12人の妹が戦国時代に飛ばされたら

このエントリーをはてなブックマークに追加
301無名武将@お腹せっぷく:03/11/06 00:37
法政大3年吉野豪タイーホage
エノキ外野の野次に負けるな!応援してるぞ!
□■■■■■■■■■□□□■■■■■■■□□■■■■■■■■□□□■□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□■□□□■□□□□□■□□□□□□□□□■□□□■□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□■□□■□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□■□□□□□□□□□□
□□■■■■■■■■□□■□□■□□□■□□□□□□□□■□□□□■□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□■□■□□□□■□■□□□□□□□□□■□□□□■□□□□□□□□□□
□□□□□□□□■□□□□□□□□■■□□□□□□□□■□□□□□■□□□□□□□□□□
□□□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□□■□□□□□■□□□□□□□■□□
□□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□□■□■□□□□■□□□□□□■□□□
□□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□■□□■□□□□■□□□□□■□□□□
□□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□■□□□□■□□□■□□□□■□□□□□
□□□□□■□□□□□□□□□■□□□□□□□■□□□□□□■□□■□□■■□□□□□□
□□□■■□□□□□□□□□■□□□□□□□■□□□□□□□□■□■■■□□□□□□□□
合戦は終わり、居城に引き揚げる。
首実検は居城の黒井城で行われるようだが、航としてはあまり参加したいものではない。
城への道中、航たちの所へ、中澤治部大夫が馬を寄せてきた。
治部大夫は、馬の背に積まれている投石機の部品を見て、
「被弾しているようだが、以後も使えるのは何台ほどであろうか」
と訊いてきた。
訊かれても航にはわからないので、「ね、鈴凛」と促す。
「え、はい……。被弾したのは2台ですが、しかしそれぞれ被弾個所が違うので、
部品を融通することで、4台中3台が使用可能です」
と、鈴凛は相手が違うのでいつもと違う口調で答えた。
「そうであったか。それと、使った炮碌玉の類について、後で刑部大輔……赤井幸家殿が
いくつか話があるようじゃ」
そう言って、治部大夫は自分の部隊に戻っていった。

さて城では、航だけが首実検に参加した。春歌あたりについていて欲しい気もしたが、
物理的な危険はないこんな時くらい、兄らしいところを見せなくてはならない。
足軽たちの首は、ひとやま幾らといった具合に、まとめて処理されるが、下士官クラス
になると、場合によっては首に化粧も施され、大将直々に行う。
参加する前は、おどろおどろしい光景に吐き気がするかも、と思ったが、しかし沢山の
生首が並ぶ光景は、なにか作り物でも並んでいるような、現実感のない光景として航の
目には映った。
気候がまだ涼しいせいか、肉が腐るのも遅く、血の臭いはするが腐臭はそれほどしない。
首実検が終わると航は、城のふもとの村にある、妹たちがいる屋敷へと戻った。
航と春歌たちが屋敷の前まで行くと、そこでは留守番をしていた可憐たちが、困った顔を
して外で佇んでいた。
「あ、お兄ちゃん!」
可憐が、さっきまで暗く沈んでいたであろう顔に光をさして、航のところに走り寄ってくる。
「どうしたんだ、可憐?」
「この家の持ち主が帰ってきて……それで家を出されてしまったんです」
その可憐の言葉を横から聞いた鈴凛は、表情を変えて、屋敷とは別の、作業場にしていた民家に走って行った。

航たち12人がこの村に来た日は、ちょうど明智光忠の軍勢が攻め寄せている日であり、
村人たちは、戦に巻き込まれるのを防ぐため、家財道具を持って山かなにかに避難していた。
城攻めにおいて、城下の村を略奪したり焼き討ちしたり、というのはよく行われることである。
明智光忠の軍勢を撃退してからも、不穏な空気は続いており、村人たちは避難生活を
続けていたが、今日播磨から廻されてきた脇坂安治隊がまた撃退されたことで、ようやく
村に戻ってこれたようである。
そしてそれによって、留守中の家を使っていた可憐たちは追い出されることとなった。
見ると、着物に身を包んだ白髭の老人の指示のもと、人夫たちにより屋敷には次々と家財道具
が運び込まれている。

「困ったなあ。中澤さんか赤井さんに頼むしかないか……」
航が腕を組み考え込んでいると、鈴凛が戻ってきた。
「あ、アニキ。私が作業場にしてたとこは、まだ戻ってきてないみたい。とりあえず、
そっち移りましょ」
「そうだね。仕方がない」
一行は、鈴凛の言葉通り、作業場にしている民家に移った。
広さとしては、道具や機材を片付ければ11人でも入れないことはないが、前の屋敷と違って、
土間にムシロ敷きという貧しいつくりなのが難点だ。
とりあえず住人が戻ってきそうもないのを確認して、前の屋敷の外に積まれている、航たちの
私物を運び込んだ。そうすると、作業場はかなり窮屈なものとなった。
戦で疲れている航としては、広い屋敷で早いところ横になりたかったのだが、こんな
家に移る羽目になり、内心ため息をついた。
306無名武将@お腹せっぷく:03/11/09 09:18
オナニー晒しage
読ませてくれるじゃないか。しぶとく頑張っていただきたい。
こういう妄想を書いてる時が一番幸せなのかな。
309無名武将@お腹せっぷく:03/11/09 13:22
妄想で済んでるだけいいことだよ
何か実行して世間様に迷惑かけてないんだから
思わず、欠伸が出る。
今日は早起きして、且つ重労働して、さらに危ない目に遭った。相当疲労しているはずだ。
それでも、柔らかい布団も、思いっきり体を伸ばせる空間もない。
むしろ、狭い部屋で縮こまってるうちに、体を動かしたくなってくる。しかし体を動かせる
空間もなく、足のふくらはぎのあたりなど、むず痒く且つだるい。早い話が、エコノミークラス
症候群である。
仕方なく、座っている亞里亞をどけてムシロの上に横たわろうとすると、外から馬の蹄音が
聞こえてきた。
疲れているので、わざわざ見に行く気もしない。そのまま横になっている。
すると、「海神殿!」
と聞きなれた声がした。中澤治部大夫の声だ。
急いで飛び起き、外に出る。春歌もそれに続いた。

外には、中澤治部大夫と、もう一人大柄の男とが、すでに馬を下りて並んでいた。
もう一人の男の方は、どこかで見たような気もするが、思い出せない。
「これは、こんにちは」
と、とりあえず中澤治部大夫には通じる現代風の挨拶をする航。
しかしその斜め後ろでは、春歌が素早く平伏していた。
航は、その春歌の方を振り返り、怪訝な顔をした。
「??」
「兄君さま……。赤井刑部少輔……幸家様です」
「え?」
と声を漏らしてから、少し考える。幸家といえば、主君である赤井直正の弟であり、
三尾城の城主を務めている。
どこかで見たことあるような気がしたのは、合戦前の軍議で同席していたからである。
航が、なにかよくわからないながらもとりあえず平伏しようとしたところ、幸家は
手を挙げてこれを制した。
誰に読んでほしいの?
312 ◆2011TWOdso :03/11/12 00:18
>>311
元ネタ知らないまま読んでる者ならここにいるぞ。
313甘藷 ◆Pc3CKansyo :03/11/13 00:41
鈴凛ってなんて読むの?
すずりん?
>>313
「りんりん」。
「ところで、あの炮碌玉や大きな石弓を作ったのは、お主であろうか」
おもむろに、幸家が口を開く。落ちついた、柔らかな声である。
日に焼けているのか元々なのかわからぬが肌の黒い、やや平面的な顔の中で、線のような細い
目が穏やかに笑いかけている。口ひげを生やしているようだが、薄い。
兄の赤井直正が、「赤鬼」というあだ名通りの形相であるのに、この弟はそれにまったく似ていない。
兄のギロリとした大きい目と、弟の細い穏やかな目。兄の荒々しいヒゲと、弟の薄い口ひげ。
似ているのは、肌の色くらいであろうか。

「いえ、私ではありません」
と言って、航はぶんぶんと首を横に振ってから、
「私ではなく、妹の鈴凛です」と答え、家の中から鈴凛を呼び出した。
出てきた鈴凛を見て、幸家の細い目が一瞬、光る。そしてすぐに元の表情に戻る。
その変化を、航は気づかなかったが、後ろに控えている春歌は見逃さなかった。

鈴凛が軽く名を名乗り挨拶を済ませると、幸家は傍らの中澤治部大夫と少し耳打ち話を
してから、投石機の説明を希望した。
すぐに、家の隅や、家の外に積まれている、大掛かりな金具の付いた材木を見せた。
今度は幸家の額に一瞬シワが浮かんだのを、春歌はまたも見逃さなかったが、ともかく
また中澤治部大夫の説明を聞いて、納得したのかしきりに頷いている。
「うむ……。唐土の投石機のような大掛かりなものは、この山の多い海内では動かせず、
城に据えつけるかしか使いようがないと思っていたが、バラバラにして運び、いざ使う
段になって組み立てるとは、考えたな」
幸家の言葉通り、山の多い日本では、投石機の如き大きなものを移動させるのは難しい。
投石機どころか、馬や牛に引かせる荷馬車の類すらも発達せず、馬や牛の背に積むのが主な
輸送手段だったくらいである。
なお、釣井楼を分解して運び、現地で組み立てて使うようになったのは、戦国時代末期に
なってからのことである。
幸家が、腕を組んでしばらく考え込む。それから、
「……城に来てくれぬか。見せたいものがある」
と言ってきた。
航・春歌・鈴凛の3人で、一瞬顔を見合わせる。しかし多少心配であるが、断る理由はない。
とりあえず家から可憐だけ呼び出し、三尾城に行く旨を告げてから、3人だけで出立した。
3人で、幸家と治部大夫の馬に続く。航たちが徒歩なのは彼らが単に馬に乗れないからであるが、
身分の差という側面もあるかもしれない。また、当初はその側面がなくとも、徒歩を続けるうちに
そういった差ができてしまうかもしれない。
前を行く幸家と治部大夫を見ながら春歌は、ともかく航には乗馬くらい出来るように
なってもらわないと、と思った。

