何進の大出世の謎が知りたい

このエントリーをはてなブックマークに追加
56無名武将@お腹せっぷく
 何進が背後からの殺気を感じ取った時、既に凶器は放たれていた。紐を付けた金属の重りを振り回して飛ばす流星鎚と呼ばれる飛び道具だ。
 一つ、二つ、三つ、四つ……次々と飛んでくる流星鎚を、何進は巨体に似合わぬ素早い動きで回避していく。体勢を整え一呼吸置くと、
何進は腰の剣を抜きながら叫ぶ。
「何奴、わしを大将軍何進と知っての狼藉か!?」
 気迫のこもった太い声だった。刺客は唸った。何進がかつて『南陽の人斬り肉屋』の異名を取る侠客だったという噂はどうやら本当のようだ。
為政者としては無能の烙印を押されがちなこの男だが、一廉の武人ではあるようだ。
 刺客の手元に残った流星鎚はあと三つ。それで仕留め損なえば接近戦となる。そうなれば何進の方が有利だろう。
また、何進の声を聞いた官兵たちが集まってくるのも時間の問題だった。刺客は引き際を悟ると身を隠した。依頼者の十常侍から前金を受け取り、
暗殺に成功すればその倍額も手に入るが、命を懸けるまでの価値は見出だせず、義理もなかった。刺客は思う。
(大将軍殿はなかなか見事な腕をお持ちのようだ。しかし、この自信がいつか身を滅ぼすことになるかも知れんな……)
 刺客は、かつて黄巾賊に身を置いた男で、名を卞喜と言った――。

   三國演義外伝『何進vs.卞喜 〜にくべんき〜 』 完