卞喜、ついにウォッシュレットを完備

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11無名武将@お腹せっぷく
不定期連載小説『卞喜 〜鈍き流星の如く〜 (仮)』 (2)

 たまたま、董卓が視察に訪れたその日が年に一度の村祭りだったというだけだった。だが、そんな説明は暴君には通じず、行うべき農作業を放棄して遊ぶ不届きな者たちとして、
村人は皆殺しにされ、村は焼き払われた。話は瞬く間に広まり、洛陽やその周辺の村の住民たちは恐怖した――。
 司徒・王允より董卓暗殺の依頼を受けた流星鎚の使い手、卞喜は、その話を聞いて、狙うなら董卓が洛陽周辺の村々の視察を行う際だな、と思った。
 卞喜の暗殺術は、相手の遠く、あるいは死角となる場所から流星鎚を飛ばすことによって行われる。卞喜は狙った場所に寸分違わず正確に流星鎚を飛ばすことができ、闇討ちの正否は、
相手が飛んできた流星鎚に気付いて身をかわすか否かによるところが大きい。標的の回りに警護の兵がいれば一発目を外せばまずそれで終りだったし、もし相手が一人の状況であっても、
気付かれた後、二投目以降は相手の動きと流星鎚の狙う先との読み合いになる。並の武人相手であればそれでも状況によっては討ち取ることも可能であるが、
董卓はただ暴虐なだけの独裁者というわけではなく、涼州にあってその武勇を知らしめた剛の者でもあった。
仮に董卓一人のところを狙えたとしても、最初の一投で致命傷を与えることができるかどうかの勝負になるだろうと卞喜は考える。
 董卓が洛陽城外の村への視察を行う際に狙うというのは、当然護衛に守られてはいるが、開けた場所であればより遠くから狙えて気付かれにくいという点、
暗殺の正否に関わらず実行後の逃亡が容易いという点など、洛陽城内で狙うよりも利が大きかった。
(しかし、董卓も非道な男だ。罪のない村人を皆殺しとは……)
 そう思った後、卞喜はかつて自分が黄巾賊やその残党である白波賊に身を置いていた頃の所業を思い出し、
(いや、俺が言えたことでもないな)――と自嘲した。

   続く