不定期連載小説『卞喜 〜鈍き流星の如く〜 (仮)』 (6)
「どうした、呂布?」
いぶかしげな顔をした董卓が呂布に問う。卞喜の予想通りだった。
「はっ、これが」
呂布は拾い上げた流星鎚を董卓に見せる。
「何だ、それは?」
「流星鎚と呼ばれる武器です。おそらく董太尉を狙ったのでしょう……」
呂布が言い終わるよりも先に上空より二球目の流星鎚が飛んできた。それは真っ直ぐな動きではなく、空中で大きく弧を描き、
変則的な回転を見せながら迫ってくる。卞喜の左手にあった双星型のやや小さめの流星鎚だ。再び呂布が方天画戟を手に飛んだ。
(かかった。勝った!)――巨木の上の卞喜はほくそ笑んだ。先に放った左手の流星鎚は言わば目眩ましだった。
いくら卞喜の腕であっても、この距離から直線ではなく曲線の動きで正確に董卓を狙うのは難しい。
だが、董卓の頭部を正確に狙った一球目と、変則的に動く双星型の流星鎚を見て、呂布は二球目も叩き落とそうとするだろうと読んだのだ。
読みは当たった。そして、卞喜の右手には本命である三球目の流星鎚が充分な回転と共に握られている。
卞喜がその手から今まさに流星鎚を放たんとした時、狙う先の董卓の体から黒い炎が上がった。
(何だ!?)―― 卞喜はたじろぐ。黒い炎は董卓の体とは別にもう一つ董卓の形を作り出し、その塊は一瞬で卞喜の目前に迫った。
死の危機に瀕して無意識に董卓から放たれた気なのか、あるいは董卓と言う存在自体なのか、それが卞喜に問い掛ける。
(わしは年老い腐った漢という国を破壊し、次の時代の礎を築く男だ。賊に問う。貴様にわしを殺し、時代を変え、歴史に名を刻むだけの価値があるのか?)
そんな言葉を、卞喜ははっきりと耳にした。そして、董卓の形をした黒い炎の塊は消える。
機を逃したのは分かっていた。かわされるのも分かっていた。それでも手にした流星鎚を卞喜は放った。矮小な存在なりの意地のつもりだった。
虚しさが卞喜を襲う。刺客と標的としてではなく、それぞれの存在の重みという戦いで、董卓に破れたのだ――。
続く