赤井幸家の居城・三尾城は、黒井城から離れた南東の、三尾山にある。
道すがら、幸家と治部大夫がなにやら話をしている。
すると、幸家が急にこちらに振りかえり、
「ところでお主らは……なぜ大勢であのような狭い家にいたのであろうか」
と訊いてきた。
そこで、前に住んでいた邸宅の住人が帰ってきて、作業場にしていた狭い家に移る
羽目になった次第を説明する。
それを聞いた幸家は、なぜか満足そうに頷いてから、傍らの治部大夫になにやら言った。
治部大夫は少し逡巡したが、幸家に再度言われ、仕方なく馬を止めてから向きを返し、
「……では、今からわしが殿と掛け合って、お主らの新しい居場所を手配しておく」
として、そのまま今来た道を戻って行った。

幸家一人について歩いていくと、やがて竹田川のほとりに出た。
川は最初南から北に流れているが、沿って南下するうちに、流れは東へと向きを変える。
いや、正確にいえば、西に流れていた川が、北へと向きを変える。
さらに川へ沿って東へ進むのだが、あまり体力のない航と鈴凛は歩きづめでヘトヘトになっていた。
そろそろ、春の長くなった日も沈もうとしている。
さらに東へ進むうち、ようやく三尾城のある三尾山が見えてきた。
596メートルと、黒井城よりずっと高い。そして急峻であり、上の方にある剥き出しの大岩壁が
見る者をしりごみさせる。
名の通り三つ瘤の山頂を持ち、あまり人がいそうな気配はしない。
しかし実際は、山中には石垣が築かれている。
ともかくあれを登らなければいけないのか、と思うと、航は頭が痛くなった。
あの山を攻め落とすのは大変そうだが、守るのも大変だろう。
幸家は馬から降り、手綱を引いて山道に入っていった。3人もそれに続く。
高尾山と同程度の標高ながら、手強い印象を与える山だ。とはいえまがりなりにも城であるから、
人も出入りもあり、登山道のようなものは人の足で固められ自然に出来ている。
登るうちに、何人かの兵と出くわす。やはり、それほど人はいない。

ある程度登ったところで、幸家は山頂に続くと思われる道からそれ、横道に入っていった。
しばらく行くと、小さな小屋が二つばかり見えてくる。よく繁った木に守られた、
隠し小屋のような風情だ。
そのうちの一室に入る。
中には、ざんばら髪で無造作に髭を伸ばした貧相な男が一人。
入った瞬間、航は思わず鼻をおさえた。
ざらざらとした、乾燥した鼻を突く空気。苦いような火薬の臭い。珍妙な硫黄の臭い。
室内には、火薬やその原料である硝石、硫黄などが入っていると思われる壷の類が、
整然として置かれている。
その他、なにやらわからぬ金具や機械、火縄銃も見える。

貧相な男は、城主である幸家が入ってきたのを見ても、わずかに顔を上げ目礼しただけだ。
「どうだ、進み具合は」と幸家の方から声をかけると、男は無言のまま、太く短い筒のような
ものを差し出した。細く、黒ずんだ指。意外と慎重な手つき。
それを受け取ると幸家は、これを鈴凛に見せてから、
「これは何だと思う?」と訊いた。
魔法瓶くらいの筒。上下とも塞がり、穴は開いていないが、なにか線のような物は出ている。
鈴凛は、口もとに右手をあてて、興味深そうに覗き込んだ。
エノキ視点でいいから、キャラ表つくってくれ。連載マンガの欄外みたいに。

衛・・・気は優しくて力持ち
可憐・・・なにごとも卒なくこなす優等生

みたいなの。「シスプリ」でググるとヒットしまくって逆にわけわからん。
320無名武将@お腹せっぷく:03/11/19 17:43
では、キャラ表。順不同。

海神航(うながみ・わたる)……12人の妹たちの兄。この名は、アニメ版の主人公から。わりと頼りない兄。
可憐(かれん)……年中組。わりと大人しく、なにかと兄に依存する。男からは気にかけられるが同性からは
         「カマトトぶった女」として嫌われるタイプ。
花穂(かほ)……年小中。ドジっ娘で、よく転ぶ。チアリーディング部に所属しており、無能ながらも、
         なんとか兄の役に立ちたい、応援したい、という気持ちを持っている。花の栽培が趣味。
衛(まもる)……年中。スケボー、スキー、水泳、徒競走と運動神経抜群だが、球技は苦手。自分のことを
         「ボク」と呼ぶが、しかし女の子としての自意識も持っているらしい。
        バレンタインでは同性からチョコを大量にもらうタイプ。
咲耶(さくや)……年長。色仕掛けで兄を惑わす。クラスの男子の羨望を集める一方で、女子とも良好な関係
        を持つ。帰宅部だが、ラクロス部の試合で代打を頼まれるなど、運動神経に優れた一面も。
雛子(ひなこ)……年少。こども。いかにも子どもといった感じで、あまり特徴はない。
鞠絵(まりえ)……年中長。病弱。眼鏡で読書好き。大型犬飼育。ゲームでは、遠く離れた療養所に居る。
白雪(しらゆき)……年中?。料理好き。兄の教室に毎日、膨大な量の独創的な弁当を持ってくる。料理の腕は確からしい。
        兄妹総出で出かける際は、みんなのお菓子を作ってくる。よく気がつくというかお節介というか。
鈴凛(りんりん)……年中長。発明好き。自宅のラボで自分の複製ロボやら潜水服やら色々と勢作している。
        材料代やら何やら金がかかるので、なんだかんだ言っては「資金援助」と称して兄から金をふんだくる。
千影(ちかげ)……年長。魔術好き。ゲームでは、実は魔界の王の娘という設定だったが……。
春歌(はるか)……年長。ドイツで育った。大和撫子を目指し、弓道やら薙刀やらといった武術から、茶道やら舞踊やら
        まで色々な稽古事をこなす。兄の身を守るのを使命としているが、兄に道を訊こうとした罪のない
        通行人を叩きのめすような面も。
四葉(よつば)……年小中。イギリスで育った。口癖は「チェキ」。シャーロック=ホームズに憧れる自称名探偵。
        兄をストーキングするのが趣味。「美少女怪盗クローバー」の正体でもある。
亞里亞(ありあ)……年少。フランスで育つ。よく泣く娘であるが、戦略的に泣いている節もある。
        行動は遅い。というか、メイドの「じいや」が居るので、自分ではあまり動かない。
323319:03/11/20 13:11
おーよく分かった!

昔風雲録スレで見た「殿チャマ、チャキ」の元ネタってこれだったのか。
>>323
厨房板の「兄チャマチェキ」もこれなんだろうね。
「…………」
鈴凛が腕を組んで考え込むのを、幸家は微かに笑みを浮かべて見守っている。
「……威力はありそうだけど、……これで殺すにはくくり付けるかしないと……」
と、鈴凛は首を傾げている。
「これは……地や崖、枯草の中などに埋めて使うんだ。火花が飛び散り、もろい崖なら
崩すこともできる。これを、唐土の物語から取って、"地雷"と呼んでいる」
「地雷……ですか」
鈴凛は少し驚いた表情を見せた。幸家の言う「唐土の物語」とは、『三國志通俗演義』、
孔明の南蛮征伐のくだりであろうか。
実際に赤井幸家は、1578年12月24日の黒井城近辺での合戦において、地雷を用い明智光春
相手に勝利を収めている。これは、時系列からいえば航たちがいる時間から数ヶ月後のことである。
ともかく幸家は黙って頷いてから、"地雷"をもとの場所に戻した。
「さて、そなたの言う通り、この地雷は火薬を多く使っているわりには、これで多くの敵を
倒せるかというと、そうではない。前もって埋めねばならず、防御に使えても攻撃には
使いづらい。ところで、君たちは、先ほどの合戦では、炮碌玉に手を加えたものを使っていた
という話だが……」
「は、はい……それは……」
と、鈴凛が、先の合戦で使った"爆弾"の説明をはじめる。"爆弾"は、直撃した敵兵を黒焦げの
肉片に変えるほどの威力を発揮した。もっとも、製造にコストがかかり、先の合戦では実質4発
しか用意できなかったが。
鈴凛製の爆弾は、容器には陶器を用い、中心には火薬を詰め、火薬の周りには金属片を入れ殺傷力を
高め、などといった現代からすればオーソドックスなものである。
火薬については、この時代の火薬は、硝石・硫黄・木炭を調合した黒色火薬が主であるが、
鈴凛はそれにも工夫を加えているらしかった。
過塩素酸がどうとか、硫化アンモニウムがどうとかいう話を聞いたが、理系にうとい航には
よくわからない。結局出来たのも、黒色火薬より少し上程度のものだったようだ。
原料がないのか、あっても精製する技術がないのか、その辺はわからない。
航は、部屋の隅に腰を下ろしながら、鈴凛と幸家の、いわば理系人同士の入り込めない
会話を黙って見つめていた。そして、"現代"に居た頃、鈴凛が苦手な文系の宿題を自分が
見てやり、自分が苦手な理系の宿題を鈴凛に見てもらっていたのを思い出した。

