【黄巾党】 張角 専用スレ【党首】

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 「張角サマ。隣の男は?」
 我に返った張角は、質問した高昇の方を向いた。高昇の目には一目で分かるぐらい大きなくまができて
いた。
 「なあに?」
 「張角サマの隣に立っている男のことですよ。誰ですか。見慣れない奴ですが」
 そう言えば、すっかり忘れていた。この男の存在を。当の本人はそんなことにも動じず、仏像のように
瞑目していたのだが・・・。
 「私の隣にいるのは幽州たく郡たく県出身の劉備玄徳殿よ。彼は自宅がある?県からはるばるここまで
私に付き従ってくれたのです」
 高昇はいぶかしげに問いかえした。
 「その劉備という男と頴川までの九百里の道のりを一緒に歩いたというわけですか?」
 張角は黙って頷くと、交渉は半ば呆れたように言った。
 「どこぞの名前も知れない男とよく歩けましたね。張角様、もう少し行動を慎みなされ。これでも、あな
たは『太平道』の教祖なのですぞ。もし、あの男があなたを官憲にでも引き渡そうとしたらなんとするつもりだったのですか」
 張角は首を横に振った。
 「彼はそんなことする人ではないわ。実際、彼はここまで私を護りながら同行していたのですから」
 「しかし・・・」高昇はずっと心配していた。張角のことは少女時代から見てきている。彼女の父親がまだ生きていたころ、
もし自分が死んだら、そなたが目付け役として娘を見守ってくれまいかと懇願されたことがある。それから、まもなく父親が
亡くなり、彼女が『太平道』の教祖として、各地を回っているときも目付け役としてずっと一緒に行動していた。彼女は一回
りも歳が違う彼のことを「阿父(あふ)」といつからか呼ぶようになった。もちろん、公の場では臣下の立場から、高昇を名で
呼んでいたが。高昇も他の誰よりも主君として、また実の娘のように張角を愛した。それだけに今回のような幽州行きには
反対だった。幽州なんてほかの者に行かせればよかったのだ。もし、道中彼女の身によからぬことが起こるかもしれない
と思うと、夜も寝られない日が続いたのである。
 (親思う心に勝る親心か・・・)高昇はふっと苦笑いし、すぐに目の前に立っている劉備を睨みつけた。
 「貴様、『太平道』に入信したいからといって、その教祖に直にお願いをするとはいい根性しているではないか」
 ずっと口をへの字で結んでいた劉備が口を開いた。
 「何か勘違いしているのではないかな。いつ私が『太平道』に属したいと言った。私がここに
いるのは張角殿に見込まれてここに来たのだ。私は宗教に関心もたないし、これからも興味
を持つことはない」
 「『太平道』に興味がないだと。張角サマ、なんなんですかこの男は」高昇と劉備のやりとり
を聞いていた孫仲が顔を真赤にさせて怒った。
 「『太平道』とは、その呼び名のとおり、大平等という意味なのだろう。つまり、『太平道』は、
その社会を目指す集団ということになる。その考えはすばらしい。
 だが、実際は張角殿に忠誠を誓った豪族の集団となんら変わる事がない。私が以前、
張角殿にこのことを訊いたら。言葉に窮してしまったようだ。そんな矛盾を抱えた集団に
私は入ることはできない。私がここにいる理由は漢王朝の腐りきった政治を問いただす。
ただそれだけだ」