉を失って帰るのを見送る時計職人Q。
「あぁお客さん、車はベンツですか。時計の趣味とよくマッチしてますね。コストダウン重視の
この時代のベンツはベンツらしくないですね。どうですか?アベンシス」
客は車を思い切りバックさせ、店のショーウインドウを壊して帰っていったという。