しばらくすると、鈴凛がこちらに振りかえり、
「ね、アニキ……」と手招きした。
立ちあがり、鈴凛のもとへ行く。
「アニキ。ここの火薬使って、次の合戦で使う爆弾作ってくれっていうの。ここに泊まり
込んでも、ラボに持っていってもいいって……」
「そうだな……。鈴凛置いていくのも心配だから……」
「それが、次の合戦まで間がないらしいの」
「えっ」
と言って航は、鈴凛の顔から幸家の顔へと視線を移した。
「うむ……。殿は、三日後に出陣と言っている。それを、拙者や治部大夫が諌めて
伸ばし、五日後といったところか。それまでに、明智の軍を打ち破れるだけの炮碌玉
を作ってもらいたいのだ」
と言って、幸家が航の方に向き直り、頭を下げたのか頷いたのか、といった動作を見せる。
幸家は、兄・直正のことを「兄上」ではなく「殿」と呼んでいるようだ。

ここで不意に、扉の内側に立って外の気配を窺っていた春歌が、
振り向いて会話に加わってきた。
「3日後と、殿は仰っているのですか。今日の合戦の戦い方といい、そして今度の
明智攻めといい、とても急いでいるように思います。なにか、理由でもあるのでしょうか」
春歌の真っ直ぐな視線が、幸家を射抜く。
幸家は、「そ、それは……」と一旦口篭もってから、
「……日向守・光秀よ。明智の軍は今八上城を囲んでいるが、光秀本人は丹波を離れ、
石山攻めに加わっておる。攻囲を衝き、八上を救うには光秀のいない今を逃してはならぬ」
と続けた。
確かにそれ自体は正しい理屈だが、しかし聞く者になにか引っかかるものを残す話しぶりである。
ともかく春歌は、それ以上訊くことはしなかった。いわば外様の傭兵部隊のような存在である
自分たちに何もかも明け透けに話してくれるはずはないし、言いたがらないようなことをしつこく
訊くと内通を疑われる恐れがある。

幸家は、春歌から視線をそらすと、
「で、炮碌玉をどこで作るかだが……」
と鈴凛に話を振った。
「えっと、いつも使っている工具を家に置いてあるので、取ってきたいんですけど……」
「そうか。それならすぐに早馬でも出して取ってこさせようか」
「お願いします」
と、軽く頭を下げる。
幸家は小屋から出ると、どこからか足軽を一人呼び出した。
可憐たちの居場所は現在、中澤治部大夫に手配してもらってる状態なので、書状は
治部大夫宛てにして、それを可憐たちに回してもらう形となる。
春歌以外の妹は、筆で書かれ旧字体が使われたこの時代の文章は読めないので、
書状のうち妹宛ての部分はボールペンで航が書く。ただし、治部大夫宛ての部分の執筆は、幸家が行う。

工具等の三尾城への輸送と、白雪・咲耶・衛を呼び寄せる旨を書いた書状を渡すと、
足軽は軽快に駆けて行った。
もはや空は完全に暗くなっている。
足軽を見送るため外に出た一行だが、幸家が小屋に戻らず歩きだしたため、それに続いた。
なんとなくの散歩であろうか。
少し歩いたところで、幸家はおもむろに足を止め、道端に露出している岩の欠片を拾いあげた。
振り向いてその欠片を差し出し、
「これがなにか、わかるかい」
と誰にともなく尋ねる。
少し考えてから、鈴凛が首を横に振った。

それを確認すると、幸家は左手で懐から小さな刃の付いた板切れを取り出した。
右手に石を、左手に板切れを持って構える。板切れの刃は、水平にして右側に向ける。
そして、右手の石を、素早く刃に擦りつけた。
石が軽く削れる音とともに、鮮やかな火花が飛び散る。

それから二、三度、火花を闇に散らして見せた。
幸家は、石を道端の岩の上に戻すと、
「これは、火打ち石さ。ここ三尾の石は、火打ち石によく使われるんだ」
と言った。三尾山で産出される石はチャート(珪石)であり、チャートは、石英や瑪瑙
と並ぶ火打ち石の素材である。なお、チャートを擦りつけた刃は、火打ち金だ。

そのまま、元いた小屋に向かってゆっくりと歩き出す。歩きながら、話を続けた。
「子どもの頃、よくここで遊んでね。そこで爺が、その辺に落ちている石を拾い上げて、
今みたいに火花を出して見せてくれたんだ。なんてことない、ちょっと綺麗なくらいの
石なのに、子ども心にとても不思議でね……。それからかな。火に興味を持つようになったのは」
話すうちに、小屋の前に着く。ここで作られている地雷や各種爆薬こそ、その少年時代の
驚きが時を経て結実したものなのだろう。
鈴凛は、幸家の話を聞きながら、自身が機械作りに進むことになったきっかけを思い出していた。
五日後。
山陰道を、丸に結び雁金の旗をなびかせた大軍が南東に進む。
目指すは、八上城を囲む明智光秀麾下の軍勢である。
人数は、この時点で二千から三千。明智光忠に続き、脇坂安治の軍勢を破ったことで
さらに赤井家の名は上がった。そのため、八上城救援の号令のもとに、丹波諸豪族の軍勢を
これだけ集めることができたのである。
三尾城城主・赤井幸家、高見城城主・赤井忠家といった前回の面々に加え、余田城主・余田為家、
穂壷城主・稲継壱岐守、中澤治部大夫の一門で大山城主の中澤重基、といった面々が集まっている。
軍勢はまだ、黒井城からそれほど離れていないにも関わらずこれだけ集まっているのであるが、
これ以降も山陰道沿いの諸城からの加勢が期待できるはずである。
しかしそうして集まる諸勢力には、信長に通じる者もあるであろうし、また反信長であっても、
波多野寄りの勢力については寝首をかかれぬよう注意を払わねばならない。

三尾城前をいくらか過ぎたところで、最初の休息を取る。
ここではじめて、各種新兵器とともに、鈴凛と白雪・咲耶・衛が合流してきた。
鈴凛は三尾城の小屋につめての武器製作、手先の器用な白雪・咲耶はその手伝い、
衛は伝令役である。航・春歌・四葉は黒井から軍に同行している。
「ハ〜イ、アニキ。久しぶり」
と、三日ぶりくらいに会った鈴凛が声をかけてくる。寝不足らしく目の下に少しクマが
できているが、しかし元気そうだ。白雪も少し疲れ気味のようだが、咲耶は綺麗な肌を
したままなので、おそらく手先や肌が荒れるのを嫌ってあまり手伝わなかったのだろう。
「あれ? その簪(かんざし)、どうしたのですか」
と、春歌が鈴凛の髪に挿してある螺鈿を指差した。
「あ、これ。買ったの。5円で」
「5円?」
と、春歌が目を丸くする。
5円で買った現場を見ていた航は、二人の言動を見て思わず笑みを浮かべた。

きっかけは、爆薬に混ぜるアルミニウム紛を作るため、鈴凛が1円玉を削っていたところ、
見ていた幸家がそれに目をつけたことにあった。
16世紀を生きる赤井幸家にとって、アルミニウムは未知の金属である。軽くかつ硬い未知の
金属で作られた1円玉を、幸家は所望した。そこで、幸家が差し出した高級品らしい螺鈿の簪と、
未知の金属で作られた硬貨5枚を交換することとなったわけである。
本来なら、現代から持ち込んだ、この時代では入手不可能な物体はなるべく手放すべきではない
のであるが、しかし今後のことを考えると、赤井家の武将とは良好な関係を保っておかねばならない。

「これは……鼈甲に貝殻を貼りつけるのではなく、彫り込んだ鼈甲に貝殻をはめこむ方式で、
飾りには珊瑚も……」
と、春歌がかんざしについてのアクセサリーに興味のない人にはどうでもいい解説をはじめる。
鈴凛は、「そ、そう……」と答えてから、
「ね、アニキ。これどうかな?」と航に話を振った。
「あ、それね。鈴凛はほんと商売上手だよね」
という航の答え。鈴凛は苦笑いを浮かべ、(聞きたいのはそういうことじゃないのに)と
思いながらも、「そ、そう……」と言うしかなかった。
合流が終わったところで、また行軍が始まる。
行軍の際、馬に乗れるのは全体の10%程度。乗るのは士官クラスであり、その騎乗者一人が
数人の徒歩兵を従え、戦場では1ユニットを構成する。馬を用意できるという地位と、
従者や足軽を従える地位とは、イコールなのである。騎馬兵だけでユニットを構成するようなことはない。
そして馬は、航たちにも何頭か用意されている。
本来なら扶持の中から各自が購入するのであろうが、これは特別扱いされているということだろうか。
用意された馬は主に投石機の部品や弾丸の輸送に使っているが、残る一頭には、航自身が乗っている。
サラブレッドやアラブと違い、日本在来馬は体高が低いので、乗っても目線の高さはそれほど変わらない。
航は乗馬の技能がないので、春歌に手綱を引かせ、両手はただ鞍を掴むのみ、という形だ。
馬の背で揺られるのも、大腿の筋肉が特にそうだが、疲れる。しかし徒歩で歩くよりは疲労度は軽い。
だがこの行軍において、全軍でもっとも軽快なのは、衛のようだ。
現代から持ち込んだスケボーで、すいすいと先に行く。そして、道端に座って軍が追いつくのを待つ。
軍勢が追いついたのを確認すると、衛はまた、スケボーに乗り地を蹴って遥か先へ行く。
それを見て航は、近くにいて荷駄馬の手綱を握っている鈴凛に、
「あのスケボー、量産できないかな?」と訊いた。
「うん、できるかも。自転車は、タイヤやチューブの材料になるゴムが作れないから難しいけど、
スケボーのウィールはゴムや樹脂の他に、鉄や粘土もあるから。キックボードなんかも作れるかも」
「そうか……。ま、今は武器が優先だけど、そういった移動手段もそのうち作った方がいいかな」
航はそう言ってから、しかし一つの軍団が揃ってスケボーやキックボードで進軍する光景は相当マヌケだ、
と思った。

