卞喜、ついにウォッシュレットを完備

このエントリーをはてなブックマークに追加
16無名武将@お腹せっぷく
不定期連載小説『卞喜 〜鈍き流星の如く〜 (仮)』 (5)

 洛陽、いや中原において、呂布が並外れた武勇の持ち主であること、また主君であり義父でもある丁原を斬って董卓の臣下となったことを知らぬものはいない。
また、并州生まれの卞喜は、呂布が中原にその存在を知らしめるよりも前から、勇猛な武人の代名詞として五原郡の呂奉先の名は聞き及ぶところだった。
 だが、まさかこれ程までのものとは思いもしていなかった。卞喜が流星鎚を放った際、董卓と呂布の立つ位置の間には十間(約13.8m)近い距離があったが、
上空より飛来する物体に気付いた呂布は、九尺とも一丈とも言われるその巨体を文字通り宙に舞い上がらせ、まるで空中を歩くかのように軽々と進み、
愛用する方天画戟と言う特殊な形状をした戟で流星鎚を地面へと叩き落としたのだった。
(信じられん。これが人間の動きか!)――卞喜は戦慄した。だが、それが実際に起きた、目の前にある現実だ。そして、その中で次に取るべき行動を決めなくてはならない。
卞喜の流星鎚を用いた暗殺術で最重要となる一球目は防がれた。暗殺を続行し二球目を放つべきか、急ぎ巨木の上から撤収するべきか、瞬時の判断を迫られる。
 呂布は上空に注意を払いながら地面 に叩き落とした流星鎚に近付いて拾い上げようとする。いぶかしげな顔をした董卓がいる。卞喜は考える。
おそらく呂布は流星鎚を放つ瞬間を見たわけではない。だが、飛んできた方向や角度からすぐに卞喜のいる場所を割り出すだろう。
しかし、その前に董卓に状況の説明を求められる。二球目を放つ為に最低限必要な時間は稼ぐことができる。卞喜は決意を固めた。
(まだいける。やってやる――)
 卞喜は二球目の流星鎚を手に取る。いや、二球目と三球目だった。右手には一球目と同じ単星型(重りが一つのタイプ)の流星鎚、
そして左手には双星型(重りが二つ)のやや小さめの流星鎚を持ち、同時に回転を掛け始めたのだった。

   続く