なっちの戯曲が戦国時代に飛ばされたら
関東地方のとある町。
21歳のフリーター・なっちの戯曲は、プロ作家デビューして天下を取ることを夢想していた。
なっちの戯曲は己の「才能」を世に知らしめるための踏み台に、巨大匿名掲示板群「2ちゃんねる」を選んだ。
しかし、彼の無知で独善的で無反省な言動とその「作品」に、住人たちは戸惑い、嘆き、憤るよりほかなかった。
時に愉快に、時に真摯に議論が行われていたコミュニティーは、たった一人の闖入者のために崩壊していったのである。
彼を信じようとしたものは裏切られた。心からの忠告は黙殺された。スレッドは混乱し、見るも無残に荒廃した。
とどまることを知らないなっちの戯曲の野望。誉められたい! 絶賛されたい! 「感動しました」って書いて欲しい!
僕の才能を認めない奴は荒しでオタクだ! こんなアホな板じゃなければ、僕のエンターティメントを認めてくれるはずだ!
かくして混迷は三戦板から時代劇板、SF板、創作文芸板にまでも及び、さらにその領域を広げようとしていた。
そしてついにその振る舞いは、世界の安寧と秩序を守護する「時空管理人」の怒りに触れてしまった。
2003年2月、なっちの戯曲はバイト帰りの夜道で、突如時空の歪みに巻きこまれた。
気がついた時彼は、群集に取り囲まれていた。髷を結い、粗末な着物を着た人々。
「利家とまつ」から抜け出してきたような人たちだな、とその時彼は思った。僕の周りに変な人たちが出てきたよ。
しかし、異界から現れた「変な人」は、彼の方であったのだ。
そこは1559年、織田信長が支配する尾張国清洲の城下。
なっちの戯曲は、安穏な21世紀から動乱の戦国時代へタイムスリップさせられてしまったのである……