不定期連載小説『卞喜 〜鈍き流星の如く〜 (仮)』 (4)
巨木の上の足場は決して良好とは言い難いが、卞喜の腕であれば、流星鎚の扱いには影響しない。ただ、標的の董卓まで距離があるので、
普段よりも多めに流星鎚を回転させ、慎重に狙いを見定めた。
董卓は村長からのうやうやしい挨拶を適当に聞き流し、献上品の吟味にかかった。やはり古ぼけた壺や鏡よりも、要求した若い村娘たちの方が、
この男の興味を引くようだ。怯える娘たちを立たせて一列に並べ、まじまじと顔を覗き込んだり、 体を撫で回したりする。巨木の上の卞喜は思う。
(いいぞ、助平豚野郎、はやくお気に入りの娘を決めやがれ――)
董卓は下品な笑顔を浮かべながら、一人の村娘の着物を掴むと、乱暴にひき裂いた。晴天下に若い女の裸体がさらされ、悲鳴と下卑た笑い声が同時に沸き起こる。
(今だ!)――心の中でそう叫んだ卞喜は、流星鎚を董卓目掛けて放った。董卓も部下たちも、視線と意識を女に集中させている。
卞喜は完璧な一瞬を逃さなかった。間違いなく、流星鎚は董卓の頭蓋を砕き脳髄を飛散させる。卞喜はそう確信した。
しかし、董卓の部下の中に一人だけ、飛んでくる流星鎚が董卓に届く前に、それに気付いて動いた者がいた。
董卓の護衛隊長とも言える男で、呂布、字を奉先と言った――。
続く