山陰道を南東に進むうちに、あたりが大分暗くなってくる。
途中、何度か小休止はとったものの、馬上の航はもはや疲労困憊だ。特に大腿などは、
後で入念にストレッチしないとまず間違いなく筋肉痛になる。
しかし、徒歩である他の妹たちは(ただし衛は除く)航よりもっと疲れているはずである。
この辺で、また軍の足が止まる。今度は小休止でなく、ここで野営のようだ。
>しかし一つの軍団が揃ってスケボーやキックボードで進軍する光景は相当マヌケだ、

だが見てみたい予感・・・
すでに日は沈み、あたりは大分暗くなっている。
あたりでは、足軽たちが道端や林で、小屋掛けを行っている。
戦場では柵に転用されるであろう木材を使ったテント状のものもあれば、生えている木の枝に
布をひっかけるだけのものもある。
航たちは、自分たちもこんなところで寝なきゃいけないのか、そういえばこの時代に来てから
野宿するのは初めてだ、と頭が痛くなりながらあたりをキョロキョロと見回していると、
どこからか中澤治部大夫がやって来た。
「あ、中澤さん。僕たちはどこで寝れば……」
「上様がお呼びです。そこの神社に集まっているので……」
と、すぐそこの麓に見える石製の鳥居を指差す。
中澤治部大夫の話によると、直正や一門衆たちはその神社を借りて寝泊まりするらしい。
航たち7人もそこに泊めてもらえるとのことだ。
その他の諸豪族たちはというと、もちろん兵と野営する者もいるものの、残りはあたりの村などで
屋根のある所を探して借りるようである。いくら敵陣と離れており夜襲を受ける可能性が小さいとはいえ、
自分の軍から離れて屋根の下でのうのうとお休みとはこの先心配だ、と航は、屋根のある神社で寝泊まり
できる安堵感の一方でそう思った。

鳥居をくぐる。
境内にはかがり火がいつくか焚かれ、警護の兵もちらほらと見える。
てっきり社殿に泊まっているのかと思っていたがそうではなく、裏手の方にある
小屋か住居のようなところに案内された。
中に入る。直正・幸家・忠家、他数人が地図を囲んでいる。
今後の戦略を練っているのであろうが、他家の者を入れていないので軍議ではない。
地図を囲む輪の欠けたところに中澤治部大夫と航が入り、妹たちは後ろで控える形となった。
何気なく、輪を見回す。よく見ると、子どもが一人混じっている。
どこかで見た顔だ。思い出そうとしたところで、直正が口を開いた。
「今回の合戦は、直義の初陣となる」として、航の方を、いやその後ろの方を見やる。
ともかくこの子どもは、確かに黒井の城下で何度か遊んでやった赤井直義である。
前に見た時は気の強いクソガキという印象であったが、初陣の緊張からか、今日の直義はいくらか青い顔
で黙ってうつむいている。
まあ、数え九歳、満年齢では7歳か8歳であるから無理はない。むしろ、そんな年齢でもう
合戦に連れてくるということに、なにか奇異なものを感じた。

直正の方に視線を戻すと、直正はこちらを、いやこちらの後ろに鋭い眼光を向けている。
そして唐突に、
「ところで春歌殿と申したな……」
と直正は春歌に話を振った。
「はっ」
と、壁のところでで正座していた春歌が一歩前に出る。
「春歌よ。先の合戦での働きは、よく聞いておる。ところでそちは、兄を守るために
武道を始めたと聞いたが……」
「はい……。ワタクシがドイツに居りました頃……」
春歌が、武道を始めるようになったいきさつを語り始める。
満座の視線が、春歌に集まる。
「ワタクシは、祖母のもとで育てられていたのですけれど、お祖母様からはよく、
『今は外国にいるけれど、春歌は日本の娘なんだから、日本の心を忘れてはいけませんよ』
って、言われておりました。それから、『日本の婦女子は、背の君の大事にお仕えする
ために、いざという時には鋼のように強くなれなくてはいけない』って。そこで、
小さい頃から、剣道・薙刀・合気道から、舞踊・茶道・華道と、色々な御稽古ごとを
してまいりました」
それから春歌は、小さい頃は臆病で弱虫だったこと、異国の地で友と呼べる者もなく
過ごす中、日本に兄がいることを祖母から聞かされて嬉しかったこと、それからは
まだ見ぬ兄の存在を心の支えにするようになったこと、そこまで語った上で、
「ワタクシ、いつまでも兄君さまにお仕えして、兄君さまをお護りいたしますわ。ぽっ」
と、そのライフヒストリー話を締めくくった。ちなみに春歌の「ぽっ」は、口に出して発音
するもので、さらに赤らめた頬を両手でおさえるアクション付きである。

この話を聞いた戦国時代人がどんな反応を示したのか知るため、航は恐る恐る顔を上げた。
赤井幸家はというと、口を半開きにして、額にうっすらと汗を浮かべたまま固まっていた。
幸家の細い目からは、外から目の表情を読み取ることはできないが、しかしこれも、呆気に取られた
ような色を浮かべているはずである。早い話が、予想通りの反応だ。
と同時に、この状況で満座のさらし者となっているのは春歌一人ではなく、いつまでも
お護りすると言われた自分も含まれているのだということに気付いて、航は思わず顔を赤くした。
ともかくそのまま、視線を横に動かす。直正はというと、
「!!」
航は、つい「のうわ!」と声をあげそうになってしまった。
直正が、普段は鋭い眼光を放つ目を心なしか潤ませ、力強く頷いているではないか。
ここで、直正がおもむろに口を開いた。
336無名武将@お腹せっぷく:03/12/06 08:49
晒しage
続編きぼーん
キモイのが約一名。
339無名武将@お腹せっぷく:03/12/06 19:23
この板はキモイ人達で出来ています

一名なんてとんでもない!
キモい成分99.99%ほとんど純キモといっていいでしょう。
341無名武将@お腹せっぷく:03/12/06 20:17
残りの成分は優しさだな!?
>>341
愛ですよ。
>>25
実験握ってどうするよ。
「うむ。春歌殿こそ、真の大和撫子じゃ」
と言って立ちあがり、春歌の手を取る。
「そんな……お恥ずかしゅうございますわ」
春歌がまた、頬を赤らめる。
ここで直正は、表情を引き締めた上で、春歌の横に腰を下ろした。
「その春歌殿を見込んでお願いする。今度の合戦、直義についてやってくれぬか」
「えっ……」
春歌の表情から、笑みが消える。
「春歌殿が、航殿を護ることを使命としているのは、十分承知じゃ。しかし、
今度の合戦には赤井家の命運がかかっておる……」

直正が春歌を説得している横で、航は話を聞きながらも視線を赤井家の他の面々に向けていた。
忠家・直義はただ黙って座っているだけだが、幸家は何か言いたそうな、ちょっと右手を前に
出して腰を一瞬浮かせるが、すぐ引っ込めるといった動きを見せている。
「あの、赤井さ……刑部少輔さん。なにか?」
と、声をかけてみた。
「あ、いや、わしとしては……」
とまで言った後、口篭もる。話す内容がまとまらないというよりは、判断に困っているようではある。
横ではまだ、直正と春歌が話し中だ。
航が視線をやると、春歌が困ったような目でこちらを見てきた。
ここで、考える。春歌なしで戦場に出るのは少々心細いものがある。一方の春歌は、
嫡子・直義の護衛というが、九歳の子どもをあまり前線に出すことはないだろうから、
そちらの方が逆に安全だろう。考えはまとまった。
「わかりました。では私と妹たちで、直義様につきます。これでどうでしょうか」
と航は、直正の方に向き直って言い、春歌には、
「どうだ、春歌。これなら大丈夫だろう」と言葉をかけた。
「うむ、そうしてくれるか」
と、直正が満足そうに頷く。
そこから少し離れたところでは、航の話を聞いて幸家が困った表情を浮かべているが、
航たちの視界にはそれは入ってこなかった。
小説ではなく妄想です。
346無名武将@お腹せっぷく:03/12/09 15:06
オナニーだからしょうがないよ
キーボード打ちながらオナニーしてるのですか?
「話がまとまったので、わしは兵のところに戻る」
と、直正が立ち上がる。どうやらこの家屋には直義を泊めるだけで、自身は兵と寝食をともにするつもりらしい。
それを見送るために航たちも腰を上げる。
しかしここで、
「お待ちくだされ!」
と幸家が血相を変えた。慌てて立ち上がり、直正を止める
「殿は……今晩はここでゆっくりと休む。そう決めたはずです。兵のところには、拙者が行きます」
「しかし、いくら敵陣から離れているとはいえ、夜襲の心配がある。明智の軍勢はここから遠いが、
氷上城の波多野宗長が背くやもしれぬ。そうしたら、急いで黒井に戻らねばならぬ」
「明智方には斥候を出しております。今のところ動きはありませぬ。黒井には、しばらく持ちこたえられる
だけの兵は残してありますし、波多野宗長も自分の首を締めるような真似はしますまい。であるから、
殿はゆっくりと休むことです」
「兵を夜風にさらし、わしだけがこんなところで休むわけにはいくまい」
直正は退く様子を見せない。話しながら縁側に出て、草履を履く用意をしている。
「今のうちに休んでおかぬと、いざ戦場で戦えなくなってしまいますぞ、"兄上"」
「……!」
この幸家の言葉で、直正の動きが止まった。
直正は、しばらく押し黙った後、
「……仕方ない」
と呟いてから草履をもとの場所に戻し、また部屋に戻った。
幸家は普段、兄・直正を「殿」と呼んでいる。「兄上」と呼んだのは、航の知る限りでは初めてであった。

直正は部屋に戻ったが、引き止めるため縁側に出ていた幸家は、そのまま草履を履き、出る用意をしている。
幸家は兵とともに野営し、夜襲に備えるのである。用意ができると振り返って、
「ところで海神殿。少し話があるのだが、出てくれぬか」
と呼びかけた。
「は、はい」
航と、春歌が即座に縁側に出る。なぜか鈴凛も、それに続いた。
すっかり暗くなった境内を歩きながら、幸家が口を開く。
「航殿と春歌殿が直義様につくとは……。直義様のためにはそれで良かったのであろうが、
しかし拙者としては、鈴凛殿の投石機と共同作戦を取るつもりであった。その辺は困ったことになった」
「あ、それですか。前の合戦では自由に動けましたけど、今回直義……様につくと、
確かに動かしにくくなりますね。どうしましょうか」
「ふむ……」
と言ってから、顔を上げ、西の空を眺める。山の稜線が、まだ微妙に赤い。
ここで鈴凛が、「ね、アニキ」と耳打ちした。
(今度の合戦用に作った大量の榴散弾、幸家さんのところで、材料も借りて作ったの、アニキも知ってるでしょ)
(あ、そういえばそうだった)
(私は幸家さんのところにつかないと。少なくとも、投石機を貸すかしないとまずいんじゃないかな。
そうすれば、アニキも春歌ちゃんと一緒に直義くん守るだけで良くなるし)
(そ、そうだね。そうしてくれ)
話がまとまったので、航が申し出る。決め手は、自分が動かなくても良くなることだ。
「それじゃ……今度の合戦では、鈴凛と投石機だけ切り離して、幸家さんの指揮下に入れて
ください。その方がいいでしょう」
「そうしてくれるか。すまない。では、投石機を入れて作戦を考えておく。それと、
投石機の扱い方を知っている者が鈴凛殿以外にいれば、それも貸してくれないか」
「あ、はい……。足軽に何人かいるのでそれも鈴凛につけます」
「すまない。ではこちらは代わりに、兵法(ひょうほう)に秀でた兵を何人か回そう」
「いいんですか?」
「ああ。どのみち今度の合戦は、撃ち合いで決まるはずだ……。一番手柄は、鈴凛殿の
ものになるかもな。それでは、よろしく頼む」
そう言い残すと、幸家は参道の方に戻り、野営地に戻って行った。
それを途中まで見送ってから、航たちも宿舎である小屋に戻った。
入れ替わるように、忠家たち他の面々が出ていく。彼らも、一応は兵と寝食をともにするようだ。
直正と直義は、さっきまで軍議をしていた間から襖一つ隔てた隣の部屋に移るところだった。
開いている襖から、直正父子の寝室の様子が一瞬見える。枕元のあたりに、厳重そうに和ぎれに包まれた箱。
父子が隣室に入ると、襖が閉まった。
350無名武将@お腹せっぷく:03/12/12 02:35
>>349
プヒャ乙
いい年こいて妄想にふけるとは、乙なもんだ。
第2章 八上城攻防戦 (ここら辺で章分け導入。それにしても長い第一章だった)

決戦の日の朝。
まだ空は暗く、朝もやが立ち込める。そんな中で、兵の展開はすでに始まっている。
夜が明ける前に陣形を整え、夜明けと同時に攻撃を開始する算段である。
白昼に展開するのと違い、直前まで陣形を敵に読み取られない。と同時に、戦闘時間を長く取ることもできる。

航・春歌たちのいる赤井直義隊は本陣近く、鈴凛らのいる赤井幸家隊は右翼に展開している。
赤井幸家隊では、すでに位置につき、投石機の組み立てを始めていた。
早朝の、冷たい、肺のあたりが引き締まるような空気の中、鈴凛は足軽たちに投石機と榴散弾の使用法を説明している。
今回用いる榴散弾は、木の中をくり貫いて黒色火薬をつめた信管を点火用に挿し込むもので、操作を間違うと危険である。
日本では、榴弾自体は以前から使われていたが、これらは小規模の手投げ弾であり、文禄・慶長の役あたりからようやく、
手投げに加え木のたわみを利用するという、いわば初歩的な投石機の導入が行われている。
その文禄・慶長の役で日本軍は、明・李朝連合軍の大砲に苦しめられた。小銃の装備では勝っていた日本軍も、
大砲の装備では劣っており、その大砲で用いる弾丸も鉄の塊である無垢弾に過ぎなかった。その一方、
明・李朝軍は大砲の弾に榴弾の類を使っていた。
日本で、榴弾の発射に大砲を用いるようになったのは、大塩平八郎の乱からである。

鈴凛は、投石機と榴散弾の使用法の説明を終えると、打ち合わせのため、一旦幸家のところに戻ろうとした。
途中、奇妙な集団にすれ違う。
人数は百数十人。そのうち半数が、火縄銃を装備している。
前日に合流した、幸家が呼び寄せたという集団である。
353誘導:03/12/14 23:35
ゲームサロン板
http://game4.2ch.net/gsaloon/

ギャルゲー板
http://game4.2ch.net/gal/

創作文芸
http://book.2ch.net/bun/
「よ、娘さん」と気軽に声をかけてくるので、鈴凛もそれに答える。
どうやら、野営地を出たばかりで、所定地に向かうところのようである。
彼らの多くは徒歩の鉄砲足軽であるが、しかし軽装の足軽スタイルではなく、重装備の鎧武者も多く見える。
ほぼ全員が、陣笠でも鎧武者が被るような装飾の多い兜でもなく、薄鉄で作られた二枚板の特殊な形状をした
前立てのない兜を被っている。みな、他ではあまり見ないような兜であるが、その中でも、
ウルトラ怪獣でいえばバルダック星人のように頭が膨れ上がっている物、角のような小さいリベット
を付けた物など、いくつかのタイプがある。
全体としては、装飾の少ない見るからに実用的な鉢にしころを付けた物が多いが、しかし中には
しころの無い、鉢だけの物も見える。

鈴凛は、彼らの旗指物を見上げると、昨日彼らが合流してきた際に航が言った言葉を思い出した。
「JFA(日本サッカー協会)のマークみたい」
それが、兄の言葉だった。
三本足のカラス。確かに、サッカー日本代表が付けているマークに似ている。ただし、
JFAのマークと違って、サッカーボールを踏んづけていたりはしない。
これは八咫烏といい、雑賀衆の象徴であると同時に、JFAのマークでもある。
すなわちここで鈴凛とすれ違った連中は、雑賀衆ということになる。
そして、彼らの被る珍しい兜は、雑賀鉢である。
鈴凛は、雑賀衆から離れると、幸家の陣所に入った。
すでに陣幕は一旦取り外され、これから前線に移動するところである。
「あ、鈴凛殿」
幸家の方が先に気付き、声をかけてきた。兜を被るためか、髷をほどいている。
「おはようございます。点検も異常なし、準備も完了しました」
「そうか。では、もう少ししたら我々も移動する」
幸家はそう言うと、床几から腰を上げ、従者の用意した兜を被った。
幸家の兜は、普通の、前立てが付き、しころの端を鮮やかな吹返にした兜である。
これを見て鈴凛は、先ほどの雑賀衆の兜を思い出した。
「そういえば、さっきすれ違った集団、変わった兜を被ってましたね……」
「ああ。雑賀衆か。あれは、雑賀鉢といって、銃弾を跳ね返すのにいいらしい。
あれも、雑賀の鍛冶の賜物じゃ」
兜の紐を結びながら、幸家が答える。
「そうなのですか。面白いですね」
「雑賀衆といえば、刀も面白いぞ。蛤刃といって、凄まじく肉厚じゃ」
「へえ」
「では、そろそろ参ろう」
鎧を着終えた幸家は、従者の引いてきた馬に乗ると、号令をかけた上で進発した。
鈴凛も、幸家の馬と並ぶ形で歩く。
左側の遠くに、篠山川の流れを見ながら進む。
少しして、投石機のところに戻る。ここが、赤井幸家隊の位置である。
見回すと、投石機や榴散弾の操作法を教えていた時にはなかった陣幕が、すでに張られて
陣所が設けられている。
その陣所から少し前に出たところに、八咫烏の指物とともに、雑賀衆が展開していた。
こちらに気付いたのか、雑賀衆の一人が歩み寄ってくる。
先ほど、「よ、娘さん」と気軽に声をかけてきた男である。
鈴凛は、自分に声をかけに来たのかと思い、一歩前に出ようとした。
356無名武将@お腹せっぷく:03/12/17 02:10
>>335
読んでないが乙
すると、横というか後でドタバタと音がして、急いで下馬した幸家が鈴凛を追い抜いていく。
幸家は、雑賀の男の手を取ると、頭を下げながら、
「おいで下さり、有難く存じまする。御助力を得られて、我々としましては百万の味方を……」
と、かなり腰を低くして礼を言っている。
それを見て鈴凛は、思わぬ展開に少々唖然とした。彼らを呼び寄せたのは幸家だということは
知っていたが、せいぜい金で雇われた野武士集団かなにかだろうと思っていた。
しかしどうも、そのようなものではなかったらしい。
少し話をして、雑賀の部隊長は、「それでは、最善は尽くす」と言い残して部隊に戻っていく。
幸家は、ただでさえ蒸す兜の下の額に汗を浮かべながら、それを見送った。
雑賀部隊長が、一瞬振り返って鈴凛の方に軽く手をあげて笑いかけ、また前を向く。
一方の幸家も、とりあえず機嫌を損ねなかったことに安堵したのか、ほっとしたような
ため息をつくと陣所に戻っていった。
鈴凛としては、彼らがどんな存在なのか、過去にどんなことがあったのか非常に気になった。
しかし、陣所に戻る幸家の背中が、それを訊くことを、立ち入ることをためらわせた。

彼ら雑賀衆と信長との対立は、1570年からの石山合戦に始まる。
この年7月、三好三人衆が挙兵。野田・福島城に拠り、信長に対抗する構えを見せた。
信長は、これを討つべく兵を出すが、ここで本願寺法主・本願寺顕如が三好三人衆と結び、
各地の門徒に檄を飛ばし、信長打倒の号令をかけた。
一部の雑賀衆は本願寺決起前の段階ですでに三好勢に味方していたが、決起以降、
多くが門徒である雑賀衆は本願寺のもとに参じ、信長との全面戦争を繰り広げることとなる。
そしてこの一向一揆は、石山にとどまらず、伊勢長島・近江・朝倉滅亡後の織田領越前へと拡大した。
さて問題は、赤井家と雑賀衆との関係である。
赤井家を含む丹波国人衆は、1568年の足利義昭を掲げた信長の上洛に際し、
一旦これに服従している。これにより、赤井家は所領安堵された。
1570年の石山合戦に際しても、赤井家と信長との関係は変わらなかった。
関係が悪化したのは、1573年に将軍・義昭が信長に対抗して挙兵して敗れ、京都を追放されて以降である。
それ以前から義昭は、本願寺や浅井・朝倉・武田などと通じ、「信長包囲網」結成を
謀っていたのであるが、この義昭京都追放をもってようやく、赤井家は反信長に転じた。
反・信長勢力と結び、挙兵上洛の姿勢も見せた赤井家。
丹波守護代の内藤氏もこれに続き、義昭に味方するに至った。

さて問題は、一向宗決起の1570年から1573年までの3年間である。
信長と一向宗の全面戦争が行われていたこの間、赤井家は織田家と良好な関係を保っている。
赤井家と一向宗との関係については史料がない。
しかし丹波・丹後両国の守護で、丹後をおさえていた一色家などは、やはり信長と結んでいた
時期に、越前一向一揆鎮圧のため船団を派遣している。
であれば、赤井家もまた、信長と結んでいた時期には、一揆鎮圧の助勢や、領内の一向宗
禁圧を行っていたと考えることができる。

幸家が雑賀の部隊長に対し平身低頭の姿勢で応じていたのも、そのような経緯がありながら、
この期に及んで力を借りねばならないゆえかもしれない。
しかし歴史にあまり詳しくない鈴凛は、そこまで思い至ることはせず、ただ幸家の背中を眺めることしかできなかった。
360無名武将@お腹せっぷく:03/12/18 07:52
ここのオナニーも長いね
チェスと将棋を比較してゆくと、
欧米企業(チェス)と日本企業(将棋)の特徴の違いがよくわかります。
その土地で生まれ育ったものは、その土地の人がもつ何かを表現しているからです。
チェスの駒の種類は、キング、ルーク、ビショップ、クイーン、ナイト、ポーンと
6つです。将棋は王、飛車角、金銀、香桂、歩と8つあります。
日本の方が多いですね。升目もチェスは縦横8つですが、将棋は9つで一つ多いです。
駒の種類、升目の数が多くなるほど戦略、戦術の自由度は増え、
ゲームの複雑性が増します。指し手に高度知能を要求します。
また、取った敵駒の扱いですが、チェスは自軍の駒として再活用できませんが、
将棋はできます。
羽生善治さんは、余談ですが、
女性棋士は男性棋士と比べて取った駒を使いたがらない、
貯金したがるといっています。面白い話です。
以上を勘案して、戦略、戦術の緻密さ、人材活用の多様性において
日本企業は欧米企業を凌ぐと私は思っています。
文才があると思ってるんだろうね。ヲタはこれだからw
夜が、明けた。西の空まで、晴天の青さが広がる。
南から北へと流れる奥谷川を挟んで、両軍が対峙する。
明智勢一万、赤井勢五千。
南には、丹波富士とも呼ばれ八上城のある高城城がそびえ、さの左右にも小山が連なっている。
南北に走る奥谷川を前方に、東西に流れる篠山川を左手に見る。
だいたいこの周辺は、山に囲まれた盆地であり、民家も多く、奥谷川の向こうには城下町もある。
もっとも、明智光秀の包囲により、城下町も大分人が少なくなっているはずである。
川の向こう側には、土塁が築かれている。その向こうに明智勢は控えているようで、
旗指物が風になびくのが、土塁越しに見える。
その土塁の向こうにも、柵が用意されているというのが、斥候からの報告である。
これら、赤井勢を防ぐための野戦築城とは別に、八上城に篭る波多野勢に備えるための
堀や塀や柵が、丹波富士を囲むように用意されている。
篭城戦はまだ始まったばかりであり、波多野勢もまだまだ意気盛んだ。
明智勢としては、挟み撃ちにならないよう、そちらの方にも兵を割かねばならない。

左翼に赤井忠家、中心に赤井直正、右翼に赤井幸家と投石機を配した横陣が、ゆっくりと前進する。
364無名武将@お腹せっぷく:03/12/19 01:47
萌え
みんな縦読みしてるでしょ。
面白いから良し。
木板や竹束で作った盾を掲げての前進。
竹束の盾は、鉄砲玉を防ぐのに良い。これらの盾は、雑人に持たせる場合もあれば、
足軽が自ら持つ場合もある。しかし、士分の者はあまり持たない。
これらは、土塁や塀などの野戦築城には負けるが、それなりに使える装備である。
右翼に見えるひときわ高い盾は、投石機のための盾だ。

距離約300メートル。
この辺で、敵の鉄砲足軽が動きはじめる。土塁の上に現れ、一発撃っては隠れる。
幸家麾下の鉄砲足軽が、反撃のための装填を行おうとしたが、幸家は手で制した。
鉄砲の弾は、飛距離だけなら何百メートルも飛ぶ。
だが、殺傷力を発揮するのはせいぜい100メートルくらいからである。
狙って当てられるのは60メートルがいいところ、ともいわれ、熟練の鉄砲放などは、
十間(約18メートル)まで引きつけてから撃つという。
すなわち、このくらいの距離での射撃は、威嚇としての意味しかない。
鈴凛は、投石機の後ろに隠れる形でいるが、一応念のため、いつも額にかけている
ゴーグルを下ろし、装着した。

距離、約150メートル。
この辺で、厳しくなってくる。
幸家は、鉄砲足軽に射撃命令を下した。命を受け、装填作業を始める。
鈴凛は、投石機の陰からちょっと顔を出して、雑賀勢の方を見た。
雑賀勢に、まだ動きはない。いや、部隊長と、その隣にいる男だけが、
装填作業を行っている。
「強薬」
そんな声が聞こえた。
川向こうの土塁の上に、また明智勢の鉄砲足軽が現れる。
すると、部隊長とその隣、2人の雑賀衆が、竹束の陰から飛び出して、いくらか前に出たところで、
引き鉄を引いた。
轟音と、硝煙。
土塁の上の数人の鉄砲足軽のうち、一人が撃たないうちにまた土塁の陰に隠れ、というか転げ落ち、
一人は前に倒れて飛沫とともに川の中に落ちた。
二人の雑賀衆は、撃ったと同時に、弾の行方を確認することなく、振り返って飛び退き、
また竹束の後ろに隠れた。

二人撃ち倒されたことで、敵陣からの銃声が鈍る。
さて、強薬とは、通常よりも多目の火薬を用いることをいう。銃身の強度がその爆発力に耐えられないと
銃身破裂などの暴発を引き起こすので、強度の高い銃身と、火薬の限界量を見極める
射手の熟練との、両方が要求された。
少し距離を伸ばすくらいならともかく、これほどの距離で命中させ殺傷するには、
銃の性能とも射手とも、かなり高度なもの必要だ。

一旦、進軍の足が鈍る。
もう少しで、鉄砲の通常射撃でも殺傷可能圏内に入る。
伝令が、投石機に陰に隠れている鈴凛のもとに来た。届くかどうか試しに撃ってみよとの命令。
鈴凛は、直属の足軽に命じ、発射の用意をさせた。試しであるから、その辺にあった大きな石をセットする。
軸木の端を機関部にはめ、レバーを上げて固定。
その上で、機関部にあるハンドルを回して、軸木をしならせる。
ハンドルの横には10段階の目盛りがあり、これで飛距離をコントロールすることができる。
足軽は、ハンドルを10までのつもりで回し始めたが、鈴凛はそれを8のところで止めさせた。
これも強薬と同じで、あまり力を入れると部品の消耗が激しくなる。
レバーが下げられ、風を切る音とともに軸木が立ちあがり、大石を投げ飛ばす。
石は、大きな弧を描くと、川向こうの土塁の上ではね、手前に跳ね返り大きな水飛沫を
巻き上げて着水した。
369 :03/12/20 01:58
370アイディアパパ倉木:03/12/20 02:04
そういや
アンパンマンのキャラにナンカヘンダーってやつがいるけど
食い物関係ないな
そうですな。あと、今日は咲耶の誕生日みたいです。
おめでとう!
誰?
>>372
妹の一人。
飛ばした石の着水から間もなく、幸家からの前進命令が下る。
敵陣まで届かせるには、もう少し前に出ろとのことである。
もう少し前に出ると鉄砲の殺傷可能圏内であるが、仕方がない。
敵味方双方からの銃声がさらに激しくなり、弓の弦の音も混じってくる。
投石機を何メートルか前に出したところで、鈴凛は再び投撃命令を出した。
今度は、榴散弾をセットする。
ハンドルを回し終わったところで、信管に着火。
鈴凛製の榴散弾に使われる信管は、木の中をくり貫いて黒色火薬をつめた原始的な物であり、
爆発時期の調節はできない。着火する時間を調整するしかない。
文禄・慶長の役では、明・李朝軍が破裂弾「震天雷」用の信管に、ネジ式の導火管で爆発時期を
容易に調節できる洩火信管を用いているから(奥村正二著『火縄銃から黒船まで』岩波新書)、
この榴散弾はその点劣っていることになる。

木のしなる音、風を切る音。
勢いよく鈴凛特性の榴散弾が、弧を描いて飛び出す。
土塁を越えた。爆発音。火花が、土塁越しに見える。
断続的に続いていた銃撃のうち、榴散弾が着弾した地点からのものが、途切れる。
続けて、2発の投撃を命じた。
たちどころに二筋の炎が、土塁の向こうに上がる。
この榴散弾に使われる火薬は、ただの黒色火薬ではない。1円玉を削ってつくった
アルミニウム紛や、独自に調合したリン系化合物などを使用しており、威力が高い。
三発続けて撃ち込んだため、敵の銃撃のうち、赤井幸家隊の前のラインだけが沈黙した。
駄文だな
376無名武将@お腹せっぷく:03/12/23 13:57
>375
今ごろ気づいたの?
377無名武将@お腹せっぷく:03/12/23 14:16
そもそも赤井幸家は直正の甥だったのでは?
>>377
その辺が難しいところで……。
ネットで調べたところ、直正が次男で幸家が三男となっているのが多いようなので、
ここではその設定を採用しました。
ちなみに直正死後の後継者も、ネットだと直義が後を継いで幸家が後見になったというのが多数で、
一方、高柳光寿氏などは著書『明智光秀』で時家としており、
『信長公記』や『細川家記』だと黒井城落城時まで悪右衛門(直正)が生きてることになってたり……。
一応ここでは、当主・直正、弟・幸家、甥・忠家、子・直義という設定となっております。

敵役の光秀なんかだと、親の名前や素性すら諸説あるようで、その点三國志と違い
『正史』のような存在のない戦国は難しいところです。
銃撃が沈黙したのを見て、
長柄の足軽たちが勢い良く飛び出した。
土塁を越えての攻撃ではない。それは、幸家がまだ許していない。
ザブザブと音をたて、足軽たちが川に突入する。
目指すのは、川に浮かんでいる敵の死体である。全部で3体。
一体は、雑賀衆の強薬で撃たれた鉄砲放。一体は、やはり銃撃で撃ち倒され、もう一体は、
矢を射るため土塁の上に出たところを、背中に榴散弾を食らって思わず川に転落した弓兵である。
皆、すでに死に絶えている。弓兵などは川に落ちた時点でまだ息はあったが、
遮る物のない中で銃撃を何発も食らい、絶命した。

足軽たちがこれらの死体に群がるのは、首を取るためである。
一軍の中で一番最初の首を取るのは、「一番首」(甲州流軍学の『信玄全集末書』では、「先登」と呼ぶ)
といって、一番鑓と並び第一の功名とされる。
銃撃で死んだ者の首であるから、冷え首、死に首であるが、一番首は縁起なのでそれでも評価せねばならない。
基本的に一番首は、首のランクは関係なく評価される。
なお、銃弾や矢が飛び交う中で敵に切りつけることを「場中の勝負」といい、これだけでも功名となるが、
死に首でも場中で取ってくればやはり功名となり、生きている敵を討って首を取ってくれば、
これはもう「場中の高名」であり、さらに高い功名となる。
今度の場合は、敵からの銃撃は止んでいるので「場中の勝負」にはならない。
(鈴木眞哉著『刀と首取り』平凡社新書より)

さて、今眼前で展開されている首の取り合いには、そのような背景があるのである。
今回は指揮官の眼前であるから心配はないが、こういうものは場合によっては同士討ちに発展することさえある。
ラグビーのような修羅場から、一人の足軽が首を抱えて脱け出し、陣に向かって駆けてくる。
首は全部で三つあるから、他の首を獲った者がそれを追う。首を取れなかった者も続く。
何をもって「一番」とするかは陣に戻り報告した順である。
つまり、首を持った者のうち一番に駆け込んだ者が、一番首となるのだ。
幸家の前には、けっきょく最初に脱け出した足軽が駆けこんできた。
簡単な首実検を終え、一番首を取った足軽の名を祐筆に記録される。
それからまた、戦闘配置についた。
土塁の向こうにあまり動きはない。
鈴凛は、幸家に近寄って訊ねた。
「あの……敵軍いなくなってるみたいですけど、今が攻め込むいい機会じゃないんですか?」
幸家が、首を横に振る。
「土塁の裏にはあまりいないだろうが、斥候の報告で、土塁の向こうにさらに柵が巡らされている
ことがわかっている。さらに、土塁が積んであるということは、土を掘り出した所が堀になっているはずだ。
今行っても、土塁の上に上がったところを、柵の内側から狙い撃たれるだろうな」
「そうですか……。この前みたいな形には中々ならないんですね」
この前の合戦とは、黒井城西南での脇坂安治との一戦である。
「この前のは特別だ。すぐに決着をつけねばならなかった。普通は、特に織田の連中は、
塀や柵、堀を念入りに構えおるからな」

織田軍が野戦築城で勝利を収めた合戦としては、長篠の戦いが知られている。
よくいわれる鉄砲三段撃ちは現在では否定されているが、一般に「馬防柵」といわれる
柵をはじめとする野戦築城が勝因となったのは確かである。
しかしあの合戦では、武田軍の側もまた、勝頼の本陣が拠っていた連吾川東岸の丘陵上に
野戦築城を行っている。
そうすると、真に勝敗を分けたのは勝頼の側から動かざるをえなくした鳶ノ巣山攻撃ということに
なるのであろうが、ともかく長篠以降、織田家諸将はさらに野戦築城を重視するようになったという。

川向こうの土塁の上の空を見据える。奥谷川の風が、鈴凛の髪をかきあげる。
今のところ、敵陣に動きは見られない。
後方で、不意に馬蹄の音。
使番であることを示す旗指物。本陣からの伝令であろうか。
幸家と伝令が話すのを、横目で見る。
伝令が去ると、幸家は手をあげて鈴凛を呼び寄せた。
「本陣前までの移動だ。ここには抑えだけを置く。殿も、攻めあぐんでいるようじゃ」
鈴凛を呼び寄せたのは、投石機を使うためである。元々、幸家隊としては渡河しての
敵陣への攻撃を行うつもりはあまりなかった。
投石機を借りる代わりに兵法達者を赤井直義隊に付けており、また鉄砲放の割合も他隊より多い。
やはり、川を渡り、土塁を越え、敵陣を衝くのは直正隊ということになる。

足軽や雑人が綱を引き、あるいは後ろから押し、投石機を移動させる。
特に指示を出したわけではないが、雑賀衆もそれに続く。
奥谷川に沿って北上。
直正のいる本隊が見えてくる。敵の攻撃に苦しんでいるようで、銃や矢、石などで負傷している者も多く見える。
投石機を敵陣の方に真っ直ぐ向け、土塁越しに榴散弾を撃ち込む。
雑賀隊もまた、銃撃を浴びせる。
敵陣からの銃弾や矢は止んだが、しかし石礫は依然として飛んでくる。
これは、手で投げたり、スリングを使うなどして飛ばしたものだ。
銃撃および投撃のかたわら、本隊によって、渡河攻撃の用意が進む。

直正が、采配を右手に、前に出てきた。大きな厳しい目で、あたりを見回す。
雑賀衆も、戦闘態勢にありながらも威儀を正すのがわかった。
采配を、振り下ろす。
それを合図に、押し太鼓が鳴り響く。
鬨の声が上がり、長柄足軽が、それに続いて弓足軽が、あるいは水飛沫を上げながら、
あるいは板で作られた即席の舟や橋に乗り、一気に攻めかかった。
川沿いに築かれた土塁を、乗り越え、また突き崩しながら突破する。
奥から、銃撃の音。土塁の向こうにも柵が築かれており、そこから撃っているのだろうか。
しかし銃撃の音はそれほど多くないから、敵の鉄砲放が意外に少ないことがわかる。
先ほどの榴散弾や雑賀衆の銃撃で、かなり負傷したためであろうか。

もちろん足軽だけでなく、士分の者たちも、雑人とともに鑓を持って突っ込む。
川と土塁越しでは十分な指揮を取れないためか、直正自身も鑓を取り、馬廻り衆とともに渡河にかかった。

その後方、赤井直義隊の陣。
父直正が突入したのを見て、直義が「突撃じゃ! 父上に続け!」と騒ぎ、単身で走り出した。
それを、春歌と衛が、急いで追い、抱きかかえて止める。
直義は右手の采配を振り回しているが、それに従う兵はいない。
「直義様、いけません。直義様は、ここで控える約束です」と、春歌がなだめるが、
「しかし、父上が……父上が……。拙者も戦って、父上を守らねばならんのだ! 離せ!」
と言ってきかず、必死に春歌の手を振り解こうとする。直義の幼い双眸からは、いつの間に涙が流れていた。
「春歌!離すのじゃ!」「駄目です。春歌は、直義さまをお護りするよう、仰せつかっております」
「無用じゃ! わしなど守らんでいい! 守るなら、父上を守るのじゃ!」と問答が続く。
春歌は、直義の言葉に、ようやくなだめる策を思い出した。
「それでは……この春歌が、戦場に赴き殿をお守りします。その代わりに、直義さまはここでじっとしていてください」
それを聞くと、直義は暴れるのをやめ、春歌の顔を見上げた。
「本当か……? 本当に、父上を守ってくれるのか……?」
「はい。この春歌が、命をかけてお護りいたします。ですから直義さまも、ここでじっとしていると約束してください」
「うむ。わかった。約束じゃ。父上を守ってくれ。頼むぞ……」
と、直義の潤んだ目が、しかし真っ直ぐに、春歌を見つめる。
春歌は優しくうなずくと、長柄足軽の半分と衛を従え、敵陣めがけて駆け出した。
>382
いぃ!!トン汁でも召し上がれ!^^
テンポ良くなったなあ
川を越え、崩された土塁を越え、敵陣に突入する。備えの柵も、すでに味方が突破済みだ。
采配代わりの鑓を振り回しながら大声で指示を出す直正を横目に見る。
その直正目掛け、突っ込んでくる一団。春歌と足軽たちは、その前に回り込み、立ち塞がった。
春歌の薙刀と、敵兵の鑓とが、激しい音と火花を散らして打ち合う。
薙刀が、一人の鑓を叩き落とし、別の一人ののど元を切り裂いた。
仲間の足軽が敵兵を突き伏せている間に、春歌は中央を突破して、部隊長格の男に挑みかかった。
男は、鍬型の前立てを兜につけた当世具足に身を固め、左右に雑人を従えている。鋭い目と無表情な口元の若武者。
男の名は、三宅弥平次。後の明智秀満である。

弥平次は、手で左右の者を制すと自ら手鑓を取り、春歌に打ち掛かった。
鑓を横から力強く叩きつける。春歌が、薙刀を縦に構えて受け止め、防ぐ。
弥平次が、素早く鑓を引っ込め、すぐに刺突を繰り出した。春歌が、地を蹴り素早く後ろに飛んで、かわす。
弥平次はなおも、横打撃、刺突、すくい上げ、と続けるが、春歌は身軽にあるいはかわし、あるいは防ぐ。
「素肌の者(甲冑を着けない者)と甲冑の者が戦えば、素肌の方が有利」。
これは、渡辺幸庵という、宮本武蔵などとも面識のあった武芸に詳しい陰士の言葉である。
まさに春歌は、渡辺幸庵の言葉通り、軽装備の身軽さを活かして弥平次を翻弄していた。

見かねた敵の鉄砲放が、装填を終えた火縄銃を斜め前方から春歌に向ける。
銃声。春歌の斜め前方からではなく、後ろから。斜め前方の鉄砲放が倒れる。
撃ったのは、ようやく渡河してきた雑賀の部隊長だ。撃った火縄銃を仲間の雑賀衆に渡し、
代わりに別の装填済み火縄銃を受け取るが、それで弥平次を狙うような真似はしない。
この一連の動きに、春歌は気付いていなかった。後ろを振り返りもしない。
斜め前方から火縄銃を向けられ、しかしその鉄砲放が倒れたのを微かに意識の片隅で捉えたくらいである。
春歌の視線と全神経は、ただ一点目の前の弥平次に向けられていた。
弥平次の無表情な口が開けられ、息が吸い込まれる。弥平次の身体に気魄が漲る。
それを見て、春歌はさらに集中を高めた。
少し離れた横で、敵の鉄砲放が前進してきているのにも気付かない。
弥平次が、鋭く鑓を上から振り下ろす。
春歌は、薙刀の後端の方でそれを受けると、そのまま鑓に薙刀を当てて滑らせながら前に出て、
弥平次の左手篭手に強烈な斬撃を浴びせた。春歌の手に、堅く重い手応え。
「ぐあ!」と声をあげ、弥平次の左手が離れる。篭手は断ち切られていないが、ダメージは大きい。春歌はそのまま、
右手だけで持たれた鑓をすくい上げる。手から離れた鑓が、春歌の頭上を飛び、後ろの地面に切っ先から突き刺さる。

その時だった。
けたたましい銃声。春歌から離れた横からの銃声。斜め後方での、着弾音。
振り向いた。直正の馬廻り衆が、直正の足元に倒れている。直正もまた、右脇腹と左肩から血を流していた。
しかし直正は、残った馬廻り衆に支えられながらも、なおも大声を出していた。
本陣附けの長柄が、装填中の敵鉄砲隊に向かう。雑賀衆も、銃口をそちらに向ける。
そして春歌もまた、目の前の弥平次を放って、直正を撃った鉄砲隊に向かって走り出した。
春歌の脳裏に、先ほどの直義との約束が蘇る。直義の潤んだ目、涙に揺れる声。
約束を守れなかった悔恨が、もう取り返しのつかないという思いが、春歌の中を駆け巡った。
裂帛の、しかし悲しげな音を伴った気合を発して、薙刀を振り下ろす。
この合戦における、春歌の記憶はここで途切れていた。
夜の帳に包まれた、宿営地の寺。
一室の中で、航や春歌、直義や幸家たちは、床に伏した直正を囲んでいた。
直正は、苦しげな息の中で言葉をしぼり出している。
合戦自体は、光秀不在の明智軍を突き崩し、勝利した。終盤には、八上城に篭る波多野勢も包囲を突破して斬り込み、
勝利に一役買っている。そして直正は、銃弾を受けながらも最後まで立って指揮を続けた。
しかし合戦が終わって寺に引き揚げ、そして今直正は苦しげな呼吸を部屋に響かせている。

「御館様をお護りできず……、申し訳ありません。春歌、この度は腹を切り自害いたします」
と、春歌が泣き崩れる。それを、幸家や直正は、怪訝な顔で見つめた。ただ直義だけは、黙ってうつむいている。
「あの、それはですね……」と航は、春歌と直義の間で交わされた約束を説明した。
苦しげだった直正の顔にわずかに笑みが浮かぶが、しかし春歌はそれに気付かず泣き続けている。
「自害して……お詫びを……介錯は兄君さまに……」
ここで直義が急に立ち上がり、「春歌殿! 死んではいかんぞ。わしが許さん!」と春歌の肩を揺さぶった。
その光景を眺めながら、直正は手で指示を出して中澤治部大夫に箱を持ってこさせた。
初日の宿営地で、直正の部屋にあったのを見かけた、厳重そうに和ぎれに包まれた箱である。
開けると、中から出てきたのは、見事な雌雄一対の貂(テン)の皮であった。
直正が、そのうち雌の皮を春歌に、雄の皮を直義に手渡して言う。
「この貂の皮は我が家の家宝じゃ。これを、春歌殿に授ける。自害などと申さず、これからも直義を頼むぞ」
それを聞いて春歌は、逡巡したが、さらに直正から「頼むぞ」と力強く言われ、
「この春歌、身命にかえましても直義さまをお守りいたします!」とまた泣き崩れた。
それから直正は、黒井の城主を直義とすること、幸家がこれをよく後見することを命じた。
もっとも、赤井家の当主は忠家であり、直正はその後見であったのだから、状況はややこしいことになる。
ともかく直正は、そこまで言い残すと、枕に頭を押し当てて目を閉じた。
一同に緊張が走るが、しかしすぐに寝息が聞こえてきた。
その日の夜更け。
寺の一室で、航や春歌、衛たちは布団を並べて寝入っていた。
航の口から、かすかにうめきが漏れる。
航は、霧の中のような、暗い水中のような、異次元のような中で、一人の少女を追っていた。
走るたびに、少女の幻影は同じ分だけ遠ざかっていく。まるで月を追っているように。
少女は、紫がかった結った髪をなびかせ、整った顔の中の大きな目で、遠くを眺めるような目で、
こちらを見つめている。その瞳に見つめられると、なにか吸い込まれそうな感覚を覚える。
「兄くん……」と、少女が声を発する。
たちまちその声が、兄くん兄くん兄くん……と、空間の中に翳りのある声が反響する。
千影だ。この少女は、まぎれもなく千影だ。
不意に、距離が縮まる。千影が、手を伸ばす。その手を、掴もうとする。
しかし、指先と指先が触れ合う寸前で、千影は霧のように消えていった。
「兄くん……け……」と、言い残して。
航の耳には、最後の言葉は、「助けて」と聞こえた。

ガバッと、布団を跳ねのけ、飛び起きる。夢が、覚めた。額には汗が浮かんでいる。
航は、妹たちが起きないようゆっくり立ち上がると、静かに障子を開け、夜空を見上げた。
金星が、怪しく輝いている。
同じこの夜空の下、どこかに千影がいる。なぜかそう確信した。
同じように金星を見つめているかどうかまではわからない。
しかし同じこの時代、この夜空の下に千影はいる。
そして、異時代に飛ばされた自分たちが現代に帰るための鍵は、千影が握っている。
根拠はないが、そう確信できた。
航は、この時代のどこかにいる千影を探し出すことを、固く心に誓った。

第1部・終
389無名武将@お腹せっぷく:03/12/31 01:39
第1部・終了乙可憐(出番少ないがv)
『週刊少年ジャンプ』の連載漫画的な意味における第1部・終です。
391無名武将@お腹せっぷく:04/01/01 02:40
このスレが板違いじゃないんだったら、ほとんど板違いはないだろ。三戦板には。
正論かな?
393無名武将@お腹せっぷく:04/01/04 18:36
自分のサイト作ってやれよ。
>>391
そのとおり
395無名武将@お腹せっぷく:04/01/05 13:59
>>393
だよな。こういうスレッドの使い方自体、認められてなかったはずだし
396無名武将@お腹せっぷく:04/01/05 14:05
足引っ張るだけが能じゃないだろ。読んで楽しい住民もいるはずだ。
そんなヤシは、彼が自分のサイト作ってそっちでやっても読みに行くだろ?
398無名武将@お腹せっぷく:04/01/05 14:12
ネタ板でやるネタならば充分だという考え方もある。
文芸やキャラネタに誘導すべきかもしれないという考え方もできる。
(張)衛
千(坂)景(親)(字がちょっと違うが)
花(房職秀と)穂(井田元清)
(吉川元)春(の)歌
(蹴)鞠(と)絵(画を愛する氏真公)
白(石宗利と穴山梅)雪

スマン。なんとなくやってみたが、この辺が限界だ。
400無名武将@お腹せっぷく